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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
発掘都市アーハム襲撃 その2
しおりを挟む発掘都市アーハム襲撃 その2
発掘都市アーハムの東側には、荒野が広がっている。南部から西にかけては畑や畜産、北部には軍が駐留する居留地がある。
アーハムの東門から、およそ三ロクト(約五.五キロ)の地点に、異質な軍勢が集結していた。
アーハム側には、ワーグという狼に似た大型の獣に騎乗したゴブリンの隊列が、およそ五〇騎。歩兵のゴブリンが十体に、両翼にオーガが計四体。そのオーガたちは、巨大な投石器に手を添えていた。
部隊の後方には大熊に跨がった、通常のものより二回りほど大きなゴブリンがいた。
国家連合軍では、ゴブリンロードと呼ばれる個体だ。
魔導器の鎧兜に身を包んだゴブリンロードに、粗末な毛皮を羽織ったゴブリンが駆け寄った。
「将。《隠れ》二〇騎による先遣隊、位置に付きましてございます。偵察の兵も戻りました」
「……そうか。して、我らが魔神のお姿は確認できたのであろうな」
「……それが、街は至って平穏。戦闘なども行われず、魔神のお姿も確認できぬと――」
「馬鹿を言うな!!」
ゴブリンロードの怒声に、報告のゴブリンだけでなく、騎兵の最後尾も畏れに身を強ばらせた。それほどの激情を露わにしながら、ゴブリンロードは目の前のゴブリンの首を掴んだ。
「我らが魔神が、人間どもに敗れるはずはない!」
「で、ですが報告では、その通りだと――」
「どういうことだ。復活の報が誤りだったか――それでは、我らをここに送り出すために、囮になった兵たちの奮闘が無駄となる」
「は――彼らの仇討ちを果たすためにも、我らは魔神復活に命を捨てる覚悟でございます」
「その通りだ。だが、魔神のお姿が確認できねば、それも果たせぬ」
ゴブリンロードはゴブリンを放すと、唸るような声をあげつつ、空を見上げた。夕暮れの空はまだ明るく、昼間に慣れた目でも日差しが当たる場所では目が眩む。
街の方角へと目を向ければ、太陽の日差しに反射したのか時折、チカッという光が見える。
(こちらの所在は知られているか――隠密のために遠回りをした分、前線からの連絡のほうが早かったか)
将らしい冷静さで状況を分析したゴブリンロードは、兵たちに号令をかけた。
「全軍、右へ回頭せよ。ここでは、奴らの目が届く。岩陰で夜を待つ」
ゴブリンロードは部隊を移動させながら、発掘都市アーハムへと首を向けた。
日が暮れるにつれ、建物の明かりが目立ってきた。
(人間は街で生活を続けている――か。我らが魔神は、本当に復活なされたのか?)
魔神が封印されていることは、知識として知っている。その真偽を疑いはしないが、これまで復活を果たしたという報は、一度もなかったのである。
(もしや、地下で回復をなさっておいでか? そうなら、攻めるのは時期尚早だが……)
前線に来たシャーマンは、復活を果たした魔神が出たことは報せてきたが、詳しい状態については口にしなかった。
兵糧の備蓄は、もう半分を切っている。
(損害を覚悟で引き返すより、人里を攻めるべきか。兵を飢えさせるわけにはいかぬ)
充分な食事を得られなければ、兵の士気は下がる。これは人間側でも同じだが、魔物の軍では、もっと大きな意味がある。
人の味を覚えることで、本能の赴くままに人間と戦うことができるようになる。人間と戦うことは、戦争であるのと同時に、狩りであるのだ。
ゴブリンロードは騎獣である大熊を部隊の先頭へと向かわせた。
「皆、聞け! 日が暮れたのち、我らは人の街を襲撃する。兵糧は少ないが、出来るだけの英気を養っておけ!!」
ゴブリンロードの檄に、兵たるゴブリンたちは、鬨の声をあげた。
気の早いものは、荷の中から兵糧である腐りかけた人の腕や脚を取り出し、ワーグに跨がったゴブリンに配り始めていた。
それを咎めるでもなく、再び最後尾へと戻ったゴブリンロードは、そこにいる歩兵のゴブリンの一体に伝令を命じた。
「先遣隊に伝えよ。夜を待って街を襲撃する。それまで、決して動くな――と」
「――はっ」
姿勢を低くしたゴブリンが駆け足で去ってくと、ゴブリンロードは兵から兵糧を受け取った。
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