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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
二章-1
しおりを挟む二章 共同生活と慣れぬ感情
1
俺たちがメイオール村に戻ってきたのは、二日後の昼過ぎだった。
ベリット男爵やレティシアが、瑠胡とどういう話をしたかは、わからない。ただ、依頼を終えた俺に依頼料を渡しながら、ベリット男爵は鷹揚に告げてきた。
「天竜族というのは知らぬが、その姫を名乗るのであれば、丁重に迎えるのが得策だろう」
言葉は柔らかかったが、体の良い厄介払いと責任の押しつけだと思ってしまったのは、俺の意志が悪いだけだろうか?
とはいえ、これで領主公認となったわけだ。
村へ帰る道中、俺は瑠胡にメイオール村のことを教えた。
といっても人数や広さとか、そういうことではない。文化面というか……まあ、簡単にいえば村での生活に関する基礎知識だ。
稼業にしている手伝い屋のことはもちろん、食事や風呂、排出についても教えておいた。
俺も書籍で読んだ知識しかないけど、こういった文化の差というのは、かなり苦労を強いられるようだ。現に野宿をしたときも、瑠胡は食器の使い方をほとんど知らなかったし。
そんなこんなで。
村に到着した俺が一番最初にしたことは、俺の家に瑠胡を向かい入れる準備だった。
斜面の上にある俺の家を、瑠胡は黙って眺めていた。
……うん、まあ。姫様にとっては、ここが犬小屋にしか見えないってのは理解してる。
俺は気を取り直すと、瑠胡に告げた。
「姫様にとっては小さいかもしれないけど、そこは我慢して下さいよ。風呂とか便所とか、そういうのは備えてますから」
瑠胡は首を振ると、再び俺の家に目を向けた。
「そのようなことは思っておらぬ。ここが妾の家になるのかと、少々感慨に耽っておった」
「感慨って……姫様にとっては狭くないですか?」
「妾は、人の暮らしは初めて故にな。広い、狭いなぞ、判断する基準なぞありはせぬ。それで、もう入ってもよいのか?」
「ええっと……あ、少し待ってください」
背後から家具などを運ぶ村人らが来ることに気づいて、俺は瑠胡を止めた。村人たちが先に家に入ってから、俺は瑠胡を一階で待たせて、二階に上がった。
最低限は綺麗にしてるつもりだけど、人を迎えるなら掃除はしておきたい。一時間くらいたって、ようやく部屋の準備が整った。
瑠胡を呼びに一階に降りたけど……居間を兼ねた台所にはいなかった。
何処へ行ったんだ――と思って周囲を見回していると、階段のすぐ側にある俺の寝室に人の居る気配がした。
俺が寝室に入ると、瑠胡はベッドに腰掛けながら、棚の蔵書を眺めていた。机と椅子があるから、そっちに座ればいいのに……。
といっても、ベッドと机、本棚が二つ、それに棚しかない部屋だ。珍しいものなんか、なにもない。部屋としては、殺風景なほうだろう。
部屋に入った俺に気づいた瑠胡は、どこか安堵したような顔で振り返った。
「あれらが、書籍というものか。いくつ――ああ、何冊あると申したほうがよいのか。どれだけ持っておる?」
「五〇冊くらい……ですね。ここに引っ越すときに、持ってこれるだけ持ってきただけですから。ちゃんと数えてないんですよ」
「そうか。妾もこの国の文字は、多少なりとも理解しておるからの。暇があれば読んでみよう」
瑠胡は鷹揚に頷きながら、俺のベッドのシーツを手で撫でた。
少しだけ大きく呼吸をすると、俺の顔を見上げながら目を細めた。
「妾の部屋は、ここでも良いぞ?」
「あ――いえ、俺の寝室ですし。色々と、その……問題もあると」
体臭なんかも染みついているだろうし、愛用の枕もあるし……俺って枕が変わると熟睡できないから、ここを占領されるのは困る。
騎士団との遠征中も、眠りが浅くて寝不足気味だ。
「ここから追い出されると、俺も不便ですからね」
「追い出しなどせぬ。ここを二人の部屋にすればよかろう?」
「いやそれは……その。公衆道徳的な意味で、別の問題がありますんで。部屋へ案内しますから、来て下さい」
「そうか……それでは仕方ないな」
瑠胡はあっさりと引き下がると、ベッドから腰を上げた。
瑠胡の部屋は、階段を登ってすぐの部屋だ。ちなみに階段を登って正面と左は壁だから、迷うこともないだろう。
……まあ、迷うだけほど広い家でもないけど。
ドアを開けると、正面にベッド。ベッドの頭側にはサイドテーブル、ドアの横には俺の肩ほどの高さの棚がある。
窓は東側に一つ。細長いけど、二階では一番広い部屋だ。
瑠胡は部屋を見回すと、「ほう」と呟いた。
「お主の部屋より広いな」
「この家では、一番広い部屋ですね。ここを使って下さい。風呂と便所はさっき説明しましたし……あとは必要なものがあれば、今日明日くらいで言ってくれると助かります」
瑠胡がここで暮らすのに必要なものは、特別高価なものでないかぎりは、レティシアの騎士団とベリット男爵が手配してくれるそうだ。
とはいえ、下着の着替えと食器はもう頼んであるから、あとは日用品くらいか。服はどうするか、わからないけど。
瑠胡は少し考えてから、自分の着ている異国の服へ手を添えた。
「妾の着物を架ける衣装桁が欲しいの」
「衣装桁……どういうやつです?」
聞いたことのない名前に、俺は形状や用途を訊いた。
なんでも、着物――というらしい服をかけておくための台ということだ。村の大工に頼めば、作ってくれるかな?
「それは、確かに承りました。着替えとかは……どうします?」
「特に必要はない。この着物は神糸――特殊な糸で縫製されておってな。破れず、ほつれず、汚れも日の光に干しておれば、一日で消える」
「……へえ。便利ですね」
「それにな。着替えなら、もう手配しておる。お主が心配することはないぞ?」
瑠胡の言葉に、俺はあまり考えずに納得した。
俺の居ないところで、レティシアたちに頼んだのかな……そう思うと、俺は大工のトマスさんのところへと向かった。
瑠胡から聞いていた衣装桁の形状を伝えて、作成の依頼をしたんだけど……そのときに、今晩に行われる宴のことを聞いた。
村長が催すようだが、なんでも騎士団が魔物を討伐した祝いらしい。
とりあえず、今日はタダ飯か。
瑠胡も誘って行こうか……村に慣れる良い機会だろうし。トマスさんと別れた俺は、そんな期待を抱きながら、帰り道を歩き始めた。
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