屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
17 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

二章-8

しおりを挟む

   8

 レティシアたち《白翼騎士団》は、あと二時間足らずで出発だという。その時間は俺も仕事が入っているから、出立のときの見送りはできない。
 俺と瑠胡が村を囲う柵の外周に沿って家に戻る途中、牛舎や羊舎の並ぶ横を通った。


「一の子君、元気でね。二の子君も、食べ過ぎちゃだめだよ。あ、三の子ちゃん、涎が垂れちゃってるよ」


 聞き覚えのある少女の声に、俺は羊舎へと目を向けた。
 羊舎の中で、クロースが羊の一頭一頭に声をかけている。その表情は楽しげで、騎士団として戦いに赴いたときより、活き活きとしていた。
 俺や瑠胡が羊舎を覗いていることに気づいたのか、クロースが苦笑いをしながら近づいて来た。


「やあ、ランド君。ええっと……お姫様も、おはようございます!」


「ああ。おはようさん」


「うむ。お主もはやいの」


 俺と瑠胡が挨拶を返すと、クロースは「あはは……」っていう笑みを零した。


「変なところを見られちゃったねぇ」


「クロース、もしかして家畜の世話を手伝ってたのか?」


「うん……ほら、あたしは牛とか羊の声とか聞こえるし。動物とか好きだしね。世話をするのは、友だちと会うみたいで楽しいよ。また立ち寄ったときに、会えたらいいんだけど」


 クロースは楽しげに話すけど……真実を知るのは酷かもしれないな。
 俺がそんなことを考えていると、瑠胡が怪訝そうに口を開いた。


「そうは言うが、ここは食すための家畜ではないのか? そんな話も聞いたが」


「姫様……それは言わない約束というかですね」


 こめかみを片手で抑えた俺の前では、クロースが表情を強ばらせていた。
 俺や瑠胡に顔を戻すと、あからさまに空元気な笑顔をみせた。


「あ……あ、あはは……うん。わかってはいるんだけど……どうしてもね」


「まあ、気持ちはわかるけどな。でも……そうしないと、村が飢えるからさ。ミルクだけじゃ、限界もあるし」


「うん……だから、わかってる」


 少し目を伏せたクロースに、俺は次の言葉に迷った。ドラゴンであるが故に、人の感情というのに疎いのはわかるけど……瑠胡のひと言で気まずくなってしまった。
 なんとかしたいけど、動物と意思疎通ができるクロースの気持ちは、俺には未知の世界だ。
 どうしようか――と迷っていると、瑠胡が柵へと一歩近寄った。


「……妾も少しなら、動物の意志は理解できる」


「え?」


 瑠胡の言葉が意外だったのか、クロースは顔を上げた。


「そうなの……あ、いえ、そうなんですか?」


「無論――と言うても、ドラゴンの姿のときに限られるが。それでも、妾は生きるために動物を食す。お主も肉料理――というのは食すのであろう?」


「それは……だから、家畜に情を抱くなってこと……?」


 ぎこちないクロースの質問に、瑠胡は「そうではない」と言い返した。


「ほかの種に情を移すのは、よくあること故にな。悪いことではない。ただし――行き過ぎれば、己の命を縮める可能性があるのだぞ? 普段は大人しい動物とて、ときには牙を剥くときもある」


 なにごともほどほどにな――そう告げる瑠胡に、クロースは瞬きを繰り返した。
 しばらくボーッとした顔をしていたけど、なにかに気付いたように、ハッと目を見広げた。

「あの……もしかして、元気づけようとしてくれてるんですか?」


「妾のひと言で、気分の害したように見えたのでな。妾とて、無闇に他者を傷つけようとは思わぬ」


 まさか、瑠胡が他人を慰めるとは思ってもみなかった。こうした協調性があると知れたのは、大きな収穫かもしれない。
 瑠胡のひと言に、俺はクロースへ苦笑いを浮かべた。


「だそうなんで、怒らないでやってくれよ。人間だって事故や病気で、明日も会えるかわからないんだし」


 俺が冗談めかしたように言うと、クロースは「ぷっ」と吹き出した。


「……お姫様、ありがとうございます。ランド君も、ありがと」


「俺は、なにもしてないけどな」


「そんなことないよ。ありがとね」


 クロースは俺たちに微笑んだあと、深呼吸をした。それから瑠胡に一礼をすると、羊舎へと向き直った。
 最後に俺に手を振って、クロースは立ち去ろうとした。


「クロース、また羊舎に行くのか?」


「うん! とりあえず、全部の子に声をかけておきたいからね」


 ニカッと笑ったクロースは、羊舎へと入って行った。


「まったく。さっきの話、本当にわかったのかよ」


「あやつなりに、悔いを残さぬようにしたいのであろう。好きにやらせてやれ。それより、朝餉を食したい――とは、思わぬか?」


「ああ、そういえばそうですね。用も済んでるし、帰りましょうか」


 俺と瑠胡は並んで、家へと向かい始めた。
 その途中で、俺は先ほどのやり取りのことを思い出した。原因はともかく、場を収めたのは瑠胡の功績だった。
 俺は頬を掻きながら、瑠胡をチラ見した。


「姫様。クロースのこと、ありがとうございました。正直、どう宥めようか悩んでて」


「礼には及ばぬ。妾の言の葉で気分を害したようだしの。少しは汚名返上をせねばな」


 少しだけ自慢げな顔をした瑠胡に、俺は笑みを隠しながら頷いた。
 俺が想定していたより、人と上手くやっていこうと思ってくれている。これなら、村での生活に馴染めそうだ。


「汚名なんかとんでもない。助かりました」


 このとき、俺は微笑んでいたらしい。瑠胡は僅かに目を細めながら、袖口で口元を隠した。
 どことなく和んだ雰囲気に、俺は気を緩めてしまった。そのせいか、瑠胡の肩が右腕に触れるまで近寄っていたことに、俺はまったく気づけなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...