屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
28 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

四章-2

しおりを挟む

   2

 できたばかりの《白翼騎士団》の駐屯地では、午後から剣技の訓練が行われていた。
 今は、レティシアとクロースが模擬戦をしているところだ。二人とも訓練時に着用する、革製の簡素な鎧を身につけて、木刀を構えていた。
 レティシアよりもクロースのほうが、頭一つ分だけ上背がある。高い位置からの振り下ろされた剣撃を軽くいなし、レティシアはクロースの脇腹に一撃を加えた。      


「そこまで!」


 審判役のセラが手を挙げると、レティシアは呆けたようなクロースから離れた。
 木刀を逆手に持ち替え、厳しい目を部下に向けた。


「大振り過ぎるぞ、クロース。剣を振るときは、もっと小さく振るんだ」


「……でも団長、それだと剣の勢いが足りなくなりませんか?」


「そこは、工夫次第だ。肩でなく肘で――」


 レティシアは木剣を両手で持つと、肘だけで頭部の周囲を廻すように木剣の切っ先を動かし、最後に肩を使って振り下ろした。
 目を瞬かせるクロースに、最後に「あとは勢いだ」と言い残して、次の対戦者を待つ。


「よ、よろしくおねがいします……」


 オドオドとしながら、ユーキが前に出てきた。
 セラが開始を合図しようとするのを手で制し、レティシアは深呼吸をした。これは、溜息の代わりである。


「そんなに怯えるな、ユーキ。腕は悪くないのだから、もっと自信を持て。そうだな……わたしのことは、ネズミとでも思えば良い」


「ね……ネズミ、怖いです……」


 ユーキの返答を聞いて、レティシアは我慢できずに溜息を吐いた。


「……とりあえず、来い」


 レティシアに言われ、ユーキは木剣を後ろに構えながら一息に間合いを詰めた。
 その素早さに虚を突かれたものの、次に来るべき斬撃がない。剣を振らないまま、ユーキはレティシアの横を通り過ぎようとしていた。


(まったく――)


 ユーキの背中に軽めの一撃を加えると、セラが呆れた顔で「そこまで」と終了を告げた。


「す、すいません、団長ぉ」


「いや。ユーキだけの責じゃない。もっと鍛える時間があれば良かったのだが……な」


 木剣をセラに手渡し、審判役をリリンに任せたレティシアは、汗を拭いながら丸太を縦に並べた外壁に凭れた。
 セラの手解きで、クロースが構えを直している。それを眺めていると、キャットが横に立った。
 視線を模擬戦に向けたまま、無言でいるキャットに問いかけた。


「どうした?」


「いえ。やはり、実力不足だと思っているのですか?」


「実力不足……か。今更な話題だな。そのことなら、もう悩み尽くした。だが……」


 それっきり押し黙ったレティシアに、キャットは質問を続けた。


「急に訓練を始めたのは、明日の監査に関係が?」


「……まあ、そんなところだ。ゴガルンは、《ダブルスキル》なんだが……その才のせいか、傲慢さが鼻につく男だ。なにを言ってくるか、想像がつかん」


「ああ、なるほど。間違いなく、あたしが嫌いそうなヤツってことですね」


 キャットの軽口に、レティシアは苦笑した。
 しかしすぐに真顔になると、訓練風景へと目を戻した。


「苦労をかけるかもしれんが、頼んだぞ」


「わかりました。できるだけ、我慢をしながらやってきますよ」


「ああ……」


 短く答えてから、レティシアは静かな溜息を吐いた。

   *

 夕方になり、俺が夕飯の準備をしているとドアがノックされた。


「こんな時間に誰だ……どちら様です!?」


 俺が大声で誰何すると、聞き覚えのある声が返ってきた。


「ランド君! クロースとリリン、あとユーキだよ!」


「え、ああ……ちょっと待ってな」


 俺がドアを開けた途端、クロースがリリンやユーキを左右に抱きかかえながら、家の中に飛び込んできた。走ってきたのか、かなり息が荒い。
 両脇に抱えられたリリンとユーキは、ほぼ目が点になっている。それは驚きより、ただ呆然としているように見えた。
 俺はとりあえず目の前の光景を忘れることにして、ここに来た理由を訊ねることにした。


「なにか用事だったか?」


「うん……そうなんだけど。休憩中に抜け出してきたから、簡潔に話すね」


 クロースは俺に答えてから、大きく深呼吸をした。


「あのね。明日、監査役が来るんだって。それで……もし、なにか暴力的というか、団長に不利なこととかあったら、助けて欲しいんだ。お願い!」


「お願いって言われてもな。レティシアは、このことを知ってるのか?」


「ランドさんに甘え……頼ることは、団長は知りません」


 抱きかかえられたまま、リリンは答えた。ああ、なるほど――俺を頼ることを思いついたのは、リリンか。
 そう思っていたら、今度はユーキが口を開いた。


「あ、あの……あたしが二人に相談したんですぅ。ランドさんを頼れないかって。そうしたら、二人とも協力してくれるって言ってくれて……」


 予想外の発案者だったけど、それはそれで、面白い展開だ――と、思ってしまった。あのユーキが、自分の意見を相談するとは、ちょっと成長が垣間見られて嬉しい。


「あたしたち、他に頼れる相手も知らないし。ランド君しかいないんだよ。だから、お願い!」


 クロースは二人を抱きかかえたまま頼んできたが……俺は腕を組んでから、三人娘を見回した。
 三人の願いを引き受けてやりたい、という気持ちはある。だけど、ただの村人である俺が関わるのは、完全に越権行為だ。
 ただ働きをすると、今後の商売にも関わるし……それ以前に越権行為になるが、それはまあ、どうとでもなるか。
 俺はしばらく考えてから、リリンたちに告げた。


「俺が身勝手に介入するわけにはいかないだろ。手伝い屋への依頼っていうなら、考えてもいい」


「依頼……え? お金……とるの?」


 どこか放心したようなクロースに、俺は頷いた。


「もちろん? この前の魔物討伐のときだって、依頼としてやってたろ。村の中で不公平感が出ると拙いからな。悪いけど、特別扱いはなしだ。依頼料は半日なら六コパル。一日なら十二コパルな」


 俺の返答にきょとんとした直後、クロースは俺に迫ってきた。


「わかった……払う! 二〇でも三〇でも払うから!」


「いや、規定料金以外は、必要経費だけでいいから。でも、なんでそこまでするんだよ。騎士団っていっても、雇われ騎士なんだろ?」


 俺の問いに、三人は互いに顔を見合わせた。
 最初に口を開いたのは、リリンだ。


「わたしたちは……団長に恩義があります。騎士団の皆は大小、形こそは違いますが、それぞれの家で、不要な者でした。それを救ってくれたのが、レティシア団長なんです。この騎士団は、わたしたちにとって、大事な居場所なんです」


 リリンの言葉に、クロースやユーキもウンウンと頷く。
 俺は訓練生時代のことを思い出しながら、頭を掻いた。


「なるほど、レティシアらしいっちゃらしいか……わかったよ。この依頼は受ける。ただ、俺は手伝いだからな。基本的な対応はそっちで頼む。魔術の使えるリリンはいいとして……ユーキ、おまえはどこまで戦える?」


「ひゃい? あ、あたしは戦いは怖くて……」


「ユーキは、ちょっと臆病なんだけど、剣技は団員の中でピカイチなんだよ。ただ、まあこの性格だから」


 クロースの説明を聞きながら、俺は少し考えた。


「よし、ユーキ。おまえ、人が一人だけ入れる穴とか作れるか?」


「ひぇ!? あ、あの……で、できると思います」


「それじゃあ、狙ったタイミングで、狙った場所に作れるよう練習しておいてくれ。クロースは……最悪の場合を考えて、村で山羊とか牛を飼っている人たちに声をかけておけ」


「声を……あ、わかった。けど……あまり危険なことはさせたくないなぁ」


「もちろん。だけど最悪の場合は、手段なんか選んでられないからな」


 それじゃあ解散――と言おうとしたとき、俺の背後から衣擦れの音が聞こえてきた。
 いつの間に来ていたのか、瑠胡がテーブルのところにいた。


「其奴らの頼みを受けるか、ランド」


「えっと……ええ、まあ。依頼ですしね」


「ほう、そうか」


 瑠胡は意味ありげに微笑むと、クロースやリリンたちを見た。
 三人娘がほぼ同時に頷くと、瑠胡も無言で頷いた。そんな彼女たちの行動が、どこか秘密めいたものに見えて、俺としては首を傾げるしかなかった。


「えっと……姫様、騎士団の子たちと、なにかあったんですか?」


「うん? ああ……おなごしか通じぬ、符丁のようなものでの。気にするでない」


「はあ……そうですか」


 なんだか、はぐらかされた気がするけど……微笑み合う瑠胡や騎士団の三人娘の様子に、俺は追求する気が失せていった。

 ……まあ、いいか。

 とりあえず、今は明日のことを考えたい。でも、その前に飯の準備だ。
 俺は三人娘を帰すと、夕食の準備に戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...