6 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-5
しおりを挟む5
メイオール村を出て、二日。
俺たちは山を三つほど越えた先にある、名も知らぬ山の中腹に到着した。ほぼ垂直に切り立った崖下には、約五マーロン(約六メートル二十五センチ)の洞穴がある
地面から半マーロンほど高い場所に空いた洞穴は、かなり奥が深いみたいだ。覗きこんでも奥が見えなかった。
森に覆われた土地であるにも関わらず、洞穴の周囲だけは岩場となっていた。低木どころか、雑草すら生えていない。
「や、やっと到着ですかぁ……」
明るい茶色の髪をお下げにした少女、ユーキ・コウが恐る恐る洞穴を覗き込んだ。不定期に顔を撫でる、ひんやりとした洞穴の空気に「ひっ!?」と怯えた声をあげたりしている。
一八歳にしては童顔の顔を青ざめさせたユーキの背後に、音もなく歩く影が近づいた。
「ちょっと、あんた。そんなにビビッてたら、こっちも不安になるでしょうが」
赤茶けた髪色を短く切り揃えた美女――キャットが、ユーキの後頭部をコツンっと指先で叩いた。
「うう……だってぇ」
「だってじゃないの。ほら、集合だってさ」
キャットがユーキの耳を引っ張りながら、騎士団の集まる場所へと連れて行った。
正直に言おう。
俺一人だけなら、一日でここまで来てた。とにかく、色々なことの動きが遅い。馬車の進みは仕方ないが、キャンプの手際、集合など……すべてが平均ギリギリか、それ以下だ。
まともな動きをしてるのは、レティシアと副官だというセラ、それにキャットくらいだろう。
こんな惨状で、ベリット男爵が笑顔を保っていられるのが不思議だ。
道中で聞いた話だけど、どうやらこの騎士団は、まだ未承認であるらしい。初任務である今回の討伐を達成したら、正式に騎士団として認証されるとのことだ。
……冗談のつもりだったけど、俺の仕事はマジで子守だったようだ。
騎士団の面々が集合すると、レティシアはベリット男爵に出発の挨拶をした。
「総員、魔物の住処に突入する!」
ベリット男爵と数人の従者を残して、騎士団と俺は洞穴の中に入った。
ランタンを持つセラと俺を先頭に、ユーキとレティシア、リリン、最後尾がクロースとキャットだ。
出来うる限り、俺たちは音を立てないようゆっくりと進んだ。怯えているユーキでさえ――恐怖からか――、声を出さなかった。
俺の感覚だが、およそ五〇マーロン(約六三メートル)ほど進むと、地を振るわすような唸り声が聞こえてきた。
こんな唸り声、聞いたことがない。
魔物の討伐だとひと言で言っていたけど、とんでもないヤツが待ち構えている気がしてならない。
「レティシア団長――魔物って、なにか把握はしているのか?」
雇われている手前、敬称を付けて呼んだ俺に、レティシアはやや戸惑った声で答えた。
「いや……キマイラが一匹だと聞いている」
先ほどの唸り声に、レティシアも不穏な気配を感じたようだ。返答に、戸惑いが含まれていた。
俺が「どうする?」と訊ねると、レティシアは躊躇いがちに頷いた。
「――行く」
その目に、不退転の決意を見た俺は、溜息を我慢しながら前に向き直った。雇い主が行くと決めたら、雇われた側としては従うしかない。
それから、さらに五〇マーロンほど進むと、広い場所に出た。左右は約二〇マーロン(約二十五メートル)、高さは一〇マーロン(約十二メートル五〇センチ)ほど。
俺たちが空洞に入った途端、下から盛り上がった土壁によって、退路が塞がれた。
――しまった。罠か?
俺が周囲を見回したとき、空洞の奥に鎌首をもたげた巨大な影に気づいた。
前足を兼ねた、蝙蝠に似た大きな羽。太い尻尾に、は虫類の特徴を備えた頭部。全身は深い緑色の鱗に覆われていた。
まちがいなく、ドラゴン種だ。
その姿を見たレティシアは、呆然と立ち尽くした。
「馬鹿な――監査役の話と違う」
監査役とは、ひと言で説明するなら王都の役人だ。各領主の兵や騎士の行いの是非を判断する――という、かなりの権力を要する者たちだ。
どうやら監査役から魔物討伐の情報を得たようだが、かなり誤差が大きい。
逃げようにも、退路はない。
長剣と盾を構えた俺の前で、ドラゴンの口から赤い光が漏れ始めた。
「やばい、炎息だっ!!」
俺が警告を告げると、ユーキが短い悲鳴をあげた。彼女を中心に地面がたわんだと思った拍子に、俺を含めた騎士団の全員が地中へと吸い込まれた。
いや正確には、いきなり窪んだ穴の中に落ちた、という状態のほうが正確か。穴の深さは、およそ一マーロン(約一メートル二十五センチ)。
ドラゴンから炎息が放たれたのは、その直後だ。
穴の上で広がる紅蓮の炎から、圧倒的な熱量が振ってきた。
「ま、待て! 話を聞いてくれ……話し合いをしたい!」
俺はドラゴンに訴えたが、返ってきたのは辛辣な言葉だ。
〝侵入者の話など聞かぬ! ここは妾の根城ぞ。大人しく去ればよし――さもなくば、ここで黒焦げになると知れ!!〟
人間の言葉で叫んだあと、ドラゴンがなにかを唱えた。何かの魔術か――ヤツの頭上に出現した光球から、白炎を思わせる熱線が放たれた。
真上から天井を大きく抉りつつ、熱線は俺たちへと振り下ろされる!
これを浴びれば、人間の身体なんて一瞬で蒸発してしまうだろう。万事休す――と思ったとき、小さな影が立ち上がった。
「――アマン、ウーサス……ウオルス!」
リリンが何かの呪文らしいものを早口で唱えると、半透明の壁が光の熱線から俺たちを護った。ああ……ローブっぽい服だと思ったら、リリンは魔術師か!
お陰で助かったけど、だからといって八方塞がりだ。
まだ呆然自失としたレティシアに、俺は詰め寄った。
「レティシア団長、どうするよ?」
「どうするって――退路はない。全員で……突撃して、ドラゴンを斃す」
「そういう手段しかねぇなら、てめぇ一人でやれ」
俺は乱暴に頭を掻きながら、吐き捨てた。
そして鎧を脱ぎ捨てると、ドラゴンとの距離を測る。ここからドラゴンまで、おおよそ二〇マーロン(約二十五メートル)。
盾や籠手も放し、長剣も地面に置いた。
「……なにをしている?」
「もちろん、ヤツを……まあ、上手くいくなら話し合いに持ち込むための準備だ。斃すのは、難しそうだしな」
レティシアに答えながら、俺は腰の短剣を確かめた。
窪みから顔を出した俺は、ドラゴンの周囲の壁や天井を確認した。上手くいけば――まあ、目論み通りにはいくかもしれない。
「みんなは援護を頼む。ドラゴン相手に、手傷を負わせようなんて思うなよ」
そう言って飛び出そうとした俺を、リリンが止めた。
56
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜
双華
ファンタジー
愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。
白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。
すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。
転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。
うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。
・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。
※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。
・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。
沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。
・ホトラン最高2位
・ファンタジー24h最高2位
・ファンタジー週間最高5位
(2020/1/6時点)
評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m
皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。
※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる