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魔剣士と光の魔女 二章『竜の顎で殺意は踊る~ジン・ナイト暗殺計画』

おまけ 4 ローウェルの印/竜骨の武具について /飛行魔術について など

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おまけ 4 ローウェルの印


 窪みの底ではコーウェル男爵が率いる騎士たちが、拘束されたヴァンたちを一カ所に集めていた。とはいえ、四人は俺の魔剣・冷によって低体温症と凍傷になっている。
 まともに歩くことが難しく、手当も同時進行で行われている中、俺はコーウェル男爵に借りていたローウェルの印を差し出した。


「これで依頼も完了ですし、借りていたものをお返しします」


 俺が借りていたのと、ボルナックさんが借りていたもの――計二枚のローウェルの印を見たコーウェル男爵は、俺の手を掴んで押し返してきた。


「それは、おまえと……そこの魔女にくれてやる。持って行け」


「え? でもこれ……貴重なものではないんですか?」


「こんなものは、ただの金属板にすぎん。それにドラゴンに勝った者ならば、ローウェルの印を持つのに、これ以上相応しい資格はない」


 真剣な顔で頷いて見せたコーウェル伯爵に、俺は頭を下げた。


「わかりました。有り難く――頂戴いたします」


 ちょっと噛みそうになったのは、内緒だ。
 俺がローウェルの印を腰袋に仕舞っていると、コーウェル男爵はにやりとした笑みを零した。


「その印は、古のドラゴンたちとの交渉にも役だったろう? これを見れば、一目でローウェル領からの使いとわかるからな」


「……あ、はい」


 ぎこちなく答えながら、俺は内心では違うことを考えていた。
 つまりは、もっと早く教えておいてくれよ――と。
 知らなかったこととはいえ、これを有効活用していればギーンとの戦いは避けられたのに。
 俺は苦笑したいのを我慢しながら、背後を振り返った。
 窪みの外周にいたガーラやギーンたちドラゴンたちは俺の視線に気づくと、皆一斉に視線を逸らした。
 ……あ、これはあれだ。

 こいつら――ここまでの道中で、ローウェルの印に気づいてやがったな。

 気づいたのなら、そこで教えておいて欲しかった。別に怒ったりしないのに――そんなことを思いながら、俺はコーウェル男爵から離れた。

   *

 冒険者やジョンらを連れて帰還する途中、コーウェル男爵は騎士の一人に話しかけられた。


「コーウェル様。ローウェルの印は、あの黒髪の少年に与えたのですか?」


「そうだ。ドラゴンに勝った少年――今から、勧誘の準備をしておいても損はあるまい。あの少女も魔女として、我が領地で召し抱えてもよいな。夫婦になるのなら、そのほうが良かろう」


 そう言って陽気に笑うコーウェル男爵は、ステフがステファニー・アーカム・キャッスルツリー女伯――つまり、キャッスルツリー領の領主と同一人物であることを(残念なことに)、知らなかった。
 つまり――コーウェル男爵の願望は、実現が困難だった。コーウェル男爵がそれに気づくのは、まだ先のことであった。


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 九月最後の投稿になりそうです。わたなべゆたか です。

 この話は二章の四章ー7の途中に入る――はずだったものです。ボツというか、省略しました。理由は、「無駄に長くなるから」。
 プロットは残ってましたので、おまけで復活させてしまいました。

 楽しんで頂けたら、幸いです。

 あと、票を入れて頂いた方々、本当にありがとうございました。これは本当に励みになりました。謹んで、御礼申し上げます。


○ドラゴンの骨で作った武具について

 ギーンの角で造られた長剣と籠手ですが、これはダグルンドの魔術によって造られました。ドラゴンが人間の姿に変わる魔術の応用――と思って頂ければ。
 ある意味、マジックアイテムですね。
 作中ではジンが魔術剣の威力が上がった――と感じていますが、実は勘違いというか、そう見えているだけです。
 詳細は後の話で――。今言えるのは戦闘力というより、書き手が悩む時間を減らすことができる能力ということです。

 ちなみに、マジックアイテムは魔術付与品という名目で、魔術師ギルドで一定数造られていたり……とはいえ、あまり強いものはないですし、高価ですが。


○飛行魔術について

 作中の世界において飛行魔術は、魔術をかけた品に乗るタイプです。
 身体に直接魔術をかけるタイプは――世界観的に合わないなと思った次第。理由をこじつけるなら、身体への負担が大きくなるから廃れた、ということで。

 余談ですが、魔女の飛行とくれば箒がイメージとしてあがりますが――多分、本作では余り出ません。というか、ステフは使わないです。
 理由として、キリスト教下ではR指定的な意味合いがあるので……前世でキリスト教圏だったステフは、そのことを知っているので使うのに抵抗がある、という設定です。
 ステフが椅子とかを使うのは、そのため。
 中世では籠にすっぽりと入った魔女が空を飛ぶ――という絵もあったようですし、箒に拘る必要はないと思ってます。


 もう一つ余談ですが、一章のエピローグでステフが船に追いついたのは、飛行の魔術をかけた椅子で、飛行船からHALOしたから。
 HALOを解らない方向けに説明するなら、マスターチーフを主人公としたXBOXのFPS――ではなく、高高度降下低高度開傘という降下方法のことです。本当に余談ですが。


○作中のジャーマンポテト
 なんちゃってジャーマンポテトと表記したのは、胡椒やニンニクなどの調味料が足りないからです。映画のロードオブザリング 旅の仲間 で似た様な料理が出てましたので、ファンタジーでも一般的な料理としてもいいのかなと。
 ただ時代背景的に胡椒は使わないほうが、雰囲気は出ると思います。
 胡椒、砂糖は交易品でしょうし、庶民は手が出ない、または手が出にくい品だと思います。

 中世を舞台とするなら、胡椒よりはマスタードですが……使える料理は限られるでしょうね。
(マスタードは庶民のスパイスとして、一般に使われていたようです)

 ちなみに、これを書いている人は、手抜き料理でたまに造ります。スーパーで買ったフライドポテト(出来れば皮付き)とカット済みのベーコンを使って、コンソメとか使わないなら五分未満で出来上がります。自炊する気が下降気味のときに助かってます。
 炒めている最後のほうで、とろけるタイプのスライスチーズを乗せても美味しいです。


 三章のプロットは、8割くらい完成……最後の方で手間取ってます。終盤の終盤は出来てますが、そこまでの経過に悩んでる感じです。


 それでは、また。宜しくお願いします!
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