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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
二章-4
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レティシアは騎士団が借りている宿の部屋で、セラと明日の段取りを調整していた。
天竜族の姫を名乗る瑠胡のこともあり、領主の住む城下町、城塞都市ファルースへの帰還は明後日の朝に順延している。
「……つくづく、怪我人がいないことか有り難いです」
「そうね。明日は整備と……あの瑠胡というドラゴンの家具とか着替え、本当にこちらで準備するのかしら?」
帳簿のチェックをしていたセラは、レティシアが椅子の背もたれに凭れかかるのを見て、困ったような顔をしつつも口元を綻ばせた。
「……気に入りませんか? 家具がどうのより、ランドとドラゴンの姫がともに暮らすことが」
セラの発言に、レティシアはたじろいだ。勢いよく脚を伸ばしたせいで姿勢を崩したが、机の縁に手をついて、なんとか転ばないように堪えた。
わなわなと口を振るわせながら椅子に座り直すと、レティシアは汗を流しつつ平静を装うとした。
「なんで、気に入らないって言い方をする。わたしはただ……ランドも男だし、あの瑠胡という娘に、よからぬことをしないか心配なだけだ。言っておくが、わたしはランドに惚れてはいない。友情は感じているが、それだけだ」
「そうなんですか? なら、なぜランドに魔物討伐など手伝わせたのです? しかも領地の兵への推薦までして」
「それは、贖罪のようなものだ。結果的に、わたしの判断が、ランドを王都から追放させてしまったわけだからな」
そこで溜息を吐いてから、レティシアは言葉を続けた。
「それに、今のランドは前と変わってしまった。士官に興味がないなんて、前のあいつなら、絶対に言わなかったのに。性格も丸くなりすぎだ」
「見ている分には、悪いことではないと思いますが」
「問題だらけだ――」
レティシアが嘆息したとき、ドアが軽くノックされた。
レティシアはセラと目配せをしてから、姿勢を正した。
「誰か」
「――キャットです」
「ああ……入ってくれ。鍵は開けてある」
レティシアが声をかけると、ドアが開いてキャットが入って来た。
赤茶けた髪を短髪に切り揃えた美女――今は騎士団の鎧ではなく、肌の露出の無い、身体のラインが出ている黒の上下を着ていた。
キャットが両手を後ろに回すと、レティシアは平静を装った。
「それで、どうだった?」
「どうもこうも……二人してカードで遊んでから、ベッドでおねんねしています。ちゃんと見てはいませんが、ランドがドラゴン女に、膝枕をしているみたいですけど」
「膝枕……まったく、なにをやっているのやら。本当にあの娘と、ここでの暮らしを続けるつもりなのか?」
レティシアを見て、キャットは少し考えてから、ベッドに腰掛けているセラに目配せをした。
(これは、どういう状態です?)
(……見ての通り。あとは、想像に任せる)
セラが小さく肩を竦めると、キャットはレティシアへと向き直った。
表情や手の仕草――そういったものを順に確認していきながら、キャットは状況を把握しようとした。
(嫉妬に後悔? いや、落胆かな。ああ、なるほど。ランドが士官の道より、ドラゴン女との生活を選んだのが悔しい……という顔か)
キャットは表情を変えぬまま、レティシアの感情を読み取った。とはいえ、《スキル》によるものではない。騎士団に入る前の稼業で、培ってきた技である。
澄まし顔を崩さぬキャットに、ようやく我に返ったレティシアは咳払いをした。
「その……なんだ。監視任務、ご苦労だった。奴らに気取られてはいないな?」
「……多分。あたしの〈隠行〉は、足音のほとんどを消せますから。盗賊稼業だったときでも、潜入は得意でしたし」
キャットという名前も、本名ではない。
盗みに入った先で仲間に裏切られ、キャットは衛兵に囚われた。牢に入れられたキャットは、レティシアに誘われて騎士団に入団したという、特異な経歴の持ち主だった。
レティシアへの恩義はあるが、正義感に目覚めたわけではない。それに領地や国への忠義や責任感も皆無だ。
(ほかの面子だって、似たようなものだと思うけどね)
キャットが胸中で肩を竦めていると、レティシアはホッとしたような顔をした。
「……そうか。ならいい。今日はご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」
「――はい」
キャットはレティシアに一礼すると、部屋から出て行った。
*
別の部屋では、リリンとユーキ、そしてクロースがくつろいでいた。
ユーキがベッドの横に置いた荷物を整理していると、クロースが覗き込んできた。
「およ? 村を出るのは、明後日じゃなかったけ?」
「え? ああ、はい。その……なにかをしてないと、落ち着かなくて……」
「分かる気がするよ、それ。手持ちぶさただもんね。あたしもさあ、動物の世話とかしてないと、心配になっちゃうんだよね」
あはは――と笑ったとき、ふと夜風が頬を撫でた。
窓が開いてることに気づいたクロースが振り返ると、リリンが雨戸を開けて外を見ていた。暇さえあれば魔道書を読んでいるか、帳簿の処理をしているのに、ぼんやりと景色を眺めているのは珍しい。
燭台に火を灯しているから、外から虫が入ってくる――そう思ったクロースだったが、リリンの横で焚かれた香木に気づいた。
「虫除けまで焚いて、なにを見てるの?」
クロースが窓を覗き込むと、暗くなった村の向こう側にある斜面に、ランドの家が見えた。もう明かりは消えていることから、ランドたちは就寝しているらしい。
ランドの家とリリンの顔とを交互に見たクロースは、口元をにやけさせた。
「ピンときた! ねぇリリン。ランド君に恋? 恋なの?」
「え!? 嘘! ホントホント?」
ユーキも興味津々といった顔で、クロースの横に並んだ。騎士団に入団したとはいえ、こういうところは、まだまだ年頃の少女たちだ。
二人の仲間に好奇の目を向けられ、リリンは少しだけ顔を背けた。
「恋……とか、わかりません。ただ、ランドさんは、わたしを見つけた……見つけることのできる人なんです。それで、興味を持ったのは事実です。それに、なんでドラゴンと一緒に暮らすなんて言ったのか。それを考えると、気になって胸の奥に違和感が」
「それって恋、だと思うんだけどなぁ。あのドラゴンの女の子に嫉妬……してるんじゃない?」
首を傾げるユーキに、リリンは無言で首を振った。
「やはり、わかりません」
ユーリはクロースと顔を見合わせながら、期待した話ができないことを残念がった。
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