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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
二章-7
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早朝、俺は散歩ついでに騎士団の泊まる宿へと向かっていた。
日の出から、そこそこ時間が経っている。空も随分と明るくなってきたことだし、この時間なら起きているヤツもいるだろう。
出発の準備をしているのか、何人かの従者が馬の世話をしていた。並んでいる馬車を眺めながら歩いていると、レティシアが宿から出て来るのを見かけた。
レティシアは俺に気づくと、小走りに駆け寄ってきた。
「ランド、どうした?」
「騎士団の隊員の件で、ちょっと話がある。あの姫様に、変なことを吹き込むのは止めてくれ。心臓が止まると思った」
「……なにがあった?」
俺が事情を説明すると、レティシアは複雑な顔をした。呆れと後悔など――数種類が入り交じっているような顔だ。
レティシアは大きく息を吐いてから、俺に頷いた。
「承知した……リリンには、わたしから言っておく」
「頼む。マジで心臓に悪い」
俺の返答に、レティシアは睨むような視線を送ってきた。
「……しかし、やけにドラゴンの姫君を気にかけてるじゃない。下心でもあるわけ?」
「馬鹿言うな。いつまでになるかは知らないけど、これから共同生活を送るんだぜ? なるべく平穏に過ごしたいだけだ」
なにを気にしているかは知らないが、少しばかり言い方に毒がある。
俺が問い詰めようとしたとき、背後からこの地方ではあまり聞けない、木靴のような足音が近づいて来た。
噂をしていたら背後に目――というわけではないが。振り返ると、今しがた話題にあがっていた瑠胡が、俺のほうへと歩いているのが見えた。
俺が出るときには、まだ寝ていたと思っていたけど……いつの間に? 驚く俺に小さく微笑んでから、瑠胡はレティシアの前に立った。
「ランド――すまぬが、少し外して欲しい。妾は、この者と話がある」
「え? ええっと……喧嘩とかじゃないですよね?」
「そんな心配などせずともよい。ただ、話をするだけだ」
そう言って、瑠胡は微笑んだ。
心配するなということならと、俺はレティシアに小さく手を挙げてから、二人の会話が聞こえない位置まで離れた。
「さて、これで良いか?」
ランドが離れるのを見てから、瑠胡はレティシアに向き直った。
レティシアは腕を組んだままの姿勢で、憮然とした顔をした。
「それで、話とはなんでしょう」
「ん? お主のほうから、妾に話があると思うておったのだがな。聞きたいこと、納得のいかぬことがあるのであろう?」
瑠胡は、レティシアに顎で話を促した。それは挑発ともとれる行為だったが、レティシアは柳眉を吊り上げたものの、怒りを露わにはしなかった。
一挙一動も見逃さぬ、そんな瑠胡の視線を真っ向から受け止めたレティシアは、固い表情のまま口を開いた。
「なら、訊かせて頂きます。あなたはランドに魔術の技を盗られ、負けた。それなのに、怨みを抱くでもなく、『選んで欲しい』とか……そんな言葉を信じられると思って?」
「信じる信じまいは、お主の勝手であろう? 昨日の話は、事実しか話しておらぬ。それに、あのとき――妾はランドを殺すつもりで戦っておった。いわば殺し合いをしておったのに、魔術を奪われた程度で、卑怯もあるまいに。
それでランドを恨むのは、筋違いというものよ」
瑠胡の返答に、レティシアは面食らった顔をした。《スキル》に対する認識が根底から異なる考えに、気を落ち着かせるように深く息を吸った。
「馬鹿な――ランドの〈スキルドレイン〉は神から与えられた《スキル》を奪う力だ。あなたはあれを、邪な力だと思っていないというのか?」
レティシアの問いに、瑠胡は小さく笑った。
「なるほど。人たちは、神が《スキル》を与えていると考えておるのか。まったく馬鹿馬鹿しい。神とて、そこまで暇ではなかろうに。ランドやおまえたちが使った力……《スキル》と呼んでいるようだが、その正体は魔力が変異したものぞ?」
瑠胡の言葉に、レティシアは表情を強ばらせた。
今の言葉は、王都における主神――国教である万物の神、アムラダの教えに反するものだ。これが公になれば、査問会が動くだろう。
しかし、そんなことは知らないのか、瑠胡はなんの躊躇いもなく、話を続けた。
「魔力は、ある程度の規則性はあるが、とても変化しやすい存在での。微細なことで、状態を変化させてしまう。例えば……呪文などという言葉の力程度で、魔術へと形を変えるのが良い例といえる。
それは生き物でも同じこと。個々に宿る魔力は、その中で姿を変える。それが、お主らが《スキル》と呼ぶものの正体。神や悪魔など……まったく関係のないこと。
それに、お主らのいう《スキル》なら妾にもある。人間の特権などではないぞ」
「なん……と?」
瑠胡の発した内容に、レティシアは愕然とした。
それは、これまでレティシア――いや、インムナーマ王国だけでなくタムール大陸に住む、すべての人々の価値観を覆すものだった。
「な、なら、ランドの《スキル》はどう説明する? 相手の《スキル》を奪うなど……」
「奪うのは《スキル》だけではないようだぞ? 妾の魔術とて、《スキル》ではないからのぅ。世間話として聞いたが、あやつは〈スキルドレイン〉で、村人たちから技術を貰っておったらしい。農作業や料理……それらの一部を貰っておるようだ」
瑠胡の言葉に、レティシアは声を失った。
自分の知らないランドを、瑠胡が知っているという現実。そのことが、素直にショックだった。
半ば呆然としているレティシアに、瑠胡は少し目を細めながら話を続けた。
「〈スキルドレイン〉を使う際、ランドの頭の中に相手の《スキル》や技術が文字となって浮かぶと言っておった。恐らくは脳が、相手から得た情報を文字に変換しておるのだろうな」
「情報? それは、なんのことを言っているのです?」
「相手の《スキル》を形成する魔力、そして脳が経験した技術に関すること――であろう。もちろん、推測でしかないがの。ランドの〈スキルドレイン〉は、それらの情報を吸収する力なのだろう。しかし、お主らの国は惜しいことをしたのう」
「なんのこと……です?」
「無論、ランドのことに決まっておろう。先の戦い――あやつは二つの《スキル》を同時に――融合的に使いおった。そして、竜語魔術だ。あの光の破壊はな、人間の魔力では扱いきれぬ代物のはず。光の破壊を妾に放ったあとの疲弊した様子、そしてそのあとの回復具合を見るに、魔力の超回復も備えているはず。
あえて名を付けるなら、〈スキル融合使用〉と〈魔力超回復〉――生まれつき、それらも持っておったのだろう」
「〈スキル融合使用〉に〈魔力超回復〉……まさか、《トリプルスキル》だった……と?」
「左様。数百、数千……いや、数千万分の一の逸材やもしれん。まあ、お主らの国には感謝しておる。〈スキルドレイン〉が邪悪だと決めつけたおかげで、妾はランドに出会えた。言っておくが、妾は決して諦めぬぞ?」
これで話は終わりだと言わんばかりに、瑠胡は踵を返した。そして目を見開いたまま立ち尽くしたレティシアを置いて、ランドがいる場所へと歩き出した。
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