屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

一章-5

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   5

 メイオール村を出て、二日。
 俺たちは山を三つほど越えた先にある、名も知らぬ山の中腹に到着した。ほぼ垂直に切り立った崖下には、約五マーロン(約六メートル二十五センチ)の洞穴がある
 地面から半マーロンほど高い場所に空いた洞穴は、かなり奥が深いみたいだ。覗きこんでも奥が見えなかった。
 森に覆われた土地であるにも関わらず、洞穴の周囲だけは岩場となっていた。低木どころか、雑草すら生えていない。


「や、やっと到着ですかぁ……」


 明るい茶色の髪をお下げにした少女、ユーキ・コウが恐る恐る洞穴を覗き込んだ。不定期に顔を撫でる、ひんやりとした洞穴の空気に「ひっ!?」と怯えた声をあげたりしている。
 一八歳にしては童顔の顔を青ざめさせたユーキの背後に、音もなく歩く影が近づいた。


「ちょっと、あんた。そんなにビビッてたら、こっちも不安になるでしょうが」


 赤茶けた髪色を短く切り揃えた美女――キャットが、ユーキの後頭部をコツンっと指先で叩いた。


「うう……だってぇ」


「だってじゃないの。ほら、集合だってさ」


 キャットがユーキの耳を引っ張りながら、騎士団の集まる場所へと連れて行った。
 正直に言おう。
 俺一人だけなら、一日でここまで来てた。とにかく、色々なことの動きが遅い。馬車の進みは仕方ないが、キャンプの手際、集合など……すべてが平均ギリギリか、それ以下だ。
 まともな動きをしてるのは、レティシアと副官だというセラ、それにキャットくらいだろう。
 こんな惨状で、ベリット男爵が笑顔を保っていられるのが不思議だ。
 道中で聞いた話だけど、どうやらこの騎士団は、まだ未承認であるらしい。初任務である今回の討伐を達成したら、正式に騎士団として認証されるとのことだ。

 ……冗談のつもりだったけど、俺の仕事はマジで子守だったようだ。

 騎士団の面々が集合すると、レティシアはベリット男爵に出発の挨拶をした。


「総員、魔物の住処に突入する!」


 ベリット男爵と数人の従者を残して、騎士団と俺は洞穴の中に入った。
 ランタンを持つセラと俺を先頭に、ユーキとレティシア、リリン、最後尾がクロースとキャットだ。
 出来うる限り、俺たちは音を立てないようゆっくりと進んだ。怯えているユーキでさえ――恐怖からか――、声を出さなかった。
 俺の感覚だが、およそ五〇マーロン(約六三メートル)ほど進むと、地を振るわすような唸り声が聞こえてきた。
 こんな唸り声、聞いたことがない。
 魔物の討伐だとひと言で言っていたけど、とんでもないヤツが待ち構えている気がしてならない。


「レティシア団長――魔物って、なにか把握はしているのか?」


 雇われている手前、敬称を付けて呼んだ俺に、レティシアはやや戸惑った声で答えた。


「いや……キマイラが一匹だと聞いている」


 先ほどの唸り声に、レティシアも不穏な気配を感じたようだ。返答に、戸惑いが含まれていた。
 俺が「どうする?」と訊ねると、レティシアは躊躇いがちに頷いた。


「――行く」


 その目に、不退転の決意を見た俺は、溜息を我慢しながら前に向き直った。雇い主が行くと決めたら、雇われた側としては従うしかない。
 それから、さらに五〇マーロンほど進むと、広い場所に出た。左右は約二〇マーロン(約二十五メートル)、高さは一〇マーロン(約十二メートル五〇センチ)ほど。
 俺たちが空洞に入った途端、下から盛り上がった土壁によって、退路が塞がれた。

 ――しまった。罠か?

 俺が周囲を見回したとき、空洞の奥に鎌首をもたげた巨大な影に気づいた。
 前足を兼ねた、蝙蝠に似た大きな羽。太い尻尾に、は虫類の特徴を備えた頭部。全身は深い緑色の鱗に覆われていた。
 まちがいなく、ドラゴン種だ。
 その姿を見たレティシアは、呆然と立ち尽くした。


「馬鹿な――監査役の話と違う」


 監査役とは、ひと言で説明するなら王都の役人だ。各領主の兵や騎士の行いの是非を判断する――という、かなりの権力を要する者たちだ。
 どうやら監査役から魔物討伐の情報を得たようだが、かなり誤差が大きい。
 逃げようにも、退路はない。
 長剣と盾を構えた俺の前で、ドラゴンの口から赤い光が漏れ始めた。


「やばい、炎息だっ!!」


 俺が警告を告げると、ユーキが短い悲鳴をあげた。彼女を中心に地面がたわんだと思った拍子に、俺を含めた騎士団の全員が地中へと吸い込まれた。
 いや正確には、いきなり窪んだ穴の中に落ちた、という状態のほうが正確か。穴の深さは、およそ一マーロン(約一メートル二十五センチ)。
 ドラゴンから炎息が放たれたのは、その直後だ。
 穴の上で広がる紅蓮の炎から、圧倒的な熱量が振ってきた。


「ま、待て! 話を聞いてくれ……話し合いをしたい!」


 俺はドラゴンに訴えたが、返ってきたのは辛辣な言葉だ。


〝侵入者の話など聞かぬ! ここは妾の根城ぞ。大人しく去ればよし――さもなくば、ここで黒焦げになると知れ!!〟


 人間の言葉で叫んだあと、ドラゴンがなにかを唱えた。何かの魔術か――ヤツの頭上に出現した光球から、白炎を思わせる熱線が放たれた。
 真上から天井を大きく抉りつつ、熱線は俺たちへと振り下ろされる!
 これを浴びれば、人間の身体なんて一瞬で蒸発してしまうだろう。万事休す――と思ったとき、小さな影が立ち上がった。


「――アマン、ウーサス……ウオルス!」


 リリンが何かの呪文らしいものを早口で唱えると、半透明の壁が光の熱線から俺たちを護った。ああ……ローブっぽい服だと思ったら、リリンは魔術師か!
 お陰で助かったけど、だからといって八方塞がりだ。
 まだ呆然自失としたレティシアに、俺は詰め寄った。


「レティシア団長、どうするよ?」


「どうするって――退路はない。全員で……突撃して、ドラゴンを斃す」


「そういう手段しかねぇなら、てめぇ一人でやれ」


 俺は乱暴に頭を掻きながら、吐き捨てた。
 そして鎧を脱ぎ捨てると、ドラゴンとの距離を測る。ここからドラゴンまで、おおよそ二〇マーロン(約二十五メートル)。
 盾や籠手も放し、長剣も地面に置いた。


「……なにをしている?」


「もちろん、ヤツを……まあ、上手くいくなら話し合いに持ち込むための準備だ。斃すのは、難しそうだしな」


 レティシアに答えながら、俺は腰の短剣を確かめた。
 窪みから顔を出した俺は、ドラゴンの周囲の壁や天井を確認した。上手くいけば――まあ、目論み通りにはいくかもしれない。


「みんなは援護を頼む。ドラゴン相手に、手傷を負わせようなんて思うなよ」


 そう言って飛び出そうとした俺を、リリンが止めた。
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