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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-8
しおりを挟む8
天竜族という瑠胡と洞窟を出た俺たちは、ベリット男爵に状況を説明した。
もちろん、瑠胡のことは正直に話した。最初は半信半疑だったベリット男爵だったが、瑠胡がその場でドラゴンへと変化したのを目の当たりにしては、信じるよりほかはない。
そのあとでも、男爵は瑠胡を殺めることには反対してくれた。
帰途の途中で夕方になると、俺は騎士団の面々やベリット男爵の従者らと、野営と食事の準備を始めた。
スープとパン、それに干し肉の香草焼き――典型的な野営料理を器に盛りつけた俺は、椅子に腰掛けた瑠胡に食事を運んだ。
簡易型のテーブルを挟んだ向かい側には、レティシアとベリット男爵が並んで座っていた。
レティシアやベリット男爵の食事は、それぞれ騎士団のキャットや従者が運んでいる。
三人は野営の準備をしている最中から、なにやら話込んでいた。
話の腰を折るかもしれないが、男爵からは「食事の準備ができたら持ってこい」という指示があったからな。
「失礼します。御食事をお持ち致しました」
キャットがレティシアに挨拶するのに合わせて、俺は瑠胡へと慇懃に頭を下げた。
「天竜族の姫君、御食事で御座います」
俺がテーブルに器を並べていると、瑠胡が少し上目遣いに見上げてきた。
「なぜ、そのように堅苦しい物言いをしておる? 洞窟の中のように、もっと気楽に話をしてもよいぞ」
「いえ……最低限の礼儀作法は学んでおりますので」
ドラゴンの一族とはいえ、お姫様だ。無礼を働いた暁には、数千のドラゴンに襲われる――という可能性も否定できない。
そんな世界の終末じみた、ドラゴンの逆襲なんかは勘弁したい。
俺は考えを顔に出さないよう、表情を消して対応をしていた。そんな態度が気に入らなかったのか、瑠胡は少しきつい目つきになった。
「妾が許可したのだ。構わぬ。そんな堅苦しい言葉を聞きながら生活するのでは、肩が凝って仕方が無い。妾との勝負に勝ったのだ。遠慮なそせず、瑠胡と呼ぶが良い」
「さすがにそれは……ちょっと。姫様というのはどうです?」
「ふむ……まあ、それでもよいか」
少し諦めたような顔の瑠胡は器に目を落としてから、再び俺を見た。
「ランド。これは、どのように食せば良いのかのぅ?」
「ええっと……パンは手で千切りながら食べて下さい。スープはそのスプーンって食器で、掬いながら飲んで……ええっと、干し肉はフォークで刺して口に運ぶんです」
「なるほどのぅ。では、頂くとしよう」
俺が教えた通りに、スプーンでスープを掬うところまで見守った俺は、一礼してから瑠胡やレティシアたちから離れた。
なにせ、あそこは団長や地位のある者のスペースだ。
俺はほかの団員と一緒に、焚き火を囲っての食事になる。テーブルなどなく、地べたに座っての食事だ。
香草焼きではなく、ただ焼いただけの干し肉にスープ、パンという質素な食事である。
俺はリリンからスープの器を受け取ると、そのまま口を付けた。
「ランド君、スプーン使いなよぉ」
クロースが窘めるようなことを言ってきたが、そのときにはもう、俺はスープを飲み干していた。
「ほとんど具のないスープを飲むのに、スプーンはいらないだろ?」
パンを頬張った俺は、騎士団の面子が少ないことに気がついた。
キャットはレティシアのところだから……いないのはユーキか?
「一人いないんじゃないか?」
「んっと……ユーキなら、馬車の近くだと思う……んだけど、ね」
「なんだ……なにかあるのか?」
「あはは……ちょっとね」
何かを誤魔化すようなクロースの愛想笑いに、俺は立ち上がった。
すでに食事を終えていたセラが、俺を睨むように目を細めた。
「どこへ行く?」
「ちょっと様子を見てくる」
「放っておけ。空腹に耐えきれなくなったら、食べに来る」
「……そうはいうけど、気になるだろ」
俺は焚き火から火の点いた枝を取ると、木に繋がれた数台の馬車に近寄った。しかし、周囲を見回しても誰もいない。馬車の周囲を回っていると、踏み出した左の足の裏から地面の感触が消えた。
「うおっ!?」
寸前のところで、俺は地面に空いた大穴に落ちるのを踏みとどまった。直径だけで、二マーロン(約二メートル五〇センチ)はある、大穴だ。
焦りで蹈鞴を踏んだ俺は、大きく息を吐いた。こんな場所に大穴なんて、なかったはずだ。そう思ったところで、俺は瑠胡との戦いのことを思い出した。
瑠胡の魔術から俺たちを護った《スキル》は、ユーキのものだったな。
俺が火の点いた枝で照らすと、深さ一マーロン(約一メートル二五センチ)ほどの穴に人の頭頂部が見えた。
「まさか……ユーキか? なにがあったんだ?」
俺が呼びかけると、ユーキが半泣きの顔をこちらに向けてきた。
なん――だ? まさかレティシアの騎士団じゃ、裏で罵詈雑言や体罰なんかが茶飯事になってるのだろうか。
俺がそんな心配をしていると、ユーキが涙声で口を開いた。
「ランドさん……あたし、やっぱり向いてないんですぅ」
「……なにに向いてないって?」
「騎士団なんか、無理だったんですよぉ。元々恐がりだし、意気地もないし、戦う力もないし……今日だって、あたしはなんの攻撃もできないから、役に立ってませんし」
泣き言を述べるユーキに、俺はセラが冷たい態度だったことを思い出した。
訓練兵に対するものと同じ対応だけど、それをユーキにやるのは間違ってる気がした。俺は溜息を吐いてから、穴の縁でしゃがんだ。
「あのな……あの姫様――ええっと、ドラゴンだった姫様の初撃から、俺たちを護ったのは誰だよ? 自分の《スキル》でみんなを護ったんだ。俺からしたら、贅沢な悩みだな」
「どうして……です?」
「俺の《スキル》は訓練兵時代、屑って言われてたんだよ。なんの役にも立たなかったからな」
俺が自虐的に肩を竦めると、ユーキは僅かに目を伏せた。
「でも、ランドさんは勇気もあるし……剣の腕だって凄いって聞いてます。あたしも剣の修行は頑張りましたけど、ドラゴンに立ち向かうなんて無理です。臆病ですから……」
「臆病って、別に悪いことじゃないぞ」
「え?」
俺の言葉が意外だったのか、ユーキは顔を上げた。まあ、ユーキみたいに戦いには勇気が必要って、そう考えるのは普通かもしれないけどな。
俺は穴の縁に腰掛けると、話を続けた。
「考えてみろよ。勇猛なヤツばかりだと、無謀な作戦だってやりかねないだろ? 臆病っていうのは、先の危険を考えるからだ。冷静に考える癖をつけてみろよ。きっと、良い参謀になれると思うけどな」
「ランドさん……」
「ほら、落ち着いたら穴から出て、飯を食いに行こう。空腹だと、悪い考えになるしさ」
「はい。そうします」
俺は頷くと、少し笑顔を見せたユーキを引っ張りあげた。
レティシアへの給仕役をしていたキャットは、並んだ馬車から出てくるユーキとランドに気づいた。
ユーキが《スキル》で作った穴に籠もるのは、毎度のことだ。
(あとで様子を見に行こうと思ったけど……ふぅん。意外とやるじゃない)
キャットは口元に浮かんだ笑みを消すと、レティシアへの給仕へと意識を戻した。
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