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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
二章-2
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この日の夜、旅籠屋《月麦の穂亭》では、宴が催された。
どうやら村長が、帰還した騎士団のために開いたものだが、村民らも招かれていた。それだけ盛大に――と言いたいところだが、まあなんだ。
辺境に近い村で催される宴なんて、王都や大きな街などと比べると、ささやかなものだ。
それでも、村人たちは大喜びで酒を飲み、飯を食べていた。
「魔物のとーばつぅ、おっめでろぉ!」
呂律の回っていない、完全に酔っ払った村人の誰かの声が、俺の席まで聞こえてきた。
折角のタダ飯ということで、俺も参加したんだけど。正直、末席――隅っこの席で良かったんだけどな。協力者ということで祭り上げられ、なぜかレティシアたち騎士団の近くに座らされていた。
右隣がリリンなのが、唯一の救いかもしれない。なんというか……その、一番無難な気がするし。
酔っ払っちゃえば楽なんだろうけど……下戸だからな、俺。エールどころか、果実酒一口で顔が真っ赤になるから、あまり酒類は飲みたくない。
左には、襟元にナプキンをした瑠胡が座っていた。
慣れないナイフとフォークで、瑠胡は山羊肉を切り分けていた。その顔に、痛みを我慢する気配があった。
瑠胡の表情に不安を覚えた俺は、食事の手を止めた。
「姫様、どこか痛いですか?」
「右肩が……少し」
少し言いにくそうに、瑠胡は答えた。そこは瑠胡がドラゴンの姿をしていたときに、俺が奪った魔術で攻撃を加えた場所だ。
俺はバツの悪さを覚えながら、瑠胡の傷を案じた。
「えっと……腕が痛いなら、片手で食べられる食事のほうが、よかったりします?」
「……痛みは、我慢できぬほどではない。しかし、そうよのう……痛みを我慢せずに、食事を摂る手段はある。それでもよいか?」
「ええ、まあ。そういうのがあれば、別に構いませんけど」
「そうか。ではランド、手伝っておくれ」
「それは……いいですけど」
俺が了承すると、瑠胡は俺に小さく開けた口を向けてきた。
……え?
…………えっ?
「ほれ。はやく食べさせておくれ」
俺が戸惑っていると、瑠胡はどこか楽しんでいるような顔で催促してきた。
手伝いって……こういうことだったのか。俺は山羊の肉を切り分けながら、赤面していくのがわかった。
こんなこと、まったくの予想外だ。
俺は――瑠胡に嫌われていると思ってるんだけどな。
生死を賭けて戦っていたにせよ。俺は〈スキルドレイン〉で、瑠胡の魔術の一部を奪ったんだ。生き延びるため、そして話し合いをするためだったにせよ、恨まれて当然のことをしたと思っている。
だからこそ――この瑠胡の行為に、俺は困惑していた。
もしかしたら、これも嫌がらせの一種かもしれないな。
そんなことを考えながら、俺は切り分けた肉をフォークで刺して、肉汁が瑠胡の着物を汚さないよう、左手を肉の下へと添えた。
「あ~ッン」
フォークで刺した肉が、瑠胡の口に入る。瑠胡が肉を頬張るのに合わせて、俺はゆっくりとフォークを引き抜いた。
この様子を周囲の村人たちや騎士団の連中が、固唾を呑むように見守っていた。レティシアなんかは表情を強ばらせていたし、リリンなんかも食事の手が止まっていた。
……恥ずかしいから、あまり見ないで欲しいんだけど。
そんな周囲の視線に晒された俺は、気恥ずかしさで顔が真っ赤になっていたと思う。
それからは瑠胡に食事を食べさせたり、エール酒を勧めたりしていた。瑠胡は俺と違って、酒類は苦手ではないらしい。安いエール酒にも関わらず、平然とした顔で何倍も飲み続けていた。
やがて、村人たちが歌を歌ったり、テーブルの上でダンスを披露したりと、賑やかになっていった。
芸としては稚拙だけど、村人や騎士団の面々は、それなりに盛り上がっていた。
そんな宴の最中、店内を眺めていた瑠胡が、いきなり立ち上がった。
「たいした芸がないのう……妾が! 派手な芸を見せてやろう!!」
酔っ払っているのか、頬を紅色に染めた瑠胡は店内に響くような、それでいて鈴を思わせる声で宣言すると、外へと出て行った。
……なんか、イヤな予感がする。
押っ取り刀で俺が追いかけると、村人や騎士団の面々も外に出てきたり、窓から顔を覗かせた。
人々の注目を浴びる中、瑠胡は身体の前でポン、と手を打った。
その直後、瑠胡の首の辺りから、虹色の光が溢れた。そして光の影となって、深い緑色の帯が吹き出し、瑠胡自身を包み込んでいく。
それから僅か数秒で、瑠胡はドラゴンの姿となっていた。
……おい。
突然のことに反応できなかった俺の前で、唸るような声をあげたドラゴン・瑠胡は、空へ飛び立った。
星や月が浮かぶ夜空で、ドラゴン・瑠胡は炎息で炎の軌跡を描いたあと、旅籠屋の前に舞い戻ってきた。
土煙を上げながら着地をしたとき、瑠胡はすでに人の姿に戻っていた。まだ頬を染めたまま、瑠胡は優雅な所作で頭を垂れた。
「……おそまつ」
いや……おそまつ、じゃないがな。
これは大問題になりそうだ――そう俺が危ぶんだ直後、瑠胡は村人たちから、やんややんやの大喝采を受けた。
騎士団の面々は一様に微妙な顔をしてたけど、とりあえず彼女らの反応は、面倒くさいから脇に置いておこうと思う。
村人らの様子を見る限り、大した問題にはならずに済みそうだ。
なんていうか、酔っ払いばっかりで良かった……本当に良かった。
あとで瑠胡には注意をしておこう。俺はそう決めると、瑠胡を連れて宴に戻った。何度も言うが、折角のタダ飯だ。腹一杯になるまで、堪能しなくちゃな。
俺や瑠胡に、酒を勧めてくる村人も多かったけど、それは丁重に断った。これ以上、瑠胡を酔わせるのは危険だし、俺が酔ったら世話ができなくなる。
宴の途中ではあったが、満腹になった俺は酔いが回っている瑠胡を連れて、自宅へと戻ることにした。
まあ、なんだ。それが一番、安全だろうし……なぁ。
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