最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』

三章-6

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   6

 ギリムマギを襲撃してきた魔物の群れも、最後の一体となった。
 普段よりも魔物の数は少なく、特に岩の魔物は一体だけだった。つい数十秒前まで岩の魔物だった瓦礫に近寄った俺は、胴体だったと思しき残骸に、ランタンの光を当てた。


「クラネスくん。なにをしてるの?」


「うんと、残骸に星座の刻印とかないかな……って思ってさ。マルドーが、こいつらは合成獣って言ってたから。魔術で造られたものなら、そういう印みたいなものがないのかな……と思って」


 俺の返答を聞いたアリオナさんが、小首を傾げた。


「印……メーカーのロゴマークみたいな?」


「いや……あ、でも、それに近いのかな? そういうのが見つかれば、なにかの手掛かりになると思って」


「ふぅん。じゃあ、あたしも手伝うね」


「ありがとう」


 俺はアリオナさんと一緒に、瓦礫を調べ始めた。
 岩は所々、粉々というか砂状になってしまっている。ちょっと固有振動数による音波が強すぎたかもしれない。

 ――肝心な場所まで、破壊しちゃったかな。

 そんな心配が頭を過ぎったが、ここまで破壊してしまった以上、なにも修正できない。
 残った部分を探していると、一匹の猫が近づいて来た。


〝お二人とも、瓦礫から証拠を探そうとしておられるのですか?〟


「エリーさん? ええっと、星座の刻印とかないかな……って思って。証拠になるかは、わかりませんけど」


〝合成された魔物に、刻印のようなものはないと思います。でも、もしかしたら核のようなものは、あるかもしれませんねぇ〟


「核……ですか。どんな形をしてるんですか?」


〝わかりません〟


 流れをぶった切るような、あっさりとした否定の言葉。一瞬だけど、『あれ? 突っ込み待ちなんかな』って思ってしまった。
 でも、そんなことする人じゃないと思うし……と、それを思いとどまった。


「えっと。それじゃあ、どう探せばいいんですか?」


〝そうですねぇ。それっぽいのが、あると思うんですけど。使い魔を介して、わたくしも一緒に調べます。核が見つかれば、星座の魔術の手掛かりになるかもしれません――と、マルドーさんも仰っています〟


 そういうことか。
 魔術の知識がないから、こういう助言はありがたい。


「……なるほど。お願いします」


〝はい〟


 短く返答をしたエリーさんの使い魔が、瓦礫の中を身軽に跳び始めた。
 音撃の影響か、岩は脆くなっている箇所がある。長剣の柄で岩を叩くと、ボロボロと容易に崩れた。
 核の所在がわからない以上、手当たり次第に探すしかない。
 夜が明ける前に見つかるか……と思っていたら、周囲の話し声が増えていくことに気付いた。


「クラネスさん、こっちの岩は、まだ固いです。脆くさせることはできませんか?」


「若、お手伝いします」


 メリィさんとフレディは、わかるんだけど……。
 それ以外の人たちが、瓦礫に集まってきていた。


「なにか探してるのか?」


「岩を割るくらいなら、俺も手伝うぞ」


 民兵たちが残骸に集まってきて、岩を砕き始めた。俺やアリオナさんは、そんな彼らの姿を呆然と眺めていた。


「クラネスくん、これってどうなってるの?」


「よく、わからないけど……手伝ってくれるみたいだね」


 アリオナさんも困惑してるみたいだけど、それは俺も同じだ。
 そんなとき、民兵として最初に魔物を撃退した朝に、俺たちに「なんとかしてくれ」と行ってきた男性が近寄って来た。


「やあ。今日も、あんたたちのお陰で、生き延びることができたよ」


「あの、それは別にいいんですけど……この状況は一体?」


「ああ……あんたらに、恩返しがしたいんだと。戦いじゃあ、あんたたちの足手まといになるだけだが、人手のいることなら、俺たちだって手伝えるからな。命の恩人に、この程度のことしかできないが、それは勘弁してくれよ」


 俺たちに小さく手を振った民兵の男性は、岩を砕こうとしている仲間たちのところへと歩いて行った。


〝彼らの厚意は、ありがたいですね。今は、ありがたく受け取っておきましょう〟


 使い魔を介したエリーさんの声に頷くと、俺はアリオナさんと一緒に核を探し始めた。
 民兵たちが割った岩へと近づいた俺は、破片を一つずつ調べ始めた。細かいやつはいいけど、大きなものは、動かすかだけでも一苦労だ。
 民兵の手を借りながら瓦礫を探すこと、十数分。
 アリオナさんが拾い上げたガラス球に、エリーさんが声をあげた。やや黒みがかったそれは、前世の世界にあった、卓球のピン球くらいの大きさだ。


〝それ、少し見せて下さい〟


「え? ああっと……アリオナさん、それをエリーさんに見せてみて」


 俺に頷きながら、アリオナさんは猫の前にガラス球を置いた。
 そのガラス球を覗き込んできたエリーさんの使い魔は、俺とアリオナさんの顔を交互に見た。


〝恐らく、これが核です〟


「ホントですか? これが、核?」


 ガラス球を見る俺の声に反応して、アリオナさんもガラス球へと目を向けた。
 その俺たちに、エリーさんの使い魔は興味深げに前足でガラス球を突いた。


〝間違いないと思いますよ? この玉の中に、生命力の源になっていた山蛭やローチの姿が見えます〟


「山蛭にローチ……って。そんなのが核だったんですか?」


〝ええ。それらの魂で、あの魔物は動いていたようです〟


 なるほど……こういうものを合成してできた魔物ってことか。でも……こういうのは、ゴーレムって言わないんだろうか。
 少し気になるけど……今は気にしないでおこう。
 とにかく、目当てのものは見つかった――と、籠手をした手でガラス球を掴もうとしたとき、アリオナさんの顔が引きつっていることに気付いた。


「どうしたの?」


「蛭……ローチって、ゴキブリだよね……あたし、そんなの触っちゃったんだ……」


 あ、なるほど。そりゃ、女の子にとってはキモイ代物でしかないよね。
 俺はガラス球を革袋に入れると、手伝ってくれた民兵たちに礼を述べた。朝になったら、マルドーの家に出発……か。
 寝る暇がなさそうだな……と思いながら、俺はまだ暗い空を見上げた。



 朝を迎え、夜まで民兵としての任務を解かれた俺たちは、マルドーの案内でギリムマギを出発した。
 どうやら、マルドーの家も街の外にあったらしい。


〝俺やフミンキーだけじゃねぇ。大抵の魔術師は、街の外に居を構えるのが普通だったんだ。近づいて来る不届き者を見つけるのに便利だし、ちょっと大袈裟な研究をしても誰にも見られずに済む〟


「……爆発とかですか?」


〝そういう研究をしている奴らもいたな。ま、俺はそういうのとは無関係ねえけどな。とまあ、そんなわけで俺の家もちょっと遠くに造ったってわけだ〟


 エリーさんに答えつつ、マルドーが取り憑いた使い魔の目は、進行方向へと向いた。


〝といっても、北にある山の中だがな。遺跡として残ってはいるからな……〟


「なんで知ってるんです?」


 俺の問いに、マルドーはあっさりと答えた。


〝魔物騒ぎが起こる前までは、夜中に帰ったりしてたからな。まだ中が荒らされてないことも確認済みだ。フミンキーの家よりは、かなり近いからな。すぐに着くぞ〟


「ああ、なるほど」


 地縛霊……ってヤツじゃ無いから、街からも出られるのか。
 マルドーの言葉通り、北にある山に入ると、『ソレ』はすぐに見つかった。小さな洞窟は斜面の草むらに隠されていて、パッと見には視認し難い。
 洞窟は俺でも腰を屈めないと入れないくらい小さいけど、奥行きはかなりありそうだ。


「ここを進むのか……」


〝なに、すぐさ〟


 猫に取り憑いたマルドーは、難なく洞窟に入っていく。俺たちは、なんとなく諦めた雰囲気で、彼のあとに続いた。
 狭い――と思っていた洞窟だったけど、いつの間にか屈まなくても平気な広さになっていた。それどころか、灯りが無くても周囲は明るくなり、しかも地面や壁面は岩肌から、明らかな人工物――石材に変わっていた。


「これは……」


〝ああ、ちょいと偽装してるのさ。俺が中に入れば、正確な順路に入ることができる――って思ってくれ〟


「つまり、マルドーさんの魂が鍵、みたいなものなんですね」


〝そういうこった〟


 エリーさんに答えながら、マルドーは金属製のドアを前足で突いた。


〝霊体なら気にせず入れるんだがな。すまないが、開けてくれ。この中が、俺の家だ〟


「……わかった」


 マルドーに促され、俺はドアノブに手を伸ばした。

 さて……なにが出るやら、だ。

 ちょっとした期待と興奮、そしてかなりの不安を抱きながら、俺はドアを開けた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

本作、週一アップと申しましたが……土曜日のみのアップとなりそうです。
書き溜めも、ここまでだったりしますし。来週まで、お待ち下さいませ。

本文中に出たローチとは、Gのことです。そりゃ、アリオナさんもどん引きしますわ……。

少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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