屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

一章-3

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   3

「今さら、なにしに来たんだ?」


 テーブルを挟んで来客用の椅子に腰掛けたレティシアに、俺は憮然としたまま問いかけた。俺からしたら、都から追い出した張本人だ。今となっては未練はないが、それでも友好的に接する気分にはなれない。
 騎士らしい鎧に身を包んだレティシアは、そんな俺の態度に苦笑した。


「友人に対して、邪険な態度を取るものじゃない。今日は貴様にとっても、良い話を持って来たんだからな」


 騎士らしい口調にはなっているが、訓練兵時代のように親しげな表情だった。そんな口調に俺は懐かしさを覚えたが、それを表情に出さないように気をつけながら、無言で話の続きを促した。
 レティシアは「やれやれ」と言わんばかりに、目を閉じながら息を吐いた。


「わたしが所属している騎士団が、この村に来たのは理由がある。この村から北東にある山の中に、魔物が住み着いたらしい。我々は、その魔物を討伐に行く。そこでだ。ランド――貴様の手を借りたい。報酬は、金貨や銀貨の入った革袋。それに、ここで手柄を立てれば王都とはいかんが、地方の領地であれば士官も可能だろう。
 貴様にとっても、悪くない話だと思うが……どうだ?」


「士官ねぇ……興味ねぇな」


「そうだろう。やる気になってくれて――は?」


 どうやら、俺が喜んで引き受けると思っていたらしい。レティシアは、俺が断ったことに気づくと、顔から表情が失せた。
 その次の瞬間、心から驚いた顔をした彼女は、テーブルに身を乗り出してきた。


「な――なぜだっ!? 訓練兵として、過酷な日々を過ごしたというのに? すべての過去を無駄にするつもりか?」


「無駄にしたのは、どこのどいつだよ。王都から追放されて数ヶ月――こっちはもう、そういったことに興味を無くしたのさ。悪いが、ほかを当たってくれ」


「無茶を言うな!! 魔物の住処まで、あと二日の位置だ。ほかに借りられる手なんか、誰もいない」


 最後のほうは、振り絞るような声だった。
 俺は嘆息すると、テーブルの上を指先で一回だけ突いた。


「……仕事の依頼っていうなら、受けても良い」


「仕事の依頼?」


 怪訝な顔をするレティシアに、俺は親指で家の玄関の脇を示した。そこには、俺が稼業にしている『手伝い屋』の立て看板が置いてある。
 看板の文字を見てから、レティシアは怪訝な顔をした。


「手伝い屋?」


「そういうこと! 半日で六コパル、一日で十二コパルだ。往復で最短四日、討伐に一日としても、五日か。なら、最低でも一シパルと十コパル。食費と必要経費はそっち持ちだと助かる」


 俺が代金の話をすると、目を丸くしたレイチェルが俺を見た。


「おい……ま、魔物討伐だぞ!? そんな端金で――」


「正規料金なんで。これで不服なら、ほかを当たってくれ」


 半ば挑発じみた俺の発言に、レティシアは怒りやら哀しみやら、そして戸惑いなんかを桶に入れたあと、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜたような顔をした。
 家の中に、沈黙が降りた。
 無言で返答を待つ俺の前で、観念したようにレティシアが口を開いた。


「……わかった。その条件で、貴様に依頼をしよう。出発は明日の朝だが、騎士団に貴様を紹介しておきたい」


「わかりましたよ――お客さん」


 立ち上がったレティシアのあとについて、俺も立ち上がった。ドアから出た俺の目の前に、横一列に並んだ騎士団の面々がいた。
 軍馬に騎乗した鎧を着た青年のほかは、軽装の装備を身に纏った女性が五人だけ。いや……一人は、まだ十四、五の少女にしか見えない。
 どう贔屓目に見ても、騎士団だと思えなかった。
 唖然としている俺の前で、レティシアは青年に一礼してから、騎士団へ凜とした声を発した。


「彼が我らと共に魔物討伐に赴く、ランド・コールだ。各々の紹介は、移動しながらでいいだろう。訓練兵の経験もあるので、最低限のことは出来ると思って良い。出立は、明日の日の出の刻。それまで、各自準備と身体を休めることに専念せよ」


 レティシアの言葉のあと、騎士風の青年は騎士団の面々に頷いた。


「団長の言うとおりだ。休憩や準備といって、侮ってはならん。これらも重要な任務である。総員――指定された宿の部屋へ向かえ!」


「はいっ!」


 ……なるほど。最低限の訓練はしているみたいだ。五人中、まともな動きをしているのは二人だけだけど。
 騎士の青年は、軍馬に騎乗したまま馬首を俺のほうへと向けた。
 年は俺よりも四、五歳は上だろう。髭を整えた精悍な顔立ち、髪は金髪で、目はブルーアイ。
 銀色の甲冑は日差しを照り返していた。
 青年は俺の前まで来ると、朗らかな笑みを浮かべた。


「道中、宜しく頼む。俺はベリット・ハイント男爵。このハイント領の領主だ」


「……これは御丁寧に。ランド・コールと申します」


 定型文な俺の挨拶にも関わらず、ベリット男爵は鷹揚に頷いた。
 そういえば、ここはそんな領地だったな。一礼した俺が頭を上げると、ベリットは馬首を巡らせた。
 首だけを振り返ると、俺に意味ありげな笑みを向けた。


「妹の我が儘に付き合わせることになるが、辛抱してくれ」


「は――」


 俺は驚きに、返事すらまともにできなかった。レティシアが貴族――騎士だから貴族の端くれだとは思ったけど、領主の妹君とは思わなかった。
 そんな驚きが顔に出たのか、ベリット男爵は小さく笑った。


「無理をしない程度で構わぬから、仲良くしてやってくれ」


 そう告げると、ベリット男爵は軍馬の手綱を操り、斜面を降りていった。
 あとに残された俺は、半ば呆然としていた。レティシアの生い立ちなんて、まったく知らなかった。
 俺が庶民の出という劣等感があったのは確かだが、訓練兵の誰とも生い立ちや出自の話をしてこなかった。当時は友人だと思っていたが、俺はレティシアのことをなにも知らなかったんだと、今になって思い知らされたわけだ。
 俺が振り返ると、レティシアは歩き始めたところだった。


「では、明日の早朝に」


 口元に笑みを浮かべたレティシアは、小さく手を挙げながら去って行った。
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