上 下
52 / 194
魔剣士と光の魔女 二章『竜の顎で殺意は踊る~ジン・ナイト暗殺計画』

間話 ~ その3

しおりを挟む
   間話 ~ その3


 遙か昔――古の五大竜騎士が生きていた頃。

 大空を気持ちよさそうに飛んでいたダグルンドの背に、騎士が跨がっていた。筋骨逞しい体格に、全身鎧を身に纏っている。そのため、兜で覆われた顔は見ることができない。
 その騎士は手綱を操りながら、片手で面頬を覆っていた。


「ダグルンド! 悪いがもう少し速度を落としてくれ」


〝フレディ――どうした?〟


「……風が強すぎて目が開けられない」


 少し情けない意見に、ダグルンドは速度を落としながら、大笑いをした。その声を聴きながら騎士フレディーは、ダグルンドの首をポンポンと叩いた。


「笑わないでくれよ。人間の目は、あんなに速く飛ぶことに慣れてないんだ」


〝それはすまない――ん? ガーラが来たな〟


 ダグルンドが身体を少し傾けると、騎士フレディーは騎士が騎乗したガーラが上昇してきているのを見た。騎士はフレディーよりも細身で、鎧のラインも女性的だった。
 ガーラがダグルンドの横に並ぶと、女騎士は騎士フレディーに手を振った。


「独断でお散歩とは、いい身分だこと」


「いや、侵入者の警戒をしているだけだから。歴とした任務だ――知っててからかう癖は止めてくれないか、ジュアンナ」


「あら、ごめんなさい。だって、面白いんだもの。竜騎士フレディー・ローウェル? わたくしの愛しい人」


 騎士ジュアンナの言葉に、フレディーは言葉を詰まらせた。単に照れているだけだが、兜をしていてもジュアンナには筒抜けだった。
 クスクスとした笑い声に、騎士フレディーは兜の下でムスッとした顔をした。


「ジョアンナ?」


「ごめんなさい。でも、愛しい人っていうのは本当よ。それとも、嘘だと思ってる?」


「いや、思っていないが――」


「なら、今さら照れなくてもいいと思うのだけれど?」


 クスクスと忍び笑いを漏らす騎士ジョアンナに、ガーラが左目を向けた。


〝相も変わらず、仲の良いこと。秘訣はあるの?〟


「そうねぇ。胸とかでサービスすれば、イチコロかしら。ああ見えて、フレディーもけっこ」


「ジョアンナ! 頼むから止めてくれっ!!」


 騎士ジョアンナの発言を喚きながら遮る騎士フレディーに、ドラゴンたちは笑い声をあげた。
 普段の彼らは、人前ではこんな砕けた会話はしない。二人――そして騎竜しかいない空間でしか、こんな二人の姿を見ることはない。
 ダグルンドとガーラは、こうして本来の二人と飛んでいる時間を好んでいた。


「ねえ、フレディー……戦が終わったら、どうする?」


「もちろん――君と一緒になる。約束通りに」


〝婚礼の儀には、あたしたちも呼ぶという約束――忘れてない?〟


「もちろん、覚えてるわ。ガーラ……忘れるわけがないでしょ? ねえ?」


 騎士ジョアンナに促され、騎士フレディーも頷いた。


「そうとも。君たち五体のドラゴンは、わたしたちの仲間であり友人だ。婚礼の儀に呼ばない理由はないさ」


〝わかった――今から楽しみ〟


 夢見るような目をして、ガーラは背中の騎士ジョアンナ、そして騎士フレディーを順に見回した。
 互いに竜騎士である二人の婚礼は、きっと華やかなものになるだろう。ドラゴンたちにとっては話でしか聞いたことがない、一種の夢物語のようなものだ。
 本当に楽しみ――そう言ってガーラが片目を瞑って見せると、二人の騎士は少し照れたように、互いに微笑み合った。



 その後――蛮族との戦で、古の竜騎士たちは蛮族の王が操る巨人族と相まみえることとなった。
 この戦いでドラゴンたちは生き延びることが出来たが、五名の竜騎士のうち、四名が命を落とすこととなる。

 その四名の中には、騎士フレディーと騎士ジョアンナも含まれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...