34 / 71
第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』
一章-2
しおりを挟む
2
ギリムマギへと続く街道で、俺たち《カーターの隊商》は木の人形のような魔物に襲われた。
人形といっても、木彫り人形のように愛嬌のある顔や指があるわけじゃない。二本に纏まった根っこのような脚に、手は葉っぱのついた五本の枝。頭部はどれかわからないけど、きっと一番上で揺れている三本の枝葉のどれかなんだろう。
その木の人形が、三体。北向きに進んでいた隊商の西に広がる森の中から、いきなり現れたんだ。
一体一体の強さは、大したことがない。だけど痛みを感じず、感情も存在しないのか、傷を負わせても怯んだり、臆したりしないために、そこそこ手こずってしまった。
俺も《力》を最大限に使って、なんとか斃せる程度には、頑丈でしぶとかった。
「……なんなんだよ、この化け物」
「ゴーレムというものでしょうか?」
俺が跪いて人形を見ていると、フレディが声をかけてきた。長剣を鞘に収めながら人形の表面に触れながら、少し首を傾げた。
「動かないでいると、ただの低木に見えますが」
「そうだよね。これが、帰らずの街の原因だったり……すると思う?」
俺の問いに、フレディは首を傾げた。
「どうでしょう。わたくしや若だけでなく、他の傭兵でも一対一で斃せていますから。これ自体が噂の原因とは、考え憎いと思います」
「やっぱりそうか……まあ、悩んでもわからないんだろうけどね」
馬車を振り返ると、商人たちの心配そうな目が俺たちへと向けられていた。皆、あの予言じみた脅迫に不安を感じ、そしてこの魔物の襲撃に恐怖を覚えたようだ。
俺はそんな雰囲気を払拭するように、大きく手を叩いた。
「さあ、街へ急ぎましょう! 少なくとも、ここよりは安全だと思いますし。なんかやばそうな雰囲気だったら、速攻で逃げちゃいましょう!」
いつもなら俺の軽口に、突っ込みの一つも入るのに、今回はみな無言で出発の準備をし始めた。
……だから言ったのに。
俺は小さく溜息を吐くと、御者台にいるアリオナさんに手を挙げながら、厨房馬車へと戻った。
それからギリムマギに到着したのは、一時間ほど経ってからだ。
噂のせいか、旅人の訪問はまったく無かった。しかし城塞の門は大きく開かれ、衛兵の姿も見られる。
門から見える街並みは、以前に訪れたときと、そんなに変わっていないように思えた。
隊商の先頭を進む厨房馬車が城塞の門に近づくと、すぐ側に立っていた若い衛兵が、俺に話しかけてきた。
「おまえたちは……噂を聞いていないのか?」
「少しだけ、耳にしましたよ。けどまあ、御指名を受けちゃいまして」
「御指名……しかし」
「おい、余計なことを喋るな」
近くにいた中年の衛兵が、若い衛兵の言葉を遮った。そして俺たちのあいだに割って入ってくると、厳めしい顔を俺に向けてきた。
「妙な噂が出回っているようだが、街の中は平穏そのものだ。しっかりと稼いでいくといい」
「……どうも」
俺は一応、礼を言ってから街の中へと入った。
あの衛兵たちのやりとりだけで、街についての噂に真実味が増してしまった。街の様子を見回せば、大きな街では必見かける行商人や、巡礼者の姿を見かけない。その代わり、傭兵や民兵と思われる者たちが、多く見られた。
市場に出向いて商売を始めたのはいいんだけど……。
「おい、押すな!」
「ちょっと! それは、あたしのよ!」
想定以上の人混みになってしまい、商人たちは商売に大わらわ――といった感じだ。ただし、人だかりの集まるところは、顕著に差が出てしまっている。
食料品や消耗品を取り扱う商人が盛況で、絨毯などの贅沢品は人が少ない。とはいえ、まったくいないわけではなく、裕福層らしい服装の者が馬車を除いていた。
そして……。
「クラネスくん……お客さんがこないの」
半泣きのアリオナさんが、俺の厨房馬車に踊ってきた。どうやらこの街では、腕相撲勝負は需要がなかったようだ。
「ああ……まあ、街の噂もあって、行商人も来ないようだし。商業的にも縮小傾向だから、娯楽関係は人気薄かもね」
「うう……売り上げが……」
こればかりは仕方が無いんだけど……街の状況より、稼ぎのほうが気になるなんて。ちょっと前なら、もっと不安がっていたはずなのに。
アリオナさんも、隊商での生活に熟れてきはったなぁ……。
などと感傷的になっている余裕が、俺にはなかった。
傭兵や民兵たちが、こぞって《カーターサンド》を買いに来たんだ。珍しい食事をしたいっていうのは、流れ者の欲求の一つだ。
傭兵なんかも流れ者ではあるけど、民兵はどうなんだろう?
接客をしていると、最後の晩餐でも食べに来た――という顔をしている人が、たまにいる。
このあたりに、戦の噂はない。
それなのに、民兵が駆り出されているっていうのは……これはなんというか、イヤな予感しかしないんだけど。
山賊なんかが、領主街を襲うとは考え難い。あいつらが襲うのは旅人か、小さな村がほとんどだ。
となると領主街が民兵を召集している理由は、他にある。その見極めをする必要は、しておいたほうがよさそうだ。
たった一日の滞在だけど、そのあいだに致命的な状況に陥ることだってある。ここは慎重に……最悪、夜逃げ同然に街を出ることも考えないと。
「あの、まだ買えますか?」
小窓から声をかけられ、俺は思考の底から戻って来た。
慌てて振り返ると、赤毛の少女がこちらを見ていた。金属製だけど軽装の鎧に長剣を下げているから、民兵か傭兵みたいだ。
俺は営業用の笑みを浮かべてから、小窓から顔を出した。
「いらっしゃいませ。まだ大丈夫ですよ」
「ああ、よかった。その、カーターサンドを二つ」
「はい。合計で四コパになります。少し待って下さいね」
俺は答えながら、開きにしたパンの断面にガーリックバターを塗り、軽く炙った。手早く具材とマヨネーズを盛り合わせたものを二つ作ってから、代金と引き替えに少女に手渡した。
「……どうも。この隊商は、明日も商売をしますか?」
「それは……なんとも。こちらかも聞きたいことがあるんですけど……この街って、なんでこんなに物々しいんですか? 雇われた理由とか、聞いてます?」
俺の問いに、少女は一瞬、きょとんとした。
だけどすぐに、なにかを察したように苦笑いを浮かべた。
「あ、ごめんなさい。あたし、傭兵じゃないんで。行商をしてる……その、馬車の護衛をしてて。まだ、商売はしてないんですけど……ね。だから、詳しい状況とかも、わからなくて」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。つい、勘違いを」
「謝らないで下さい。あたしも、こんな格好をしてるから、傭兵って思われても仕方が無いって思いますし」
あはは――と、少女は笑ってみせたけど……なんか、作り笑いっぽいんだよなぁ。
そんなとき、目の前に止まっていた馬車の幌から、ひょっこりと御者台側に人影が出てきた。
やけに長い金髪の目立つ少女――に見える。とてもじゃないが、行商人には見えないけどな……。
その金髪の少女は、不安げな顔で周囲を見回した。
「メリィ!? まだかかりそうですの?」
「あ、お――お嬢様! すいません、今戻ります!」
赤毛の少女が馬車に戻ると、そこで金髪の少女と二、三の言葉を交わした。
少しして、入れ替わるように金髪の少女が厨房馬車へと近寄って来た。ドレスとまではいかないが、かなり質の良い生地を使ったチェニックを着ている。手首までを隠す長袖は、まるでローブのようにゆったりとした造りで、左手に持った木の杖を突きながら歩いていた。
少し脚が弱いのかと思っていると、金髪の少女が俺に会釈をしてきた。
「うちの者が、お手数をおかけしたようで」
「あ、いえ。話を振ったのは、こちらですので」
俺が会釈を返すと、金髪の少女は淑やかに微笑んだ。
「わたくしは、エリーと申します。先の者は、メリィ。わたくしの護衛をしておりますのの。街に滞在しているあいだ、どうぞ……よろしく」
「ええ。こちらこそ」
やけに丁寧な言葉遣いに、俺は戸惑った。それに口調も、商人にしてはゆったりとしている。
俺はふと気になって、エリーさんに訊いてみた。
「あの、この街の噂は御存知ですか?」
「噂……いいえ?」
エリーさんは、僅かに首を傾げた。なるほど、噂を知らなきゃ街に来ても不思議じゃないか。
そんなことを考えたのが顔に出たのか、エリーさんは顎に細い人差し指を添えながら、小首を傾げた。
「……あまり良くない噂ということですか。でも、それでしたら何故、あなたがたは、この街に来たんです?」
「いえ……ちょっと、余り嬉しくないお誘いがあってですね。仕方なく」
まさか、幽霊に脅されてとも言えず、俺は誤魔化すように肩を竦めながら答えた。
それで話を終わらせたかったけど、エリーさんは「まあ」と呟くように言ってから、やわらかく微笑んだ。
「実は、わたくしたちもなんですの。それも……内緒ですけど、男の幽霊さんから」
エリーさんが口走った言葉に、俺は心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
俺たちと、まったく同じ状況だ。そんな驚きに言葉を失っていると、エリーさんの笑みが増した。
「……ここで出会ったのも、偶然ではないかもしれませんね。それでは、また――運命の導きがあったときに」
なんか、不思議な人だ。
優雅な一礼とともに、エリーさんは自分の馬車へと戻って行った。
男の幽霊――あのときのゴーストが、また出てきたりするんだろうか? そっちも気にしなきゃならないって考えると、頭が痛い。
とにかく、あとで街の中を調べてみよう。
逃げ出すなら早いほうがいいし――と、そんなことを考えながら、俺は次の客が来るまで、このあとの行動について悩み続けた。
ギリムマギへと続く街道で、俺たち《カーターの隊商》は木の人形のような魔物に襲われた。
人形といっても、木彫り人形のように愛嬌のある顔や指があるわけじゃない。二本に纏まった根っこのような脚に、手は葉っぱのついた五本の枝。頭部はどれかわからないけど、きっと一番上で揺れている三本の枝葉のどれかなんだろう。
その木の人形が、三体。北向きに進んでいた隊商の西に広がる森の中から、いきなり現れたんだ。
一体一体の強さは、大したことがない。だけど痛みを感じず、感情も存在しないのか、傷を負わせても怯んだり、臆したりしないために、そこそこ手こずってしまった。
俺も《力》を最大限に使って、なんとか斃せる程度には、頑丈でしぶとかった。
「……なんなんだよ、この化け物」
「ゴーレムというものでしょうか?」
俺が跪いて人形を見ていると、フレディが声をかけてきた。長剣を鞘に収めながら人形の表面に触れながら、少し首を傾げた。
「動かないでいると、ただの低木に見えますが」
「そうだよね。これが、帰らずの街の原因だったり……すると思う?」
俺の問いに、フレディは首を傾げた。
「どうでしょう。わたくしや若だけでなく、他の傭兵でも一対一で斃せていますから。これ自体が噂の原因とは、考え憎いと思います」
「やっぱりそうか……まあ、悩んでもわからないんだろうけどね」
馬車を振り返ると、商人たちの心配そうな目が俺たちへと向けられていた。皆、あの予言じみた脅迫に不安を感じ、そしてこの魔物の襲撃に恐怖を覚えたようだ。
俺はそんな雰囲気を払拭するように、大きく手を叩いた。
「さあ、街へ急ぎましょう! 少なくとも、ここよりは安全だと思いますし。なんかやばそうな雰囲気だったら、速攻で逃げちゃいましょう!」
いつもなら俺の軽口に、突っ込みの一つも入るのに、今回はみな無言で出発の準備をし始めた。
……だから言ったのに。
俺は小さく溜息を吐くと、御者台にいるアリオナさんに手を挙げながら、厨房馬車へと戻った。
それからギリムマギに到着したのは、一時間ほど経ってからだ。
噂のせいか、旅人の訪問はまったく無かった。しかし城塞の門は大きく開かれ、衛兵の姿も見られる。
門から見える街並みは、以前に訪れたときと、そんなに変わっていないように思えた。
隊商の先頭を進む厨房馬車が城塞の門に近づくと、すぐ側に立っていた若い衛兵が、俺に話しかけてきた。
「おまえたちは……噂を聞いていないのか?」
「少しだけ、耳にしましたよ。けどまあ、御指名を受けちゃいまして」
「御指名……しかし」
「おい、余計なことを喋るな」
近くにいた中年の衛兵が、若い衛兵の言葉を遮った。そして俺たちのあいだに割って入ってくると、厳めしい顔を俺に向けてきた。
「妙な噂が出回っているようだが、街の中は平穏そのものだ。しっかりと稼いでいくといい」
「……どうも」
俺は一応、礼を言ってから街の中へと入った。
あの衛兵たちのやりとりだけで、街についての噂に真実味が増してしまった。街の様子を見回せば、大きな街では必見かける行商人や、巡礼者の姿を見かけない。その代わり、傭兵や民兵と思われる者たちが、多く見られた。
市場に出向いて商売を始めたのはいいんだけど……。
「おい、押すな!」
「ちょっと! それは、あたしのよ!」
想定以上の人混みになってしまい、商人たちは商売に大わらわ――といった感じだ。ただし、人だかりの集まるところは、顕著に差が出てしまっている。
食料品や消耗品を取り扱う商人が盛況で、絨毯などの贅沢品は人が少ない。とはいえ、まったくいないわけではなく、裕福層らしい服装の者が馬車を除いていた。
そして……。
「クラネスくん……お客さんがこないの」
半泣きのアリオナさんが、俺の厨房馬車に踊ってきた。どうやらこの街では、腕相撲勝負は需要がなかったようだ。
「ああ……まあ、街の噂もあって、行商人も来ないようだし。商業的にも縮小傾向だから、娯楽関係は人気薄かもね」
「うう……売り上げが……」
こればかりは仕方が無いんだけど……街の状況より、稼ぎのほうが気になるなんて。ちょっと前なら、もっと不安がっていたはずなのに。
アリオナさんも、隊商での生活に熟れてきはったなぁ……。
などと感傷的になっている余裕が、俺にはなかった。
傭兵や民兵たちが、こぞって《カーターサンド》を買いに来たんだ。珍しい食事をしたいっていうのは、流れ者の欲求の一つだ。
傭兵なんかも流れ者ではあるけど、民兵はどうなんだろう?
接客をしていると、最後の晩餐でも食べに来た――という顔をしている人が、たまにいる。
このあたりに、戦の噂はない。
それなのに、民兵が駆り出されているっていうのは……これはなんというか、イヤな予感しかしないんだけど。
山賊なんかが、領主街を襲うとは考え難い。あいつらが襲うのは旅人か、小さな村がほとんどだ。
となると領主街が民兵を召集している理由は、他にある。その見極めをする必要は、しておいたほうがよさそうだ。
たった一日の滞在だけど、そのあいだに致命的な状況に陥ることだってある。ここは慎重に……最悪、夜逃げ同然に街を出ることも考えないと。
「あの、まだ買えますか?」
小窓から声をかけられ、俺は思考の底から戻って来た。
慌てて振り返ると、赤毛の少女がこちらを見ていた。金属製だけど軽装の鎧に長剣を下げているから、民兵か傭兵みたいだ。
俺は営業用の笑みを浮かべてから、小窓から顔を出した。
「いらっしゃいませ。まだ大丈夫ですよ」
「ああ、よかった。その、カーターサンドを二つ」
「はい。合計で四コパになります。少し待って下さいね」
俺は答えながら、開きにしたパンの断面にガーリックバターを塗り、軽く炙った。手早く具材とマヨネーズを盛り合わせたものを二つ作ってから、代金と引き替えに少女に手渡した。
「……どうも。この隊商は、明日も商売をしますか?」
「それは……なんとも。こちらかも聞きたいことがあるんですけど……この街って、なんでこんなに物々しいんですか? 雇われた理由とか、聞いてます?」
俺の問いに、少女は一瞬、きょとんとした。
だけどすぐに、なにかを察したように苦笑いを浮かべた。
「あ、ごめんなさい。あたし、傭兵じゃないんで。行商をしてる……その、馬車の護衛をしてて。まだ、商売はしてないんですけど……ね。だから、詳しい状況とかも、わからなくて」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。つい、勘違いを」
「謝らないで下さい。あたしも、こんな格好をしてるから、傭兵って思われても仕方が無いって思いますし」
あはは――と、少女は笑ってみせたけど……なんか、作り笑いっぽいんだよなぁ。
そんなとき、目の前に止まっていた馬車の幌から、ひょっこりと御者台側に人影が出てきた。
やけに長い金髪の目立つ少女――に見える。とてもじゃないが、行商人には見えないけどな……。
その金髪の少女は、不安げな顔で周囲を見回した。
「メリィ!? まだかかりそうですの?」
「あ、お――お嬢様! すいません、今戻ります!」
赤毛の少女が馬車に戻ると、そこで金髪の少女と二、三の言葉を交わした。
少しして、入れ替わるように金髪の少女が厨房馬車へと近寄って来た。ドレスとまではいかないが、かなり質の良い生地を使ったチェニックを着ている。手首までを隠す長袖は、まるでローブのようにゆったりとした造りで、左手に持った木の杖を突きながら歩いていた。
少し脚が弱いのかと思っていると、金髪の少女が俺に会釈をしてきた。
「うちの者が、お手数をおかけしたようで」
「あ、いえ。話を振ったのは、こちらですので」
俺が会釈を返すと、金髪の少女は淑やかに微笑んだ。
「わたくしは、エリーと申します。先の者は、メリィ。わたくしの護衛をしておりますのの。街に滞在しているあいだ、どうぞ……よろしく」
「ええ。こちらこそ」
やけに丁寧な言葉遣いに、俺は戸惑った。それに口調も、商人にしてはゆったりとしている。
俺はふと気になって、エリーさんに訊いてみた。
「あの、この街の噂は御存知ですか?」
「噂……いいえ?」
エリーさんは、僅かに首を傾げた。なるほど、噂を知らなきゃ街に来ても不思議じゃないか。
そんなことを考えたのが顔に出たのか、エリーさんは顎に細い人差し指を添えながら、小首を傾げた。
「……あまり良くない噂ということですか。でも、それでしたら何故、あなたがたは、この街に来たんです?」
「いえ……ちょっと、余り嬉しくないお誘いがあってですね。仕方なく」
まさか、幽霊に脅されてとも言えず、俺は誤魔化すように肩を竦めながら答えた。
それで話を終わらせたかったけど、エリーさんは「まあ」と呟くように言ってから、やわらかく微笑んだ。
「実は、わたくしたちもなんですの。それも……内緒ですけど、男の幽霊さんから」
エリーさんが口走った言葉に、俺は心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
俺たちと、まったく同じ状況だ。そんな驚きに言葉を失っていると、エリーさんの笑みが増した。
「……ここで出会ったのも、偶然ではないかもしれませんね。それでは、また――運命の導きがあったときに」
なんか、不思議な人だ。
優雅な一礼とともに、エリーさんは自分の馬車へと戻って行った。
男の幽霊――あのときのゴーストが、また出てきたりするんだろうか? そっちも気にしなきゃならないって考えると、頭が痛い。
とにかく、あとで街の中を調べてみよう。
逃げ出すなら早いほうがいいし――と、そんなことを考えながら、俺は次の客が来るまで、このあとの行動について悩み続けた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m


【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く


貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる