最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』

三章-5

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   5

 夕方になると、召集の鐘が鳴った。
 俺たちは全員で西門の壁際に移動した。全員というのは、いつもの面子に、エリーさんを加えた五人ってことだ。
 もしかしたら、マルドーとの戦いになるかもしれない。その覚悟は、調査から帰ってきたときに、もう終えている。
 いつもの場所で、マルドーが出てくるかはわからない――だけど、ヤツは必ずやってくるという確信が、俺の中にはあった。
 今日の調査の結果は、気になるところだろうし。
 壁際に集まった俺たちは、門の前に布陣をする指示が出るのを待っていた。普段なら、調査のことや魔物のことなど、会話も交わしている時間だ。だけど今日は、誰もが口を開かない。
 それだけ、全員が緊張しているんだ。
 日が陰ってきて、壁際の影が濃くなってきた。俺たちが周囲を見回してると、いつものように、ボンヤリとした影が壁際に現れた。


〝よお、集まっているな。おお、今日はエリーも一緒か。調査のことも聞きたかったから、こりゃあ丁度いい〟


 こっちの気も知らないで、めっちゃ陽気だなぁ……このゴースト。

 影になっているからか、無警戒に近づいて来たマルドーは、俺たちが好意的な表情をしていないことに気づき、やや困惑した顔をした。
 俺たちの顔を見回すマルドーに、俺は静かに告げた――いや、少し喧嘩腰だったかもしれない。


「マルドーさん……死霊術が使えるって、本当ですか?」


 この問いで、マルドーがどう出るか……だ。居心地の悪い沈黙が降りる中、俺たちは睨み合うような格好となった。
 そのまま、十秒は経ってないと思うけど……緊張からかアリオナさんが「ふぅ」と息を吐いた直後、マルドーがいきなり破顔した。


〝はっはっはっ! そうか、ばれちまったか!〟


 まいったねーと笑うマルドーは、好奇心に満ちた目を俺たちに向けた。


〝ところで、どうやって知ったんだ? 伝聞――っていうのは、ちょっと無理があるか。なんの書物を見たんだ?〟


 俺たちは、誤魔化すどころか苦い表情一つ浮かべないマルドーに、呆気にとられていた。

 ……っていうか。この人……いや、この幽霊マルドー、死霊術師っていう陰鬱なイメージとは真逆に、目茶苦茶陽気な言動をしてくるんだけど。
 陽気なゴーストってだけで、イメージとかけ離れてるのに、さらに死霊術師のイメージからも遠すぎる。
 なんか、マルドーの存在自体が、なにかのドッキリ企画だって言われても、なんか納得してしまいそうな気分だ。
 俺が軽い頭痛に襲われ始めた横で、メリィさんが複雑な顔をマルドーに向けた。


「……死霊術師ということを知られても、平気なんですか?」


〝うん? ああ……まあ、一般的な印象が最悪の部類だってことは、知ってるさ。だから隠してたわけだしな。けどまあ、知られたからって、困ることはなにもねぇしな〟


「……どういうことです?」


〝どういうこと……ね。それじゃあ逆に問うが、俺が普通の魔術師だった場合でも、俺への心証が変わるか?〟


 マルドーの問いに俺とメリィさん、それにフレディは、それぞれに視線を交錯させた。
 問いの内容にあった状況を想像したけど……確かに、今とさほど変わらない、ってことがわかった。
 強引にこの街に来させて、厄介ごとに巻き込んだ糞野郎――って部分が大きすぎるからね……魔術師とか死霊術師とか、それに比べたら瑣末なこと過ぎる。
 頭を掻きながらマルドーに肩を竦めた俺が、質問を投げようとした直前に、エリーさんが口を開いた。


「一つ、お訊ねしても宜しいでしょうか? マルドーさんの守護星座は、なんですか?」


〝ワイバーン座だ。それが、どうかしたか?〟


 その返答は、俺が予想した通りのものだった。
 カレンさんが見つけた書物に、書物を書いた女性と恋仲になったのは、ワイバーン座の魔術師だという記述があった。
 だからフミンキーの話を聞いている途中で、俺はヤツの言葉に疑いを持ち始めたんだ。
 どうやらエリーさんも、そのことに気付いていたらしい。


「いえ、実は――」


 エリーさんは、前回の調査で起きたことを、順序立てて話を始めた。
 遺跡の柱を介して、フミンキーの話を聞いたこと。その中で、マルドーが死霊術師ということや、星座のこと、マルドーが魔物を召喚していると行っていたこと――それらを話終えたエリーさんに、マルドーは険しい顔を向けた。


〝なるほどな。こんな話を聞けば、俺のことを危ぶんでも仕方が無い……か〟


「そうですね。まあ、どっちが怪しいかって問われれば、フミンキーのほうだと思ってはいるんですけどね」


 俺が自分の考えを告げると、メリィさんが不思議そうな顔で訊いてきた。


「そこです。前にも聞きましたけど……なんで、そう思うんですか?」


「カレンさんが探し当てた書物に、書いてありましたよ。あの本を記した女性と恋に落ちたのは、ワイバーン座の魔術師だって。フミンキーは蛇座ですから、該当しません。このことは、エリーさんも気付いていると思いますよ」


「え? そうなんですか、エリー……?」


 驚いた顔をするメリィさんに、エリーさんは目をパチパチと、何度も瞬かせた。


「メリィ、気付いてなかったの?」


「……う。いや、あの……その……はい」


 がっくりと項垂れたメリィさんを横目に、マルドーが少し呆れた顔で俺とエリーさんとを交互に見た。


〝そこまで察しがついているなら、なぜ皆に説明をしなかった?〟


「そうは言うけど、こっちは情報も少なければ、状況判断をする材料だってほとんどないですし。直接、当人の口から聞くのが、一番良い気がしたんですよ」


〝だからって、疑い過ぎな気がするぜ〟


「うちの隊商も限界が近いんで、手段を選んでる余裕がないんですよ。それに、この街の兵士や民兵たちも」


〝……〟


 俺の返答を聞いて、マルドーは大きく肩を上下させた。ゴーストだから呼吸はしていないんだろうけど、生前の癖なんだろう。
 言葉が途切れたとき、唐突にフレディが口を開いた。


「しかし、これでフミンキーという幽霊が黒幕である可能性が、高まったのでしょう。彼を斃してしまえば、解決では?」


〝……本当にヤツが黒幕なら、それで終わるとは思えねぇんだよ。ヤツは星座に関する魔術を創設した家系の末だ。そうなると最悪、魔術師無しで魔物の召喚や合成くらいは、やれるのかもしれん。まずは、魔物を出現させている仕掛けを止めるのが先決だ〟


「あの。星座の魔術というのは占星術くらいしか知りませんが……」


 魔術師でもあるエリーさんの意見に、マルドーは難しい顔をしたまま顔を上げた。


〝それは恐らく、フミンキーが死んだせいだろうな。説明をすれば長くなるが……星座というのは、どういうものだと思う?〟


「それは大昔の神話や伝承などを、星々の形に当てはめたもの……だと。少なくとも、わたくしはそう教えられました」


〝だろうな。だが、それはフミンキーの一族が、星座の秘密を隠すために広めた、嘘だ。俺が調べた範囲でしかねぇが……元々は星々の力を得るために、魔方陣のシンボルとして造り出したものらしい〟


「魔方陣のシンボル? 六芒星のようなものということでしょうか」


〝そうだ。一族の秘儀として、星々を魔方陣として使っていたらしい。それを秘匿するために、星座に伝承や神話を当てはめ、人々の目を誤魔化したんだ。これは星の力を使うことで、術者の魔力なしで魔術が行使できるって代物だ。それだけじゃなく、もっと剣呑なものになると、守護星座の影響下にある者に、強力な魔術を施すこともできる……らしい〟


「すいません。最後の部分の解釈が少し難しいです」


〝ああ、すまん。俺もそれほど詳しくなくてな。そうだな、例えば……だ。貝座の産まれの者がいたとしよう。そいつに貝座の魔方陣を利用して、拘束の魔術を使った場合、その威力が数倍以上になるって感じだな。産まれに関することだからか、守護星座は人々に大なり小なり影響を与えている」


「俺は一月五日の馬座だから、馬座の魔術を使われたらヤバイってこと?」


「あたし、十二月三十日の……熊座? 熊座の魔術なんてあったら、なにか拙いの?」


 会話の流れは理解できてないようだけど、俺の言葉を聞いてか、話に入って来た。
 俺たちの言葉に、マルドーは頷いた。


〝そうだ。そう思ってくれ。そういった星座の力を利用したものだと……俺は推測している〟


「よくわかりませんが。つまり、その星座の魔術を止める手段を探す必要がある……と? 先にフミンキーを斃してから、魔術を止めれば良いのでは」


〝その場合、最後っ屁に星座の魔方陣で何をしでかすか、わからねぇ。だから、先に星座の魔方陣なり、魔物を召喚する仕掛けを破壊する必要がある〟


 マルドーの言い分には、矛盾がないように思えた。
 だけど一点、どうしても気になるところがある。


「昼間に斃しに行けば、星座の魔方陣だって使えないんじゃない?」


〝夜空じゃないから、星は出てない……か? だが、夜か昼間かは、あまり関係ないんだよ。昼間の空、青空の向こう側には星々が浮かんでいる。夜や昼で、効果に差は出るだろうが、魔術が使用できないって状況にはならねぇのさ。星座占いだって、昼間にやってるだろ? あの程度の魔術でも昼間に行使できるんだ。秘儀っていうなら、時間に関係無く行使できるさ〟


 マルドーの説明を聞いて、俺は夕暮れの空を見上げた。
 たしかに、空の向こう側には宇宙がある。そこには星々が煌めき、太陽や月がある――前の世界じゃ基本的な知識であるはずなのに、すっかり忘れていた。


「それでは、我々はどうすれば良いのでしょう?」


〝そっちを調べる手伝いをしてくれると、助かるが……知識がないんじゃ、わからねぇだろうしな。俺の家に、関係した書籍があるはずだ。そこで、資料を読んでみてくれないか? 魔方陣を探す手が増えれば、俺も助かる〟


 そう言われてしまったら、断れない。
 とりあえずの方針が決まったとき、閉門の鐘が鳴り響いた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

というわけで、誕生日の設定が出せました……と。死んだ日が同じなのに誕生日が違うのは、転生したときは、まだ母親のお腹の中だったので、出産日の差が出た……という感じです。
それだけかって言われると、そうじゃないんですけど。とりあえずは、そういうことで。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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