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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-6
しおりを挟む6
俺が飛び出そうとしたとき、リリンが左手を差し出してきた。
なにを言いたいのか――俺が悩んでいると、リリンは静かに告げた。
「奪って下さい。わたしの《スキル》――〈計算能力〉を。あなたのやろうとしていることの、助けになるはずです」
「え? ええっと……まさか、俺の作戦を理解したの?」
「はい。それが、〈計算能力〉の力です。みんなが生き延びるために、使って下さい」
俺は最終的な決定を仰ぐため、レティシアを一瞥した。少し悩む素振りを見せたものの、彼女は小さく頷いた。
頷き返した俺は左手のトゲを出すと、なるべく優しく、リリンの左手を刺した。
頭の中に、リリンの《スキル》やスキルが流れ込んでくる。魔術や会計、料理などのスキルに混じって、〈計算能力〉の《スキル》を見つけた。
僅かに色が薄くなる程度に〈計算能力〉を吸うと、俺はリリンの手からトゲを抜いた。
「ありがとう、リリン。必ず成功させてみせる」
「はい」
頷くリリンから離れると、俺は騎士団の連中に告げた。
「俺が駆け出したら、なんでもいい……遠距離から攻撃を開始。ヤツの気を逸らしてくれ」
返事なんか、聞くつもりはない。
俺はそう言い残すと、窪みから飛び出した。ドラゴンが俺へと鎌首を巡らせ、あの光を放った。
「――くそっ!」
まったく、初手から手加減ねーな!
俺は、即座に横に跳んだ。強化された脚力によって、一気に五マーロン(約六メートル二十五センチ)ほど跳んだにも関わらず、光は俺の右腕を掠めていった。
火傷としても軽度だが、俺は顔を歪めながら舌打ちをした。
俺の背後から赤い光条が何本も走ったのは、その直後だ。
セラが掲げた長剣の切っ先から、赤い熱線が放たれていた。どうやら、あれが彼女の《スキル》らしい。
クロースはスリングというベルトで投石しているし、レティシアは彼女の《スキル》である〈火球〉を撃ち出していた。
ドラゴンは、それらの攻撃を身体で受けながらも無傷だった。流石の防御力――と、感心している余裕はない。
赤い熱線や投石、それに拳大の火球がドラゴンへ向かう中、俺は進路を大きく外れた。目指しているのは、ドラゴンの右側――俺から見たら左方向――にある空洞の岩壁だ。
ごつごつとした表面と天井を見ながら、頭の中に進路を思い描く。普段ならもう少し悩むところだが、リリンから貰った〈計算能力〉のおかげか、すんなりと進路は決まった。
――さあ、いくぜ?
俺は自分自信に告げると、〈筋力増強〉を使った。全身の筋肉が膨れあがり、そして強化されたことで走力が増した。
もちろん、それだけじゃない。
俺は岩壁に近づいてから、目標にしていた出っ張りへと跳んだ。数マーロンは上にあった出っ張りに左脚だけで着地――そして、即座に次の出っ張りに跳んだ。
二回の跳躍で天井まで身体を浮かせた俺は、次の目標――ドラゴンの頭部へ目掛けて天井を蹴った。
ドラゴンは再び光球からの熱線を放っている。俺は光球の真後ろを落下して、ドラゴンの首にしがみついた。
〝この――人間如きがっ!!〟
首にしがみついた俺に気づいたドラゴンは、激しく首を動かし始めた。
俺は振り落とされまいと、ヤツの首に必死でしがみついた。それと同時に左手からトゲを出して、鱗の隙間からドラゴンの首に突き刺した。
頭の中に、ドラゴンの《スキル》やスキルが流れ込んで来た。炎息など、吸い出せないものもあったが、俺はそれらの中から、攻撃系の竜語魔術……らしい者を、手当たり次第に吸い取った。
〝な――んと!?〟
驚愕の声を出すドラゴンの真上から、熱線を放つ光球が消えた。
俺はドラゴンの首から飛び降りると、ヤツが俺の位置を把握する前に地面に降り、壁を蹴って距離を離した。
〝貴様――なにをしたっ!!〟
吼えるように問いかけるドラゴンは答えず、俺は吸い出したばかりの竜語魔術を唱えた。
「グ――グルダルグ、グゥガグル、グル」
まるで、唸るような呪文だが、ドラゴンが唱えるならこういう感じになるんだろう。
呪文を唱え終えると、俺の真上に光球が浮かび上がった。
〝それは――まさかっ!?〟
驚愕するドラゴンへ向け、俺は熱線を放った。
白い熱線はドラゴンの右肩へと命中し、鱗を散らせた。ドラゴンの身体から鮮血とは違う、虹色の光が溢れた。
ドラゴンは反撃をする余裕もないのか、ゆっくりと身体を地に横たわらせた。
頭部が地面に横たわった――その途端にドラゴンの身体が、まるで身体の中央へと吸い込まれるように解け始めた。
あとに残ったのは、苦しそうに跪いた少女だ。
黒に見えるほどの濃い緑色の髪は、太股まで伸びていそうだ。異国のものらしい、赤、緑、そして白色と重ね着している前合わせの衣服を、銅褐色の太い帯で締めていた。大きな長方形をした袖は、下に垂れている。
足元には白い履き物、それに紐状のもので木のサンダルみたいなものを履いていた。
瞳はピンクゴールドというのだろうか、赤みがかった金色。白い肌が妙に目立つ顔は、苦悶の表情を浮かべていた。
話しかけようとしたけど、先の魔術の反動が、俺を襲っていた。あれはかなりの魔力――マナを消費するらしく、俺は疲労感と軽い頭痛に苛まれてた。
以前にも《スキル》の使いすぎで、同じ症状になったことがある。マナを使いすぎると、こういう症状になるようだ。
数秒ほど深呼吸していると、ほぼ回復してきた。俺は右手で頭を軽く押さえながら、少女に話しかけた。
「あんたが――さっきのドラゴン?」
「……左様だ。お主は、妾になにをした?」
「いや、話し合いをしたいって言ったろ? 手荒だとは思ったけど、実力行使させて貰ったよ。ちょっと魔術の技術を貰ったけど、完全に使えなくなったわけじゃない……から、そこは安心して欲しいけどな」
ドラゴンだった少女と話をしていると、背後から足音が聞こえてきた。
「団長、駄目です――」
ふと、焦るようなリリンの声が聞こえてきた。
振り返ると長剣を抜いたレティシアが、俺たちのほうへ近づいてくるところだった。
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