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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
消耗品扱いの発掘技師は、魔造少女と世界を救う_アフターストーリー だって女の子だもの ~ レオナ その4
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レオナのバイトが決まった、二日後。
第二坑道の地下二〇リン(約一九メートル)を歩いている僕の横には、いつもより上機嫌なレオナがいた。
昨晩、念願の下着を購入したのが嬉しいようだ。バイトも初めているけど、そのバイト代では当然足りない。
結局、僕のバイト代と蓄えで買ったんだけど。それから下着が手に入った以上に喜んでいて、夜が明けた今も鼻歌混じりに歩いている。
それだけじゃなくって、坑道に入るときは鎧を身に纏うレオナが、今日はワンピースのままだ。
「……レオナ、ワンピースのままで大丈夫なの?」
「ここ数日は、ワームとか出てないじゃない。きっと今日も出ないんじゃない? 久しぶりに、普通の服を着てるって気分を満喫させてよ」
笑顔で答えるレオナの顔が眩しくて、僕は頬が熱くなるのを感じていた。
そんな僕を見て、レオナは微笑んだ。
「そんなに照れなくてもいいのに」
レオナがクスクスと笑った直後に、禿げた護衛兵が近づいて来た。
「呑気に笑っているなんざ、いい身分だな。発掘技師のくせによ」
そんな皮肉を吐くと、警護兵は去って行った。
穏やかな雰囲気を邪魔されてイラッとしたのか、レオナは禿げた護衛兵に舌を出した。
「なによ。イヤなヤツ」
「いや……まあ。こっちもふわふわし過ぎたかも」
苦笑いをした僕に、レオナは戯けたように唇を尖らせた。あんなことを言われたあとでも、上機嫌な気分は残っているみたいだ。
ホントに、どうしたんだろう……女の子って、ちょっと謎。
そんなレオナを連れたまま、僕は指定された区画に辿り着いた。天井の高さはおよそ五リン(約四メートル六〇センチ)、幅は六リン(約五メートル五〇センチ)の坑道だ。
すでに何人かの発掘技師が、作業を始めていた。
班長に挨拶をしてから、僕は指示された場所に移動した。
ある程度の掘削が終わった場所に、鎧の一部分らしい輪郭が浮き出ていた。とりあえず、僕の分担はこれらしい。
手がりで鎧の周辺の土を削っていく。大体、三〇分ほどで三分の一くらいが露出した。鎧の魔導器は完全に掘り出さないと、正常に動作するかどうかの確認ができない。
土か固いため、手がりでは思うように削れない。掘り出すまで、あと一時間はかかるかもしれない――と思った矢先、近くでドン、という音が響いた。
「なんだろう?」
僕が振り返ると、坑道の先から大声が聞こえた。それと、ずるずると壁や床をひきずるような音が近づいてきていた。
まさか――と思ったとき、巨大な影が照明の明かりに照らし出された。
直径だけでニリン(約一メートル八〇センチ)もある、巨大なワームだ。長さもかなりあるみたで、僕のところからでは、全体が見えなかった。
警護兵たちが戦闘を始めたけど、なんせ相手が大きすぎる。元々耐久力というか、生命力が半端ない種で、身体を半分にされても、しぶとく生きていたりする。
巨大なワームに、警護兵も手こずってるみたいだ。
「もう! なんで、こんな日に限って出るわけ!?」
レオナは多分、ワンピースの中で補助アーマーを身に纏いながら、背中の首元近くで結んだ紐をほどいた。
そのとき、ビリッという布が破れる音が数回聞こえた……なんの音だろう。ワンピースはなんともないけど。
ワンピースを脱いだレオナは、鎧を身に纏った。けど、その目はワームではなく、自分の真下に向けられていた。
「せ……かく、アウィンが買ってくれたのに」
なにかを小声で呟いてから、レオナは右腕から光の刀身を出した。
「絶対に、許さないからっ!!」
感情というものを感じず、食欲と生存欲しかないワームが、坑道内に響いたレオナの怒声に怯んだ――気がした。
一方的な戦いになる気がする。
そう思っていたら、本当にそうなった。
ワームを秒殺して戻って来たレオナは、破れて地面に落ちている下着の前でしゃがみ込んだ。
……そんなに下着が破れたことがショックだったんだ。
慰めになるかわからないけど、一つの案を胸に、僕はレオナの横に腰を降ろした。
「あの、レオナ? 下着なら、まだ換えがひと組あるよね。明日は給料日だし、新しいの買いに行けばいいよ。給料も増えてるって話だし。下着もなんとかなると思う」
僕の案を聞いて、レオナは半泣きの目で振り返った。
「……じゃあ、そうする。一緒に買いに行こうね」
「え――僕も行くの?」
「あたりまえじゃない。今度は、アウィンの好きな色で買うつもりだったし」
また下着を売ってる店に行くのか……周囲の視線が気になるし、恥ずかしいんだけど。
けどまあ、レオナがそう言うなら、行かなきゃ。
そんな考えが顔に出ていたのか、レオナは少し唇を尖らせた。むくれたような表情とその唇を見て、僕はエディンの墓参りに行ったときのことを思いだしていた。
その途端、レオナと唇を重ねた感触が蘇ってきて、僕は赤面しながら顔を背けた。
「どうしたの?」
「あ、いや、その……」
無意識に手で口を隠した僕に、レオナは赤面になりながら、上目遣いに睨んできた。
「別に……したいなら、してもいいのに」
「あ、いや、だって……そういうこと言われてないし、僕でいいのかって思っちゃうし」
「あのね、アウィン。こういうのは、男の人から、その……してくれたほうが、嬉しいんだけど。あと、『僕なんか』は、禁止。アウィンがいいって、いってるじゃない……」
「そ、そうなん、だ。あの、帰ってから……話の続きをしない?」
「……うん」
先ほどのレオナの剣幕を目の当たりにしてか、周囲の人たちは遠巻きに僕らを見ていた。だから、会話の内容は聞かれてないと思うけど……でも、やっぱり恥ずかしい。
二人して赤面していると、先ほど僕らに皮肉を言ってきた警護兵が近づいて来た。
「あ、あの! 先ほどは、失礼は発言をして、その、あのワームとの戦いを見て、自分が誰に喧嘩を売っちまったのか理解して……あの魔神を斃した二人だと気づけず……申しわけありませんでした!!」
土下座する勢いで頭を下げる警護兵に、レオナは「もう、いいから」と短く応じた。
それで終わり、と思ったんだけど、甘かった。その警護兵は感涙のような顔を見せると、周囲に響くような大声で言った。
「姐さん、ありがとうございやす!! この御恩、一生忘れません! なにかあったら、護衛兵のヤスンをお呼びくだせぇ」
揚々と去って行く警護兵を見送りながら、レオナは小さな溜息をついた。
「チンピラの親分になったみたいで、ちょっとヤダ」
まあ、その辺りは、女の子だから仕方がない意見だと思う。僕個人も、ああいうのは少し困るし。
この日を境に僕らは、警護兵から高圧的な態度をされることが、極端に減ったのだ。
レオナは複雑な心境みたいだったけど、慕ってくる警護兵は、残念なことに日に日に増えていくようだった。
だって女の子だもの ~レオナ 完
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