屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

一章-7

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   7

 長剣を抜いたレティシアは、俺に険しく冷たい目を向けた。


「ランド、どけ。ドラゴン――これを討伐しなくてはならん」


 レティシアは俺を通り越して、少女の左横に立った。
 少女はレティシアを睨め上げると、搾り出すような声で告げた。


「妾は敗者――故、抵抗はせぬ。好きにせよ」


「そのつもりよ――」


 長剣を振り上げるレティシアに、俺は舌打ちをした。
 俺が駆け出すのと、レティシアが剣を振り下ろすのは、ほぼ同時だった。〈筋力増強〉が残っている俺は、ギリギリのところで少女と刃との間に割り込んだ。
 金属が鳴る音が、響いた。
 振り下ろされたレティシアの腕を、俺の右腕が受け止めていた。ただ、少し受け止め方をミスしてしまい、浅く斬られた俺の左腕から、血が滴り落ちていた。


「ランド――貴様、なにをする!」


「やめろ。俺を嘘つきにするんじゃねぇ。命令違反っていうなら、左腕の怪我でチャラってことにしてくれ」


 俺の言い分を聞いたレティシアは、ドラゴンだった少女に指を向けた。


「だが、証拠がいる。こいつの首を持っていかねば――」


「こんな女の子の首を持ってって、なんの意味があるんだよ。そこらに落ちてる鱗でいいだろ。魔物は逃げました――ってことにすればいい」


 答えながら俺が腕を押し戻すと、レティシアは剣を収めた。
 レティシアを少し遠ざけた俺は、目を丸くした少女と向き合った。なんか、今のやり取りに驚いたようで、少し呆けた顔をしていた。


「というわけで、話をしてもいいかな?」


「は、話……か。そういえば、そんなことを言っておったの。申してみよ」


「ああ……俺たちは魔物の討伐ってことで、ここに来たんだが……相手がドラゴンっていいのは、ちょっと手違いみたいなんだ。ただ、手ぶらで帰るわけにもいかないわけ。そこで、だ。
 あんたがここから出て、違う場所で暮らしてくれるなら、なんの問題もないんだけど」


「……それはできぬ。妾とて、遊びでここにおるわけではない」


 拒絶される可能性は考えていたけど、ドラゴンに明確な目的があったというのが、ちょっと予想外だ。だが互いの意見をすりあわせるためにも、内容は知っておきたい。
 考えを切り替えた俺は、質問を続けることにした。


「その目的ってのを、教えてくれないか?」


「それは……その。我が一族のため。それ以上は言えぬ」


「一族のため……ねぇ。この場所じゃなきゃ、駄目な理由はあるのか?」


「それは、その……星占いで、この地方が良いと出たから」


 ……なんだろう。今のいままで戦っていて、殺伐とした雰囲気だったのに。
 神託でも予言でもなく、星占い。やけにメルヘンで乙女チックな理由を告げられて、俺は戸惑った。
 ふとレティシアを見れば、彼女も戸惑いの表情を浮かべている。
 俺は顎の辺りを指で掻きながら、譲歩案を捻り出した。


「例えば、隣の領地とか、隣の国とか……そういう近場じゃ駄目なのか?」


「左様。さらにいえば、この周辺では、ほかに住処に出来るところは存在せぬ。最適なのは、ここより二日の場所だが村が近い。人里の近くでは、お主らも不都合であろう」


「そりゃまあ……」


 打開策を考えていた俺の頭に、一つの案が思い浮かんだ。こんなすんなりと考えが纏まるのも、〈計算能力〉のおかげかもしれない。
 俺はゆっくりと屈むと、少女と目線を合わせた。


「俺の住んでいる村は多分、その最適な場所に近いんだ。これは譲歩案だけど、その姿で暮らすっていうなら、俺の家の二階を貸すけど?」


 俺の提案に、少女とレティシアはそれぞれ異なる反応を見せた。
 とりあえず、呆気にとられているレティシアは置いておいて、俺は少女の反応を待った。
 少女はしばらく目を丸くしていたが、落ち着いてくると検分するかのような目を向けてきた。


「……なぜ、そこまでする? お主には、関係の無い話――で、あろう」


「そうだけど……まあ、女の子の姿をした相手を殺さなくていいっていう、感情的な理由が一つ。さらにいえば、こんな洞窟の中で長々と交渉するのはイヤだし、腹も減ったし、なにより早く帰りたい。
 そっちにとっても、悪い話じゃないと思うけど――あ、食事の量って、普通の人間と同じ? 一日で牛一頭とか言われると、さすがに困るんで」


 俺が冗談を交えながら答えると、少女は僅かに表情を緩めた――気がした。


「そうよのう……この姿であれば、食事の量は人と変わらぬ」


「ああ、それだと助かる。それで、どうする?」


 俺が再び問いかけると、少女はふらつきながらも姿勢を正した。


「わかった。その条件、飲もう。妾は瑠胡るう――天竜族の姫である。宜しく頼むぞ」


 少女――ルウ……正確には瑠胡か。その身分を聞いて、今度は俺が目を丸くする番になった。会話とか、敬語じゃないとやばい……かな?
 俺は少し迷ったが代案を言ってしまい、それが了承されてしまった以上は、腹を括るしかない。
 水瓶に泥を入れたら、その水は飲めない――っていう、ことわざもあることだし。
 封じられていた出入り口は、ドラゴンのお姫様が開けてくれた。
 今後のことは脇に置いておいて、俺は騎士団とともに、ドラゴンのお姫様と洞窟の出口へと向かった。
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