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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
発掘都市アーハム襲撃 その5
しおりを挟む発掘都市アーハム襲撃 その5
ワーグの騎兵と乱戦を繰り広げている護衛兵と軍の小隊は、劣勢だった。挟撃されたことに加え、ワーグの機動力に順応できる兵が少なかった。
兵士や護衛兵の中には、すでに戦死者も出ている。
そんな中、グレイはワーグの牙を避けつつ、戦斧で胴体へと斬りつけた。しかし、その一撃は魔導器の鎧と同様の結界によって、遮られてしまう。
「――くっ」
騎兵のゴブリンはいないといえ、ワーグだけでも驚異である。現に戦死した兵は、ワーグにのしかかられて、魔力を消費し尽くしたあと、その牙によって喉笛を食い千切られたのだ。
先のワーグを振り返った直後、グレイは背中を強打された。
鎧の結界によって傷こそはないが、打撃の影響でふらついてしまった。先ほどのワーグとは別の、騎兵のゴブリンから戦鎚の一撃を受けたようだ。
(まさか……こうも一方的な戦いになるとは)
どこで間違えたのか、グレイには見当がつかなかった。
ただ言えることは、この戦いで護衛兵のほとんどは戦死するだろう――自分や最終防衛ラインにいる、孫娘のファインも含めて。
(それだけが悔いだな)
覚悟を決めたグレイは、戦斧を構え直した。自分の魔力が、尽きかけていることも理解していた。
グレイの目が、前方へと廻ったワーグの騎兵へと向けられた。最後の突進を――と一歩を踏み込んだ直後、一条の雷が振ってきた。
雷が騎兵とワーグを貫き、魔導器の結界を剥いだ。
続けて降り注いだのは、魔力弾の雨だ。魔力弾はワーグとゴブリンの頭部を正確に貫き、その息の根を止めた。
騎兵のいないワーグも同様に、雷と魔力弾によって斃された。
何ごとだ――と、眼を瞬いたとき、赤と黒の鎧を身に纏った女性が、空から降りてきた。
僕が追いかけている前で、レオナは二体のワーグと騎兵のゴブリンを一体斃した。
跳躍の限界なのか着地したレオナに、グレイさんが詰め寄るのが見えた。息も絶え絶えに追いついた僕の目には、二人に迫っている影を捉えていた。
それに気づかないグレイさんは、レオナに戦斧の先端を向けていた。
「貴様、命令違反だ」
「命令違反? そんなの関係ない」
「大ありだ! 貴様のようなものがいるから――」
こんなときに、なにをやってるんだ。僕はリーンアームドをした左手を構えると、影の前に飛び込んだ。
「攻勢モードで防御っ!!」
僕の声に反応して、僕ら三人を赤い結界が覆った。
それに一瞬遅れて、ゴブリンの騎兵が跨がったワーグが飛びかかってきた。結界に弾かれたワーグが横倒しになると、ゴブリンの騎兵は地に投げ出された。
「レオナっ!!」
「ごめん!」
結界を消すのに合わせて雷攻撃を放ったレオナは、騎兵やワーグの結界が失せると、ライフルの銃撃を浴びせた。
戦いの緊張感からか、レオナは今まで以上に凜々しい顔立ちだった。
「最優先なのは、敵を殲滅すること。違う?」
「……わかった」
グレイさんの返答を聞いて、レオナは僕に近づいて来た。
「アウィン。援護をお願い。今みたいな感じでいいから」
「うん……わかった」
僕は答えながら、駆け出したレオナのあとを追った。彼女の行く手には、ワーグの一撃を受けて転倒した兵士がいる。
僕は兵士に近寄ると、すぐに結界を張った。
後方部隊の援護も再開したことで、レオナの援護が入ってからの戦いは、それほど時間がかからなかった。
逃げ出した四騎のワーグとゴブリンの騎兵を斃すのに、一時間くらい余分にかかったくらいだ。
魔造動甲冑で帰る途中、僕はレオナに疑問に思ったことを訊ねた。
「あそこまで、徹底的にやる必要ってあるの?」
「あるのよ。逃げ出したゴブリンとかはね……厄介だから」
「えっと……恨みで人を襲うとか?」
「それだけじゃないのよ」
思い出すだけでもうんざり――レオンの声は、そんな感じだった。
「あいつら、つがいでいると潜伏した場所で増えるのよ。三年も潜伏してたら、二〇体くらいになるんじゃない? それくらい多産なの。それで街とか村とか襲うから……逃げたヤツは、徹底的に追い詰めないといけないってわけ」
「うわぁ……」
あんなのが至る所で増えるとか、考えるだけでもイヤになる。
逃げる相手を斃すことに罪悪感はあったけど、理由がわかれば少しだけ楽になる。これは魔物との戦争で、あいつらの目的は僕たちを滅ぼすことなんだ。
僅かな慈悲が、誰かを苦しめることになるんだ。
胸の奥に去来した苦い感情に、僕はきっと、暗い顔をしていたんだと思う。すぐ後ろにいたレオナが、妙に明るい声を出した。
「さてと。これからどうしよっか。ジョージ大尉に晩ご飯くらいは、たかれそうじゃない?」
「あはは……あの人とご飯って、気が重いけどね」
僕が項垂れながら答えると、レオンは「あははは」と笑った。
「それじゃあ、ファインに奢ってもらうのは? 元々、そのつもりだったし」
「戦いのあとだから、警護兵は忙しいと思うよ?」
「そっか――せっかく、ご飯代が浮くと思ったのにね」
どことなく所帯じみた発言に、僕は苦笑した。
そんなことを話しているうちに、街の明かりが見えてきた。僕たちは晩ご飯をどうするかという話をしながら、アーハムへと急いだ。
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