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天狗の転生と言われて、何故か妖怪の世界を護ることになりました
プロローグ
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六歳になったばかりの烏森堅護は住んでいる町にある、古いお城へと歩いていた。水筒を肩から斜めに掛けていて、ハーフパンツにスニーカー、長袖のTシャツは黒で、頭髪は黒髪を短く切り揃えている。
季節は春。草花が芽吹き、乾燥していた空気にも温かい精気が混じり始めていた。堅護は観光客の間を縫うように城下町を抜け、城に近い神社の前で立ち止まった。
観光バスなどが停車する駐車場を横切った堅護は、稲荷を奉る神社を通過して、その裏にある桜の木に腰掛けた。水筒のお茶を飲みながら、繁盛というには控えめな観光客の往来を眺めていた。
堅護は、この場所が気に入っていた。にこにこと談笑している観光客を見ていると、自分も嬉しくなってくる。
「ねえ。なにを笑っているの?」
柔らかな少女の声に、堅護は慌てて振り返った。
いつからそこにいたのだろう――見上げた桜の枝に、黒髪を風になびかせた少女が腰掛けていた。
椿や牡丹で彩られた緑や赤、桜色の着物を順に重ね着をし、金色の帯を身体の前で結んでいる。足袋で包まれた足は、黒い三枚歯の高下駄を履いていた。
少女を見上げた堅護は、その華やかだがどこか儚げな少女に見とれてしまった。
「……お姉ちゃん、観光客?」
「かんこう――ああ、物見遊山ではないのよ。一休みするのに、立ち寄っただけ」
「そう……なんだ」
たおやかに微笑む少女に、堅護は顔を真っ赤にさせた。
照れを誤魔化すようにズボンのポケットから小さな箱を取り出すと、手の平に二粒の丸いチョコレートを転がした。
「食べる?」
「それは、なあに?」
ふわりと、まるで桜の花びらのように枝から下りた少女は、堅護の手からチョコレートをつまみ上げた。
一つ粒を口に入れると、少女の大きな黒い瞳が、さらに見開かれた。
「これ、美味しいわね。南蛮の御菓子?」
「南蛮――って?」
「そうねぇ……海の向こうの国のこと」
「外国……じゃないよ。これ、日本のお菓子だよ?」
「そう……坊や、詳しいのね」
少女に微笑まれ、堅護はさらに照れてしまった。
「坊や……じゃないよ。烏森堅護っていうの」
「からすもり、けんご――さんね。ふぅん。あちきは、墨染というの」
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「たまぁに、言われるわ」
「僕も。烏森って変わってるって、友だちに言われる」
堅護と墨染は顔を見合わせると、微笑み合った。
「それじゃあ、あちきと堅護さんは似たもの同士ね」
「だね」
ニカッと笑う堅護の頭を撫でた墨染は、「あら」と目を瞬かせた。
「へぇ……強い子なのね、堅護さんは」
「なんで?」
きょとん、とした堅護に、墨染は微笑みながら首を左右に振った。そして堅護から手を放すと、不意に空を見上げた。
そこに小さな影を認めた墨染は、笑みを消した。
「ごめんね。もう行かなきゃならないの。また会うこともあるかしらね」
「そっか……墨染めのお姉ちゃん、また会える? お菓子、もっと美味しいのもあるし」
「そうね。会うこともあるかもしれないわ。そのときは、堅護さんの御菓子を楽しみにしているわね」
「うん」
別れを惜しんだ堅護は、少し目を逸らした。
再び目を戻したときには、もう墨染の姿はどこにも見えなくなっていた。
空を見上げた堅護は、(墨染はきっと、空を飛んで行っちゃったんだ)と、頭のどこかで理解した。
この日から堅護は御菓子を吟味するのが楽しくなり、小学校高学年に上がるころには、自分でクッキーを焼くようになっていた。
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