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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
三章-2
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昼前になると、俺は大慌てで家に戻った。
村の人々――村長のデモスさんまでもが、大慌てで伝えてくれたんだが――その内容は、大雑把に分類して三つほど。それは俺の家の前にドラゴンが降り立ったこと、その姿が忽然と消えたこと、それが立て続けに三回も起きたこと――だった。
ドラゴンといえば、瑠胡の関係者――いや関係竜? とにかく、そっち絡みなのは間違いがないだろう。
俺が家のドアノブに手を伸ばしかけたとき、ドアが勝手に開いた。
「おっと?」
中から出てきたのは、青黒い髪色をした二人の男だった。
前合わせの衣は薄い水色で、腰から下は裾の広い衣を履いていた。足首から下は親指だけが分かれた白い袋を履き、靴の代わりに履いているのは、紐だけを指に挟んだ木製のサンダルっぽい履き物だ。
顔は双子ではなさそうだけど、良く似ていた。平たい顔つきで、目が細い。髪は前を剃っているのか毛は無く、後頭部から頭頂部の範囲で縛っていた。
その二人を外に出してから、俺は家の中に入った。
すぐ目の前に、赤い髪の美女が居た。白銀の鎧に身を包んだ彼女は、俺に気づくと軽い会釈をしてきた。
「この家の主とお見受け致す。わたくしは沙羅。瑠胡姫様の従者です。姫様のこと……どうか、よろしく、お願い、申し上げます」
慇懃に頭を下げてきたけど、親の仇を睨むような顔をされてもなぁ。
なんか、その、対応に困る。
「沙羅、そのような顔はやめよ。妾に恥をかかせるでない。あと元に戻る際は、村から離れからにせよ」
「は――」
瑠胡に窘められ、沙羅は表情を正した。改めて澄まし顔で頭を下げてきたけど……歯ぎしりが凄い。
無理してるわぁ……と思っているあいだに、沙羅は家から出て行った。
俺はそっとドアを閉めてから、瑠胡に向き直った。
「えっと、荷物を持ってくるって話でしたけど。まさか、彼女たちもドラゴンなんですか?」
「左様。今朝、話をしたばかりであろう?」
「ええ、まあ。ただ、ドラゴンの姿で来るってのは、ちょっと予想外でしたので。村の人が驚いたみたいなので、出来れば村に直接来るのは、遠慮願いたいな……と」
「ふむ。妾もそう思って、沙羅たちにはすでに同様のことを伝えてある。今回は堪忍しておくれ」
予想以上に、瑠胡は素直に謝ってきた。
まあ……それなら、いいか。村長さんには、俺から伝えておこう。気を取り直すと、俺は周囲を見回しながら、瑠胡に訊いた。
「ところで、なにを運んだんですか?」
「ああ、妾の家具をな。見に来るか?」
「えっと……見ても良いなら、是非」
曖昧に承諾した俺は、瑠胡とともに瑠胡の部屋に入った。
室内は、今朝までのものと一変していた。
ベッドは二つ横並びになったように広く、しかも天井ギリギリまである天蓋に覆われていた。金色の模様の描かれた棚が並び、丸い鏡は瑠胡の背ほどもある。
衣を掛けるという台も三つあり、その二つには白と赤色の衣が掛けられていた。棚の上には、十数冊の書籍が置かれていた。
床には絨毯ではないが、複雑に模様の編み込まれた敷物。壁には飾り布で彩られていた。
かなりの量の家具が入っているけど……床、大丈夫だろうか?
驚きの余りに思考が停止しかけた俺は、かなりの苦労を要して瑠胡に問いかけた。
「あの、元のベッドは?」
「ああ、それなら妾のものと並べておる。柵がない故に、寝転ぶのに支障はない」
ああ、そっか。それなら一安心……じゃなくて。
俺は溜息を吐くと、改めて部屋の中を見回した。
「また……盛大に入れましたね」
「ふむ。最低限ではあるがの。これ以上は、少々床に不安があった故、運ぶのを諦めることにした」
「それは……どうも」
一応、家の強度とか考えてくれたのか。
まあいいか――俺は半ば、諦めに似た気持ちになっていた。
「それじゃあ、俺は仕事に戻ります」
「うむ。妾は、魔術を思い出しながら暇を潰すことにする」
そう言って、瑠胡は棚に置かれた本に手を伸ばした。あれが竜語魔術の魔術書らしいが、二冊ほど手にした瑠胡は、なにかを思いついたように俺へと向き直った。
「そういえば、妾の魔術を奪ってから、なんの修行もしておらぬの。夕食のあとにでも、妾が魔術の手解きをしてやろう。それと、ドラゴンの言語も教えてやらねばな」
「え? あの……いいんですか? 俺に魔術のことを教えちゃって」
「構わぬ。お主は破壊の魔術を奪取したのだろう? あれは元々、護身のためのもの。妾の身を護れるよう、お主を鍛える。そのことに、なんの躊躇があろうか」
魔術を奪ったことを言われると、流石に罪悪感が生まれる。
もしかしたら厳しい修行で、憂さを晴らす腹づもりなんだろうか? 嫌われている相手との共同生活っていうのも、中々に楽じゃない……って可能性は、覚悟しておこう。
とにかく、ここは大人しく従ったほうがいい。
「そういうことなら。えっと、お手柔らかにお願いします」
「ふむ。妾は優しいでな。分かり易く教授してやろう。なんなら、そのままここで寝てもよいぞ? 一人で使うには、この寝床は広すぎるでな」
突然の誘いに、俺は咽せそうになった。
なんかもう。こうやってからかうのは、やめてもらいたい。
「いやあの、前も言いましたけど。この辺りでは、婚姻前のそういった行為は、かなり嫌悪されますから」
力のない微笑みを浮かべながら答えてから、俺は聞き流しかけた瑠胡の発言に目を丸くした。
「あの……修行って、この部屋でやるんですか?」
「左様。座学だけなら、室内でも良かろう?」
「あ、いえ、その。てっきり、一階でやるって思ってましたから」
「階段での往復は面倒でのぅ。ここのほうが良い」
……ああ、なるほど。
そういう理由があるなら、別にいいか。俺はそのあたりをテキトーに承諾すると、仕事に戻ることにした。
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