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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
発掘都市アーハム襲撃 その1
しおりを挟む発掘都市アーハム襲撃 その1
僕とレオナが第二坑道から外に出ると、ファインさんとハービィさんが待っていた。
時間は、空の感じからすると午後四時過ぎくらい。発掘も終わって、家に帰るところだった。
ファインさんはにこにこと、僕とレオナに手を振っていた。バービィさんは、その後ろから、のんびりと付いてきていた。
「アウィン、今帰りよね。ご飯を食べにいかない? ほら、前にご飯奢るって話したじゃない」
「あ、そういえば――でも、いいんですか? えっと、レオナも一緒になりますけど」
晩ご飯を食べに行くなら、僕一人でという訳にはいかない。同居しているレオナも一緒でないと――その……恋人みたいな関係にもなっているし――拙い気がする。
ファインさんはレオナを一瞥してから、肩を竦めた。
「仕方ないから、レオナシアも一緒でいいってば」
その少しむくれたような言い方に、ハービィさんはファインさんの後ろで戯けた顔をした。レオナと顔を見合わせた僕が苦笑いをしたとき、街にサイレンが鳴り響いた。
レオナは瞬時に、緊張した面持ちで周囲を見回した。
「なに、これ?」
「警戒のサイレンだよ。近くに、魔物が来てるみたい」
時折、魔物の部隊が前線をくぐり抜けることがあるんだ。軍から連絡があるのが大半だけど、それすらもすり抜けてくることがある。
このサイレンは、そんな部隊が街に接近しているという報せなんだ。
かなり重苦しい溜息を吐いたファインさんに、体格の良い、白髪の男性が近づいて来た。
全身を甲冑型の魔導器に包み、背には戦斧型の魔導器を背負っていた。猛禽類を思わせる目つきの初老の男性を見て、ファインさんの顔に緊張の色が浮かんだ。
「お爺様」
「ファイン。我らに召集がかかった。街の東門へと行くぞ。ん――そちらは……技師か」
ファインさんのお爺さんとういうと、グレイ・ランズ老だ。最も古株の護衛兵で、名門ランズ家の当主だ。
グレイさんは僕から目を離すと、ファインさんの背中を押した。
「えっと、ごめんね。それじゃあ、また――」
「えっと、ファイン。あたしたちの助っ人はいる?」
そんなレオナの声に、グレイさんは鋭い目を向けた。
「そこの女――護衛兵を甘く見るな。技師などの手など必要ない」
「あの、お爺様。アウィンたちは、あの魔神を斃した二人です」
ファインさんの説明に、グレイさんは少しだけ目を細めた。
だけど、態度は変わらない。
「その話は聞いた。かなりの辛勝だったそうじゃないか。我ら一族の大半は現場にいなかったのが悔やまれるな。さすれば、あんな魔神なぞ、我ら一族で屠れたものを」
「ああ……あの場にいなかったから、そんな大口が叩けるのね。はっきり言って、大戦中に比べたら、今の兵士たちの練度はかなり低いわ。その程度で、魔神と戦えるなんて言うのは、身の程知らずよ」
……げ。
どうやらグレイさんの言葉で、レオナの怒りに火か点いたみたいだ。腕を組んで柳眉を逆立てるレオナへと、グレイさんは近づいた。
「貴様――魔導器風情がどの口を利くのか」
「別に……正直な感想ですけど。文句があるのなら、現状の護衛兵に言ったらどうです?」
売り言葉に買い言葉――と思ってたら、グレイさんが怒りを露わに戦斧に手をかけた。
「貴様――魔導器としての立場を教えてくれる!!」
グレイさんが戦斧を振りかぶった直後、僕はレオナの前に飛び出ていた。
勢いよく振り下ろされた戦斧が、リーンアームドの結界によって弾かれた。
「……やめて下さい。女の子に暴力なんて」
結界を張る僕の声に、グレイさんは僅かに目を見広げた。
そのグレイさんが口を開く前に、僕は早口でまくし立てた。
「どんな結果だったにせよ、レオナのおかげで街は壊滅しなくて済んだんです。その恩人に対して、この仕打ちは道理に反すると思います」
「貴様――」
グレイさんに睨まれたけど、僕は視線を逸らさなかった。正直、この手のやり取りはダントたちで慣れている。
やがて、戦斧を引いたグレイさんは、僕らを睨み付けながら言い放った。
「良いだろう。だが覚えておけ。貴様らなんぞ、一族にとっては兎も同然だとな」
ファインさんに東門へ行くように告げたグレイさんは、足早に去って行った。ファインさんも僕らに謝ってから、グレイさんのあとを追った。
「まったく、知らないって怖いよな。ま、気が向いたら援護を頼むわ」
ハービィさんが立ち去ったあと、レオナは大きく息を吐いた。
「アウィン……ありがと。あたしも、人のことは言えないかもね。服を気にして、なにも出来なかったし」
「女の子だから、仕方ないよ。服とか気になる……んだよね。それより、どうする?」
援護に行くか行かないか――そんな僕の問いに、レオナは肩を竦めた。
「行くだけ行きましょうか。必要なさそうなら、帰ればいいし」
服を脱ぐ場所を探さないと――僕とレオナは、とりあえず金の砂塵亭へと向かうことにした。
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