屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
20 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

三章-2

しおりを挟む

   2

 昼前になると、俺は大慌てで家に戻った。
 村の人々――村長のデモスさんまでもが、大慌てで伝えてくれたんだが――その内容は、大雑把に分類して三つほど。それは俺の家の前にドラゴンが降り立ったこと、その姿が忽然と消えたこと、それが立て続けに三回も起きたこと――だった。
 ドラゴンといえば、瑠胡の関係者――いや関係竜? とにかく、そっち絡みなのは間違いがないだろう。
 俺が家のドアノブに手を伸ばしかけたとき、ドアが勝手に開いた。


「おっと?」


 中から出てきたのは、青黒い髪色をした二人の男だった。
 前合わせの衣は薄い水色で、腰から下は裾の広い衣を履いていた。足首から下は親指だけが分かれた白い袋を履き、靴の代わりに履いているのは、紐だけを指に挟んだ木製のサンダルっぽい履き物だ。
 顔は双子ではなさそうだけど、良く似ていた。平たい顔つきで、目が細い。髪は前を剃っているのか毛は無く、後頭部から頭頂部の範囲で縛っていた。
 その二人を外に出してから、俺は家の中に入った。
 すぐ目の前に、赤い髪の美女が居た。白銀の鎧に身を包んだ彼女は、俺に気づくと軽い会釈をしてきた。


「この家の主とお見受け致す。わたくしは沙羅。瑠胡姫様の従者です。姫様のこと……どうか、よろしく、お願い、申し上げます」


 慇懃に頭を下げてきたけど、親の仇を睨むような顔をされてもなぁ。
 なんか、その、対応に困る。


「沙羅、そのような顔はやめよ。妾に恥をかかせるでない。あと元に戻る際は、村から離れからにせよ」


「は――」


 瑠胡に窘められ、沙羅は表情を正した。改めて澄まし顔で頭を下げてきたけど……歯ぎしりが凄い。
 無理してるわぁ……と思っているあいだに、沙羅は家から出て行った。
 俺はそっとドアを閉めてから、瑠胡に向き直った。


「えっと、荷物を持ってくるって話でしたけど。まさか、彼女たちもドラゴンなんですか?」


「左様。今朝、話をしたばかりであろう?」


「ええ、まあ。ただ、ドラゴンの姿で来るってのは、ちょっと予想外でしたので。村の人が驚いたみたいなので、出来れば村に直接来るのは、遠慮願いたいな……と」


「ふむ。妾もそう思って、沙羅たちにはすでに同様のことを伝えてある。今回は堪忍しておくれ」


 予想以上に、瑠胡は素直に謝ってきた。
 まあ……それなら、いいか。村長さんには、俺から伝えておこう。気を取り直すと、俺は周囲を見回しながら、瑠胡に訊いた。


「ところで、なにを運んだんですか?」


「ああ、妾の家具をな。見に来るか?」


「えっと……見ても良いなら、是非」


 曖昧に承諾した俺は、瑠胡とともに瑠胡の部屋に入った。
 室内は、今朝までのものと一変していた。
 ベッドは二つ横並びになったように広く、しかも天井ギリギリまである天蓋に覆われていた。金色の模様の描かれた棚が並び、丸い鏡は瑠胡の背ほどもある。
 衣を掛けるという台も三つあり、その二つには白と赤色の衣が掛けられていた。棚の上には、十数冊の書籍が置かれていた。
 床には絨毯ではないが、複雑に模様の編み込まれた敷物。壁には飾り布で彩られていた。
 かなりの量の家具が入っているけど……床、大丈夫だろうか?
 驚きの余りに思考が停止しかけた俺は、かなりの苦労を要して瑠胡に問いかけた。


「あの、元のベッドは?」


「ああ、それなら妾のものと並べておる。柵がない故に、寝転ぶのに支障はない」


 ああ、そっか。それなら一安心……じゃなくて。
 俺は溜息を吐くと、改めて部屋の中を見回した。


「また……盛大に入れましたね」


「ふむ。最低限ではあるがの。これ以上は、少々床に不安があった故、運ぶのを諦めることにした」


「それは……どうも」


 一応、家の強度とか考えてくれたのか。
 まあいいか――俺は半ば、諦めに似た気持ちになっていた。


「それじゃあ、俺は仕事に戻ります」


「うむ。妾は、魔術を思い出しながら暇を潰すことにする」


 そう言って、瑠胡は棚に置かれた本に手を伸ばした。あれが竜語魔術の魔術書らしいが、二冊ほど手にした瑠胡は、なにかを思いついたように俺へと向き直った。


「そういえば、妾の魔術を奪ってから、なんの修行もしておらぬの。夕食のあとにでも、妾が魔術の手解きをしてやろう。それと、ドラゴンの言語も教えてやらねばな」


「え? あの……いいんですか? 俺に魔術のことを教えちゃって」


「構わぬ。お主は破壊の魔術を奪取したのだろう? あれは元々、護身のためのもの。妾の身を護れるよう、お主を鍛える。そのことに、なんの躊躇ためらいがあろうか」


 魔術を奪ったことを言われると、流石に罪悪感が生まれる。
 もしかしたら厳しい修行で、憂さを晴らす腹づもりなんだろうか? 嫌われている相手との共同生活っていうのも、中々に楽じゃない……って可能性は、覚悟しておこう。
 とにかく、ここは大人しく従ったほうがいい。


「そういうことなら。えっと、お手柔らかにお願いします」


「ふむ。妾は優しいでな。分かり易く教授してやろう。なんなら、そのままここで寝てもよいぞ? 一人で使うには、この寝床は広すぎるでな」


 突然の誘いに、俺は咽せそうになった。
 なんかもう。こうやってからかうのは、やめてもらいたい。


「いやあの、前も言いましたけど。この辺りでは、婚姻前のそういった行為は、かなり嫌悪されますから」


 力のない微笑みを浮かべながら答えてから、俺は聞き流しかけた瑠胡の発言に目を丸くした。


「あの……修行って、この部屋でやるんですか?」


「左様。座学だけなら、室内でも良かろう?」


「あ、いえ、その。てっきり、一階でやるって思ってましたから」


「階段での往復は面倒でのぅ。ここのほうが良い」


 ……ああ、なるほど。
 そういう理由があるなら、別にいいか。俺はそのあたりをテキトーに承諾すると、仕事に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...