9 / 275
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-8
しおりを挟む8
天竜族という瑠胡と洞窟を出た俺たちは、ベリット男爵に状況を説明した。
もちろん、瑠胡のことは正直に話した。最初は半信半疑だったベリット男爵だったが、瑠胡がその場でドラゴンへと変化したのを目の当たりにしては、信じるよりほかはない。
そのあとでも、男爵は瑠胡を殺めることには反対してくれた。
帰途の途中で夕方になると、俺は騎士団の面々やベリット男爵の従者らと、野営と食事の準備を始めた。
スープとパン、それに干し肉の香草焼き――典型的な野営料理を器に盛りつけた俺は、椅子に腰掛けた瑠胡に食事を運んだ。
簡易型のテーブルを挟んだ向かい側には、レティシアとベリット男爵が並んで座っていた。
レティシアやベリット男爵の食事は、それぞれ騎士団のキャットや従者が運んでいる。
三人は野営の準備をしている最中から、なにやら話込んでいた。
話の腰を折るかもしれないが、男爵からは「食事の準備ができたら持ってこい」という指示があったからな。
「失礼します。御食事をお持ち致しました」
キャットがレティシアに挨拶するのに合わせて、俺は瑠胡へと慇懃に頭を下げた。
「天竜族の姫君、御食事で御座います」
俺がテーブルに器を並べていると、瑠胡が少し上目遣いに見上げてきた。
「なぜ、そのように堅苦しい物言いをしておる? 洞窟の中のように、もっと気楽に話をしてもよいぞ」
「いえ……最低限の礼儀作法は学んでおりますので」
ドラゴンの一族とはいえ、お姫様だ。無礼を働いた暁には、数千のドラゴンに襲われる――という可能性も否定できない。
そんな世界の終末じみた、ドラゴンの逆襲なんかは勘弁したい。
俺は考えを顔に出さないよう、表情を消して対応をしていた。そんな態度が気に入らなかったのか、瑠胡は少しきつい目つきになった。
「妾が許可したのだ。構わぬ。そんな堅苦しい言葉を聞きながら生活するのでは、肩が凝って仕方が無い。妾との勝負に勝ったのだ。遠慮なそせず、瑠胡と呼ぶが良い」
「さすがにそれは……ちょっと。姫様というのはどうです?」
「ふむ……まあ、それでもよいか」
少し諦めたような顔の瑠胡は器に目を落としてから、再び俺を見た。
「ランド。これは、どのように食せば良いのかのぅ?」
「ええっと……パンは手で千切りながら食べて下さい。スープはそのスプーンって食器で、掬いながら飲んで……ええっと、干し肉はフォークで刺して口に運ぶんです」
「なるほどのぅ。では、頂くとしよう」
俺が教えた通りに、スプーンでスープを掬うところまで見守った俺は、一礼してから瑠胡やレティシアたちから離れた。
なにせ、あそこは団長や地位のある者のスペースだ。
俺はほかの団員と一緒に、焚き火を囲っての食事になる。テーブルなどなく、地べたに座っての食事だ。
香草焼きではなく、ただ焼いただけの干し肉にスープ、パンという質素な食事である。
俺はリリンからスープの器を受け取ると、そのまま口を付けた。
「ランド君、スプーン使いなよぉ」
クロースが窘めるようなことを言ってきたが、そのときにはもう、俺はスープを飲み干していた。
「ほとんど具のないスープを飲むのに、スプーンはいらないだろ?」
パンを頬張った俺は、騎士団の面子が少ないことに気がついた。
キャットはレティシアのところだから……いないのはユーキか?
「一人いないんじゃないか?」
「んっと……ユーキなら、馬車の近くだと思う……んだけど、ね」
「なんだ……なにかあるのか?」
「あはは……ちょっとね」
何かを誤魔化すようなクロースの愛想笑いに、俺は立ち上がった。
すでに食事を終えていたセラが、俺を睨むように目を細めた。
「どこへ行く?」
「ちょっと様子を見てくる」
「放っておけ。空腹に耐えきれなくなったら、食べに来る」
「……そうはいうけど、気になるだろ」
俺は焚き火から火の点いた枝を取ると、木に繋がれた数台の馬車に近寄った。しかし、周囲を見回しても誰もいない。馬車の周囲を回っていると、踏み出した左の足の裏から地面の感触が消えた。
「うおっ!?」
寸前のところで、俺は地面に空いた大穴に落ちるのを踏みとどまった。直径だけで、二マーロン(約二メートル五〇センチ)はある、大穴だ。
焦りで蹈鞴を踏んだ俺は、大きく息を吐いた。こんな場所に大穴なんて、なかったはずだ。そう思ったところで、俺は瑠胡との戦いのことを思い出した。
瑠胡の魔術から俺たちを護った《スキル》は、ユーキのものだったな。
俺が火の点いた枝で照らすと、深さ一マーロン(約一メートル二五センチ)ほどの穴に人の頭頂部が見えた。
「まさか……ユーキか? なにがあったんだ?」
俺が呼びかけると、ユーキが半泣きの顔をこちらに向けてきた。
なん――だ? まさかレティシアの騎士団じゃ、裏で罵詈雑言や体罰なんかが茶飯事になってるのだろうか。
俺がそんな心配をしていると、ユーキが涙声で口を開いた。
「ランドさん……あたし、やっぱり向いてないんですぅ」
「……なにに向いてないって?」
「騎士団なんか、無理だったんですよぉ。元々恐がりだし、意気地もないし、戦う力もないし……今日だって、あたしはなんの攻撃もできないから、役に立ってませんし」
泣き言を述べるユーキに、俺はセラが冷たい態度だったことを思い出した。
訓練兵に対するものと同じ対応だけど、それをユーキにやるのは間違ってる気がした。俺は溜息を吐いてから、穴の縁でしゃがんだ。
「あのな……あの姫様――ええっと、ドラゴンだった姫様の初撃から、俺たちを護ったのは誰だよ? 自分の《スキル》でみんなを護ったんだ。俺からしたら、贅沢な悩みだな」
「どうして……です?」
「俺の《スキル》は訓練兵時代、屑って言われてたんだよ。なんの役にも立たなかったからな」
俺が自虐的に肩を竦めると、ユーキは僅かに目を伏せた。
「でも、ランドさんは勇気もあるし……剣の腕だって凄いって聞いてます。あたしも剣の修行は頑張りましたけど、ドラゴンに立ち向かうなんて無理です。臆病ですから……」
「臆病って、別に悪いことじゃないぞ」
「え?」
俺の言葉が意外だったのか、ユーキは顔を上げた。まあ、ユーキみたいに戦いには勇気が必要って、そう考えるのは普通かもしれないけどな。
俺は穴の縁に腰掛けると、話を続けた。
「考えてみろよ。勇猛なヤツばかりだと、無謀な作戦だってやりかねないだろ? 臆病っていうのは、先の危険を考えるからだ。冷静に考える癖をつけてみろよ。きっと、良い参謀になれると思うけどな」
「ランドさん……」
「ほら、落ち着いたら穴から出て、飯を食いに行こう。空腹だと、悪い考えになるしさ」
「はい。そうします」
俺は頷くと、少し笑顔を見せたユーキを引っ張りあげた。
レティシアへの給仕役をしていたキャットは、並んだ馬車から出てくるユーキとランドに気づいた。
ユーキが《スキル》で作った穴に籠もるのは、毎度のことだ。
(あとで様子を見に行こうと思ったけど……ふぅん。意外とやるじゃない)
キャットは口元に浮かんだ笑みを消すと、レティシアへの給仕へと意識を戻した。
56
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる