屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
上 下
11 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

二章-2

しおりを挟む

   2

 この日の夜、旅籠屋《月麦の穂亭》では、宴が催された。
 どうやら村長が、帰還した騎士団のために開いたものだが、村民らも招かれていた。それだけ盛大に――と言いたいところだが、まあなんだ。
 辺境に近い村で催される宴なんて、王都や大きな街などと比べると、ささやかなものだ。
 それでも、村人たちは大喜びで酒を飲み、飯を食べていた。


「魔物のとーばつぅ、おっめでろぉ!」


 呂律の回っていない、完全に酔っ払った村人の誰かの声が、俺の席まで聞こえてきた。
 折角のタダ飯ということで、俺も参加したんだけど。正直、末席――隅っこの席で良かったんだけどな。協力者ということで祭り上げられ、なぜかレティシアたち騎士団の近くに座らされていた。
 右隣がリリンなのが、唯一の救いかもしれない。なんというか……その、一番無難な気がするし。
 酔っ払っちゃえば楽なんだろうけど……下戸だからな、俺。エールどころか、果実酒一口で顔が真っ赤になるから、あまり酒類は飲みたくない。
 左には、襟元にナプキンをした瑠胡が座っていた。
 慣れないナイフとフォークで、瑠胡は山羊肉を切り分けていた。その顔に、痛みを我慢する気配があった。
 瑠胡の表情に不安を覚えた俺は、食事の手を止めた。


「姫様、どこか痛いですか?」


「右肩が……少し」


 少し言いにくそうに、瑠胡は答えた。そこは瑠胡がドラゴンの姿をしていたときに、俺が奪った魔術で攻撃を加えた場所だ。
 俺はバツの悪さを覚えながら、瑠胡の傷を案じた。


「えっと……腕が痛いなら、片手で食べられる食事のほうが、よかったりします?」


「……痛みは、我慢できぬほどではない。しかし、そうよのう……痛みを我慢せずに、食事を摂る手段はある。それでもよいか?」


「ええ、まあ。そういうのがあれば、別に構いませんけど」


「そうか。ではランド、手伝っておくれ」


「それは……いいですけど」


 俺が了承すると、瑠胡は俺に小さく開けた口を向けてきた。

 ……え?

 …………えっ?


「ほれ。はやく食べさせておくれ」


 俺が戸惑っていると、瑠胡はどこか楽しんでいるような顔で催促してきた。
 手伝いって……こういうことだったのか。俺は山羊の肉を切り分けながら、赤面していくのがわかった。
 こんなこと、まったくの予想外だ。

 俺は――瑠胡に嫌われていると思ってるんだけどな。

 生死を賭けて戦っていたにせよ。俺は〈スキルドレイン〉で、瑠胡の魔術の一部を奪ったんだ。生き延びるため、そして話し合いをするためだったにせよ、恨まれて当然のことをしたと思っている。
 だからこそ――この瑠胡の行為に、俺は困惑していた。

 もしかしたら、これも嫌がらせの一種かもしれないな。

 そんなことを考えながら、俺は切り分けた肉をフォークで刺して、肉汁が瑠胡の着物を汚さないよう、左手を肉の下へと添えた。


「あ~ッン」


 フォークで刺した肉が、瑠胡の口に入る。瑠胡が肉を頬張るのに合わせて、俺はゆっくりとフォークを引き抜いた。
 この様子を周囲の村人たちや騎士団の連中が、固唾を呑むように見守っていた。レティシアなんかは表情を強ばらせていたし、リリンなんかも食事の手が止まっていた。

 ……恥ずかしいから、あまり見ないで欲しいんだけど。

 そんな周囲の視線に晒された俺は、気恥ずかしさで顔が真っ赤になっていたと思う。
 それからは瑠胡に食事を食べさせたり、エール酒を勧めたりしていた。瑠胡は俺と違って、酒類は苦手ではないらしい。安いエール酒にも関わらず、平然とした顔で何倍も飲み続けていた。
 やがて、村人たちが歌を歌ったり、テーブルの上でダンスを披露したりと、賑やかになっていった。
 芸としては稚拙だけど、村人や騎士団の面々は、それなりに盛り上がっていた。
 そんな宴の最中、店内を眺めていた瑠胡が、いきなり立ち上がった。


「たいした芸がないのう……妾が! 派手な芸を見せてやろう!!」


 酔っ払っているのか、頬を紅色に染めた瑠胡は店内に響くような、それでいて鈴を思わせる声で宣言すると、外へと出て行った。

 ……なんか、イヤな予感がする。

 押っ取り刀で俺が追いかけると、村人や騎士団の面々も外に出てきたり、窓から顔を覗かせた。
 人々の注目を浴びる中、瑠胡は身体の前でポン、と手を打った。
 その直後、瑠胡の首の辺りから、虹色の光が溢れた。そして光の影となって、深い緑色の帯が吹き出し、瑠胡自身を包み込んでいく。
 それから僅か数秒で、瑠胡はドラゴンの姿となっていた。

 ……おい。

 突然のことに反応できなかった俺の前で、唸るような声をあげたドラゴン・瑠胡は、空へ飛び立った。
 星や月が浮かぶ夜空で、ドラゴン・瑠胡は炎息ブレスで炎の軌跡を描いたあと、旅籠屋の前に舞い戻ってきた。
 土煙を上げながら着地をしたとき、瑠胡はすでに人の姿に戻っていた。まだ頬を染めたまま、瑠胡は優雅な所作で頭を垂れた。


「……おそまつ」


 いや……おそまつ、じゃないがな。

 これは大問題になりそうだ――そう俺が危ぶんだ直後、瑠胡は村人たちから、やんややんやの大喝采を受けた。
 騎士団の面々は一様に微妙な顔をしてたけど、とりあえず彼女らの反応は、面倒くさいから脇に置いておこうと思う。
 村人らの様子を見る限り、大した問題にはならずに済みそうだ。

 なんていうか、酔っ払いばっかりで良かった……本当に良かった。

 あとで瑠胡には注意をしておこう。俺はそう決めると、瑠胡を連れて宴に戻った。何度も言うが、折角のタダ飯だ。腹一杯になるまで、堪能しなくちゃな。
 俺や瑠胡に、酒を勧めてくる村人も多かったけど、それは丁重に断った。これ以上、瑠胡を酔わせるのは危険だし、俺が酔ったら世話ができなくなる。 
 宴の途中ではあったが、満腹になった俺は酔いが回っている瑠胡を連れて、自宅へと戻ることにした。

 まあ、なんだ。それが一番、安全だろうし……なぁ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)

おいなり新九郎
ファンタジー
 ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...