屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

一章-1

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 一章 メイオール村の手伝い屋


   1

 早朝の体操を兼ねた鍛錬を終えた俺は、雨戸の隙間から差し込む光を頼りに、朝飯を胃袋に押し込んだ。昨日の昼に買ったパンと干し肉だけだけど、これで充分――というには、かなり物足りないが、家計の都合でこれだけだ。
 食器を水で満たした桶に入れると、俺は玄関というには質素過ぎるドアを開けた。
 日光が、暖かい。
 麦穂月(六月)ということもあり、まだまだ日差しも心地良い。
 俺が玄関で背伸びをしていると、顔見知りの女の子が前を通りかかった。


「ランドさん、おはよーっ!」


「ああ、おはよーさんです。今度、一緒に食事とかどう?」


「んー、やめとくねぇ。ランドさん、割り勘にするんだもん。奢ってくれるならいーよ」


「あーと。じゃあ、やめとく」


 あはは――と、笑いながら去って行く女の子に手を振ってから、俺は改めて周囲を見回した。
 俺がいるのは、メイオール村だ。メイオール山の麓に近い場所に、唯一ある村だから、そう名付けられたらしい。
 王都タイミョンから西に、馬車で七日のところにある。国境までは三日だから、辺境というわけではないけど、そこそこに田舎だ。
 俺の住まいは、村はずれの斜面にある二階建ての家だ。その昔、村に定住した剣士が住んでいた家らしい。
 二階は三部屋。一階は寝室と風呂場、便所、台所を兼ねた居間、剣を研ぐための作業場まである。生活のすべては一階だけで事足りるから、二階は物置代わりにしている。
 家の裏には、山羊や鶏を飼育する小屋なんかもある。
 俺の家のある斜面は、メイオール村を一望できるほど眺めが良い。左右に長いこの村は、農業と酪農が主な産業だけど、宿場町も兼ねてるようだ。
 村の東側と西側には村人の家が並び、南北を縦断する通り沿いには商店や旅籠屋、旅人のための厩舎が並んでいる。
 俺の家は村の南側、北側には緩やかな裾野に、麦や野菜などの畑が広がっていた。
 鶏の鳴き声を聞きながら、俺は深呼吸をした。


「今日も平和だねぇ……さて」


 独り言を呟いてから、俺は玄関の横に手作りの看板を立て掛けた。


『手伝い屋 営業中 未経験の仕事のときには、技能の一部を貰う場合があります』


 これが、この村で営む俺の店だ。依頼を受けて、村人や旅人の仕事や雑務の手伝いをしている。何でも屋や冒険者と違うのは、あくまでも仕事の手伝いというところだろう。
 俺だけで仕事をする、という依頼は断ることにしている。
 実際、これで仕事の依頼があるかと言われれば……王都を追放されて、約七ヶ月。最初こそ苦労したけど、今ではおかげさまで、そこそこの依頼がある。
 依頼は主に酪農家や農家の仕事だけど、それ以外にも旅籠の手伝いや狩り、狼や魔物から村を護るなど、依頼の内容は様々だ。
 村での生活は所謂、晴耕雨読。
 雨天のときは余り依頼はこないから、本を読んで過ごしている。追放されたときに、そこそこの量の本を持って来たんだ。
 訓練生だったときのように、いがみ合ったり、競い合ったり――そう言った荒々しさはほとんどなく、穏やかな日々を過ごしている。

 ……ホント、ここでの暮らしは自分でも驚くほど、性に合ってる気がしてる。

 追放されたときは、この世の終わりかと思ったけどな。
 寝て起きれば、安住の地――昔の格言だけど、よく言ったものだ。住み慣れると、王都での暮らしより快適に思える。
 俺は散歩と、それから村人たちへの挨拶回りを兼ねて、村の通りを歩いていた。    行き交う村人たちと挨拶を交わしていると、スミス爺さんが近寄って来た。


「やあ、ランド。おはようさん」


「おはようございます。今日は朝一からの畑じゃないんですか?」


「ああ……ちょいと、おまえさんに用事があってな」


「おっと。そういうことは、御依頼ですか?」


 俺の言葉に頷くと、スミス爺さんは後ろを振り返って、誰かを手招きした。
 確か……孫のスウトだっけ。八、九歳くらいの男の子が近寄って来た。スミス爺さんはスウトの頭を撫でながら、畑の方角へ逆の手の人差し指を向けた。


「明日、麦の収穫があるんだが、手伝ってくれんか」


「それは良いですけど……俺、麦畑は初めてですよ?」


「わかっとるさ。だから、孫のスウトで前払いさせてくれ」


 孫娘で支払いって……俺はスミス爺さんから、スウトへと視線を移した。


「えっと、やることは知ってるよな? チクッとするけど」


 スウトはやや緊張した面持ちで、俺に頷いた。
 それをそのまま、俺は了承の合図と受け取った。左手のトゲを出すと、差し出されたスウトの右腕に突き刺した。
 途端、俺の頭の中にスウトの持つスキルや《スキル》が、文字となって流れ込んで来た。
 掃除に――《スキル》は記憶術か。スミス爺さんが、スウトは物覚えが良いって言ってた気がするけど……なるほど納得。
 俺はスキルの列の中から、農業・麦のスキルを見つけた。この子の持つ《スキル》のお陰か、年の割に色は濃い。
 俺は農業・麦のスキルだけを考えた。この七ヶ月で、俺の持つ〈スキルドレイン〉の使い方も随分と理解した。
 〈スキルドレイン〉は俺の意志次第で、吸い取れるスキルの量が調整できる。だから、スキルを日常生活には影響が少ない程度に吸収、なんてことも可能なんだ。
 俺はスウトの持つ農業・麦の文字が、少しだけ薄くなる程度にスキルを吸収してから、左手を離した。
 これで、スウトの持っている農業・麦のスキルの一部は、俺の所有スキルとなった。


「うん。よく我慢したよな。偉い偉い」


「うん。爺ちゃんのげんこつより、痛くなかったよ」


「こら、そんなことばかり言いよって」


 スミス爺さんに叱られたスウトは、脱兎の如く逃げ出した。
 それを見送ったとき、一頭の騎馬が村の中に入ってくるのを見た。騎馬は村の中を突っ切り、そのまま村長の家へと向かった。
 騎馬に紋章――騎士団の先触れか?
 俺はそんな考えを顔に出さずに、スミス爺さんに肩を竦めてみせた。


「……村の中を騎馬で駆けるなんて、危なっかしいですねぇ」


「そうだなあ……しかし、この村に騎馬が来るなんざ、一〇年以上ぶりだ。厄介ごとが起きなきゃいいが」


「そーですねー」


 俺とスミス爺さんは呑気に肩を並べながら、走り去っていく騎馬を眺めていた。
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