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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
邪な神託を求めて~そして封印へ その1
しおりを挟む邪な神託を求めて~そして封印へ その1
アラド技術長はアーハムにある留置所の個室で、ブツブツとなにかを呟いていた。
唯一の出入り口であるドアから一番遠い、左側の隅で膝を抱えて座っていた。ほとんど寝ていないのか、目の下には濃い隈ができ、虚ろな視線は虚空をジッと見つめていた。
「……我が神、我がすがるのは汝のみ……救い給え、我を救い給え、神よ。そのためなら、我はすべてを捧げよう」
すぐ右側の壁の天井近くには、外の光を取り入れるための、鉄格子付きの小窓がある。
差し込む光を畏れるように、アラド技術長は身体を縮ませた。光から避けた目が、どこから入り込んだのか、小さな蜘蛛を捕らえた。
黒っぽい身体の蜘蛛には、白い斑点がある。その蜘蛛に手を差し伸べたアラド技術長は、歓喜の顔を浮かべた。
「ああ……我が神」
*
僕はジョージ大尉やダグラスさんに呼ばれて、旧第三坑道に来ていた。
魔神を封印していた《箱》が見つかったことは聞いていたけど、発掘された現場を見るのは初めてだった。
燃焼炉による照明で照らされた《箱》を見上げたレオナは、気の重そうな溜息を吐いた。
「……あれ、使い物になるのかな?」
見つかった《箱》は土砂で汚れていたけど、それは大したことじゃない。発掘技師にとっては、こんな汚れは日常茶飯事だ。除去をする技術は、ほとんど誰でも持っている。
問題なのは、両開きになっていた扉がひしゃげていたことだ。右側の扉に至っては、蝶番から外れそうになっていた。
魔神アイホーントが扉をこじ開けた影響か、それとも瓦礫に埋まったときになったのか――どちらにせよ、このままでは封印に使えない。
「あの蝶番とか、どうやって直せばいいんだろう……」
「そこは、これから検討だな。とりあえず、安全を確保しながら土砂の除去と足場の組み上げをせにゃならん」
そう説明するダグラスさんの声も、やや力がない。これだけ大きな魔導器を直したことがある技師なんて、この街では誰も居ないに違いない。
応援してくれ、と言われても……僕には手に余る案件だ。
だけどダグラスさんは、期待を込めた目で僕らを見た。
「あの大きな鎧なら、なんとかできないか?」
「簡単に言わないで下さい。あれ、指があるのは左腕だけなんですよ? 右腕には指どころか手がないんですから」
レオナの返答に、ダグラスさんは慌てて手を振った。
「いや、細かい作業までお願いしようとは思ってねぇ。扉を支えたり、ちょいと位置を正してくれるだけでもいいんだが……」
「それにしたって、大きさが違いすぎます。あたしだけじゃ、きっと無理ですよ、あれ」
「そっか……無理か」
ダグラスさんは、腕を組むと考え込んでしまった。
あの扉をなんとかしないと、魔神の再封印は無理――それは、僕でも理解できた。技師なりに、普段通りのやり方でいくなら力学を活用するんだけど。
ダグラスさんがここまで困ってるということは、今回に至っては、手持ちの機材では難しいのかもしれない。
僕は少し考えてから、ダグラスさんに訊いてみた。
「あの、技術部隊……の力を借りても無理なんですか?」
「ああ……奴らはなぁ。責任者が不在になって、指揮系統が無茶無茶だ。あのなんとか技術長っていうヤツに、おんぶに抱っこし過ぎたな、ありゃ」
「そうですか……なら、あの技術長に訊けば」
「個人的には、反対だな」
ジョージ大尉は《箱》を見上げてから、首を振った。
あの《箱》の惨状について、責任を感じているみたいだ。ジョージ大尉の作戦によって、瓦礫に埋もれたらしいから、それは当然なんだろうけど。
当人もそれを理解しているみたいで、「この件について、わたしには口を挟む権利はほとんどなくてね」と自嘲気味に肩を竦めたりしていた。
ダグラスさんは、そのあたりの文句を言いたそうにしながらも、グッと堪えた顔をした。
「機材だけでも借りる段取りをして頂けると、助かるんですがね。そうすれば、このお嬢ちゃんの手を借りながら、なんとかできるかもしれねぇわけですし。ああなったものを、なんとかしようって話ですから。少しは力になって頂けませんか?」
ダグラスさんの意見を聞いていたジョージ大尉は、口の中にある苦虫を躊躇いながら噛みつぶした――そんな顔で頷いた。
「……わかった。一度、話をしてみよう」
これで一歩前進したかな……そんな期待を抱きつつ、僕とレオナは《箱》の発掘作業を手伝うことにした。
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