消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

技術長の高慢と欺瞞の渦 その6

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 技術長の高慢と欺瞞の渦 その6


 翌朝、僕はレオナに食事を運んでいた。
 アラド技術長が使った魔導器は、先端がくっついた魔導器から魔力を吸い取るものだったみたいだ。
 本来は、魔導器を介して使用者の魔力を奪うんだろうけど、レオナの場合はレオナ自身の魔力がほとんど奪われたみたいだ。
 昨晩の一件のあと、茹で卵と水だけは食べてもらったんだけど、それだけでは魔力の完全回復とはならなかったみたいだ。
 僕はパンと茹で卵、それに干し肉をレオナが横になっているベッドの横にある棚に置いた。


「おはよう……ご飯を持って来たから、食べてね」


「アウィン……あのね。その……食べ、させて?」


 レオナは、顔を真っ赤にさせながらお願いしてきた。
 僕が照れながら固まっていると、小さな声で「今ね、動けないから……」と理由を言ってきた。

 そっか……う、動けないなら、仕方ない、よね?

 僕は自分自身に言い聞かせる――というか、寧ろ言い訳を述べながら、レオナの口に千切ったパンを近づけた。
 少しだけ開けた唇が、パンの切れ端を挟んだ。咀嚼するように唇が動くと、少しずつパンが口の中に収まっていく。
 パンがすべて口の中に入る寸前、レオナの唇と舌先が僕の指を嘗めた――感触がした。
 僕は顔を真っ赤にさせながら指を引っ込めると、しどろもどろな口調でレオナに訊いた。


「あ、あの、食べにくかったり……する、かな?」


「少し……」


「そ、そ――そっか。どうしようかな……ええっと、パンは水で溶けないしな……」


 皿に水を注いで、パンを浸してみたけど……余計、食べにくくなった気がする。
 どうしようか――と迷っていると、レオナが熱っぽくなった顔で言った。


「あのね……口移しとか……どう?」


「く、口移し!?」


 僕は思わず、手にしていたパンを落としそうになった。
 口移しって、口と口で――。

 ……。
 …………。

 あ、思考が停止してた。
 多分だけど、耳まで真っ赤になった顔を向けた僕に、レオナも頬を真っ赤にした顔で見つめ返してきた。
 そんなレオナの顔にドキドキとしながら、僕は強ばった口を無理矢理に動かした。


「あ、あの、食べにくい……から?」


「う、うん……食べにくい、から」


 食べにくいから、仕方がない……のかな?
 僕が手にしたパンを、躊躇いがちに自分の口に持っていこうとしたとき、階下でドアがノックされた。
 そこで、僕とレオナはハッと我に返った顔になった。


「ごめん、ちょっと玄関に行ってくるから。少し待ってて」


「あ、うん……」


 僕は潤んだ瞳のレオナを残して、部屋から出て行った。





 独り部屋に残ったレオナは、ぎこちない手足を駆使して、顔を隠すようにシーツをおでこのあたりまで上げた。


「あたし、なにやってんの……あれじゃあ、ただの変な人じゃない」


 身体が自由に動いたなら、枕に突っ伏して悶えていたに違いない。それほどの後悔を抱きながら、シーツの中で自己嫌悪に陥っていた。

   *

 玄関を開けると、そこにいたのはジョージ大尉だった。
 軍服を着てはいるけど、襟元を開けていた。パッと見では『業務時間外』という雰囲気を漂わせているジョージ大尉は、僕の周囲を見回した。


「レオナシアは?」


「二階で寝てます。昨日の騒動で、ちょっと魔力不足で」


「なるほど。その報告は受けている。できれば、二人揃って話を聞いて貰いたいのだが……」


「女の子の部屋ですから、なるべく立ち入りは……少し待って下さい」


 僕はレオナの部屋に行くと、事情を話した。部屋に入れるのは、やはり抵抗があるということで。
 僕らは相談した結果、真向かいの空き部屋で話をすることに決めた。
 僕が支えながらレオナを空き部屋に移動させて、椅子に座らせた。シーツで肩から下を覆ってから、僕はジョージ大尉を部屋まで案内した。


「こんな朝から、バタバタとさせてすまない。君たちは、今日の仕事は休んで貰って構わない。発掘技師の班長には、そう申請してある。ゆっくりと回復に専念して欲しい」


「ありがとうございます」


「うむ。それで、軍から君たちに教えられる状況を話しておこうと思ってね。アラド技術長以下、君らを襲撃をした兵士たちは、軍規違反で拘留中だ。裁判も行われるが、総司令部に護送後、処分が決まる。降格では済まないだろう。
 家の修理については、少し待ってくれたまえ。今、総司令部からの返信待ちだ。それで、ここからが本題だが――」


 ジョージ大尉は溜息を吐いてから、話を続けた。


「あの《箱》の調査は、残った技術部隊で続行するのだが……街にいる腕のいい技師を知らないか? 君らでもいいんだが、昨日の今日では彼らに協力するのは抵抗があるだろうしな。出来れば一〇名程度は協力して欲しいんだが……」


「それなら、ダグラスさんの店に訊いてみます。この街でもぴかいちの腕ですよ」


「助かる。それで――ひとつ訊いてもいいかね?」


 ジョージ大尉は僕らを見ながら、口元に握った手を添えた。


「……事後かね?」


「そんなわけありません――」


 レオナは怒鳴りかけたが、途中で力が抜けたようだ。語尾で声が小さくなっていった。僕はといえば、『事後』の意味が分からなくて、きょとん、とするしかなかった。
 ジョージ大尉は、「ああ、すまない。少し親父臭かったな」と謝罪してから、去って行った。


 僕はレオナを部屋に戻しながら、『事後』という言葉の意味が気になってしまった。
 レオナに訊いてみたら――。


「今は知らなくていいの。でも……そのうちには、覚えてね」


 宿題なんて、何年ぶりだろう? 誰か教えてくれんだろうか、これ。

 とりあえず明日辺り、ファインさんかハービィさんにでも訊いてみようかな?

 そんなことを考えながら、僕はレオナの食事に付き合っていた。


                                                                  技術長の高慢と欺瞞の渦 完
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