4 / 276
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-3
しおりを挟む3
「今さら、なにしに来たんだ?」
テーブルを挟んで来客用の椅子に腰掛けたレティシアに、俺は憮然としたまま問いかけた。俺からしたら、都から追い出した張本人だ。今となっては未練はないが、それでも友好的に接する気分にはなれない。
騎士らしい鎧に身を包んだレティシアは、そんな俺の態度に苦笑した。
「友人に対して、邪険な態度を取るものじゃない。今日は貴様にとっても、良い話を持って来たんだからな」
騎士らしい口調にはなっているが、訓練兵時代のように親しげな表情だった。そんな口調に俺は懐かしさを覚えたが、それを表情に出さないように気をつけながら、無言で話の続きを促した。
レティシアは「やれやれ」と言わんばかりに、目を閉じながら息を吐いた。
「わたしが所属している騎士団が、この村に来たのは理由がある。この村から北東にある山の中に、魔物が住み着いたらしい。我々は、その魔物を討伐に行く。そこでだ。ランド――貴様の手を借りたい。報酬は、金貨や銀貨の入った革袋。それに、ここで手柄を立てれば王都とはいかんが、地方の領地であれば士官も可能だろう。
貴様にとっても、悪くない話だと思うが……どうだ?」
「士官ねぇ……興味ねぇな」
「そうだろう。やる気になってくれて――は?」
どうやら、俺が喜んで引き受けると思っていたらしい。レティシアは、俺が断ったことに気づくと、顔から表情が失せた。
その次の瞬間、心から驚いた顔をした彼女は、テーブルに身を乗り出してきた。
「な――なぜだっ!? 訓練兵として、過酷な日々を過ごしたというのに? すべての過去を無駄にするつもりか?」
「無駄にしたのは、どこのどいつだよ。王都から追放されて数ヶ月――こっちはもう、そういったことに興味を無くしたのさ。悪いが、ほかを当たってくれ」
「無茶を言うな!! 魔物の住処まで、あと二日の位置だ。ほかに借りられる手なんか、誰もいない」
最後のほうは、振り絞るような声だった。
俺は嘆息すると、テーブルの上を指先で一回だけ突いた。
「……仕事の依頼っていうなら、受けても良い」
「仕事の依頼?」
怪訝な顔をするレティシアに、俺は親指で家の玄関の脇を示した。そこには、俺が稼業にしている『手伝い屋』の立て看板が置いてある。
看板の文字を見てから、レティシアは怪訝な顔をした。
「手伝い屋?」
「そういうこと! 半日で六コパル、一日で十二コパルだ。往復で最短四日、討伐に一日としても、五日か。なら、最低でも一シパルと十コパル。食費と必要経費はそっち持ちだと助かる」
俺が代金の話をすると、目を丸くしたレイチェルが俺を見た。
「おい……ま、魔物討伐だぞ!? そんな端金で――」
「正規料金なんで。これで不服なら、ほかを当たってくれ」
半ば挑発じみた俺の発言に、レティシアは怒りやら哀しみやら、そして戸惑いなんかを桶に入れたあと、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜたような顔をした。
家の中に、沈黙が降りた。
無言で返答を待つ俺の前で、観念したようにレティシアが口を開いた。
「……わかった。その条件で、貴様に依頼をしよう。出発は明日の朝だが、騎士団に貴様を紹介しておきたい」
「わかりましたよ――お客さん」
立ち上がったレティシアのあとについて、俺も立ち上がった。ドアから出た俺の目の前に、横一列に並んだ騎士団の面々がいた。
軍馬に騎乗した鎧を着た青年のほかは、軽装の装備を身に纏った女性が五人だけ。いや……一人は、まだ十四、五の少女にしか見えない。
どう贔屓目に見ても、騎士団だと思えなかった。
唖然としている俺の前で、レティシアは青年に一礼してから、騎士団へ凜とした声を発した。
「彼が我らと共に魔物討伐に赴く、ランド・コールだ。各々の紹介は、移動しながらでいいだろう。訓練兵の経験もあるので、最低限のことは出来ると思って良い。出立は、明日の日の出の刻。それまで、各自準備と身体を休めることに専念せよ」
レティシアの言葉のあと、騎士風の青年は騎士団の面々に頷いた。
「団長の言うとおりだ。休憩や準備といって、侮ってはならん。これらも重要な任務である。総員――指定された宿の部屋へ向かえ!」
「はいっ!」
……なるほど。最低限の訓練はしているみたいだ。五人中、まともな動きをしているのは二人だけだけど。
騎士の青年は、軍馬に騎乗したまま馬首を俺のほうへと向けた。
年は俺よりも四、五歳は上だろう。髭を整えた精悍な顔立ち、髪は金髪で、目はブルーアイ。
銀色の甲冑は日差しを照り返していた。
青年は俺の前まで来ると、朗らかな笑みを浮かべた。
「道中、宜しく頼む。俺はベリット・ハイント男爵。このハイント領の領主だ」
「……これは御丁寧に。ランド・コールと申します」
定型文な俺の挨拶にも関わらず、ベリット男爵は鷹揚に頷いた。
そういえば、ここはそんな領地だったな。一礼した俺が頭を上げると、ベリットは馬首を巡らせた。
首だけを振り返ると、俺に意味ありげな笑みを向けた。
「妹の我が儘に付き合わせることになるが、辛抱してくれ」
「は――」
俺は驚きに、返事すらまともにできなかった。レティシアが貴族――騎士だから貴族の端くれだとは思ったけど、領主の妹君とは思わなかった。
そんな驚きが顔に出たのか、ベリット男爵は小さく笑った。
「無理をしない程度で構わぬから、仲良くしてやってくれ」
そう告げると、ベリット男爵は軍馬の手綱を操り、斜面を降りていった。
あとに残された俺は、半ば呆然としていた。レティシアの生い立ちなんて、まったく知らなかった。
俺が庶民の出という劣等感があったのは確かだが、訓練兵の誰とも生い立ちや出自の話をしてこなかった。当時は友人だと思っていたが、俺はレティシアのことをなにも知らなかったんだと、今になって思い知らされたわけだ。
俺が振り返ると、レティシアは歩き始めたところだった。
「では、明日の早朝に」
口元に笑みを浮かべたレティシアは、小さく手を挙げながら去って行った。
55
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる