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第7話 暴風域と電動アシスト自転車

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 自転車にとって、最大の敵は風である。と、多くのレーサーが語っていた。そのため、前方からの空力抵抗を下げるために開発されたのが、ドロップハンドルである。
 茜はそのハンドルの一番前を持ち、ステムが鎖骨に当たるギリギリの位置まで体を下げている。直角を越えて曲げられた肘に負担がかかる。その負担の何割かをサドルに預けて、なるべく負担を分担する。
「凄い姿勢だね。こう?」
 空も隣で真似をする。とはいえこちらはストレートバーハンドルだ。肘を限界まで曲げて、ようやく茜と同じ高さまで頭を下げることができた。
「ん?何か言ったか?空」
「凄い姿勢だね。って言ったんだよ」
「すまん、ワンモア」
 茜が耳に手を当てる。空は大きく息を吸うと、力任せに吐き出すようにして叫んだ。
「だ、か、ら!すごい姿勢だね!って言ったの!どうやるの?それ!」
「ああ、聞こえた。これはドロップハンドルだからできる姿勢ポジションだと思うぞ。実際にストレートバーでやっているやつは見たことがない」
「これじゃダメなの?」
「いや、ダメではないけど、その姿勢のままだとハンドルが操作しにくいだろう?」
「そっか。じゃあカーブは危ないね」
「そうだな。もっとも持ち替える手間があるわけでもないし、そのまま走ってもいいんじゃないか?疲れたりしないなら、って条件付きだがな」
「そっか。ドロップハンドルは持ち替えがあるもんね」
 空は納得して走り続ける。手の甲は肩につきそうなほど接近し、顎はステムに当たりそうだ。万が一にも障害物を踏むわけにはいかない。車体が跳ね上がった瞬間、ステムが顎にクリーンヒットしてもおかしくない姿勢だった。
(本当に、器用なやつだ)
 空の走り方を横目に、茜は思う。特に山道トレイル経験があるわけでも、BMXなどの実績があるわけでもない空だが、オンロードでの繊細な走りだけは茜以上かもしれない。
「茜。これ、まだ走り続けるの?」
「なんだ?もう休憩か?」
「休憩っていうか、今日はもう適当に宿を取って休んでもいいんじゃないかな?何ならネットカフェでもいいから、一泊しない?」
「いや、まだ21:00だろう?」
「もう何時でもいいよ!っていうか、うちではもうお風呂に入ってる時間だよ」
「お前んちの事情なんか知らねぇよ。っていうか、規則正しい生活してるんだな。アタイとは違って……うぁあ!」
 茜が横を向くと、すぐそこに空の顔があった。声が届きにくい中、自然とお互いの車体が接近する。茜はとっさに車体同士の距離を取り、顔を正面に戻した。
「どうしたの?」
「な、何でもねぇよ。空も前見てろ。っていうか、どうしてこの状況で身を乗り出せるんだよ!」
 茜が怒ったように言う。一方で怒られる理由に心当たりのない空は、
(茜っていつも不機嫌だよな)
 程度にしか思っていなかった。今、顔がぶつかりそうになったことも、あまり気にしていないようだ。

『さて、現在多くの選手たちが、この山間の町にいるみたいですね。実はこの状況、私たち主催者側も予想しない結果だったりしますぅ。参加者の皆さん、大変申し訳ありません』
 ミス・リードの声が聞こえる。片耳につけたワイヤレスイヤホンから、ようやく聞き取れるくらいの小さな音量で、それも途切れ途切れに。
「くそっ、ミスり実況さえ聞き取りにくいのか」
「っていうか、僕のスマホ、バッテリー切れそう……」
「え?なんだって?もっと大きな声で喋れよ」
「だ、か、ら!僕のスマホのバッテリーが切れる!」
 現在、空と茜の速度は、なんと16km/hだ。たったその程度の、驚愕の遅さであった。
 速度が出ないのに、風の影響がどうのこうのと言っていたのは何故か、と言うと、

『この山間部は、近くの平野との気圧差が高く、風が強いらしいのですよね。先ほど地元民の方から情報をお寄せいただきましたが、西からの強風は毎年の事で、酷い時にはトラックが横転したり、小屋が飛ばされた年もあるらしいです。
 地元の消防団も警戒に当たってくれていますよぉ。もしコースの中に異変がありましたら、こちらの実況放送でお伝えします。選手の皆さんは、可能な限りこのミスり実況を聞き続けながら、注意して走ってくださればと思います。
 ちなみに、この強風はせいぜい明日の朝までに止むと予想されています。無理に走らず、今夜はどこかでお休みするのも手だと思いますよ。明日には追い上げも可能ですし、何より怪我でもしたら大変ですぅ。
 せめて私も添い寝するサービスくらいは出来たらいいんですけど、ごめんなさい。実況席を離れるわけにはいかないんです。代わりと言っては何ですけど、皆さんからのエッチな質問やリクエストには、可能な限り応えていきますよぉ』

 だそうだ。
「相変わらず、最後の一文が余計……うぁぁああ!」
「あ、茜。大丈夫?」
 自然の風は気まぐれである。突然収まったかと思えば、叩きつけるように強くなる。一秒たりとも気の抜けない中、茜はハンドルを持ちなおす。
(ここまで強い向かい風は初めてだ。しっかり車体を押さえつけておかないと、せいぜい11~12kg程度の自転車なんて宙に浮くぞ)
 実際、茜の車体(クロスファイア)が前輪を数ミリほど上げてしまった。その瞬間に風で押され、後輪を軸に車体が回転する。慌ててハンドルを押さえつけた茜は、無理矢理進行方向に前輪を向けなおす。
(アタイは風見鶏かっての)
 隣を見ると、空は器用に走り続けていた。チェーンステーの長さゆえに車両が浮かないのか、それとも空のバランス感覚が絶妙なのか。
 当然、空だって平然と走っているわけではなかった。変速ギアを一番軽い段数にしているというのに、それでもケイデンスは70程度を出すのがやっとだ。そもそも、今の速度でさえ維持するのが難しい。
(うう……疲れたよ。もうおうち帰りたい……)
 重いペダルを必死に漕いでいるというのに、先ほどから進んでいる気がしない。
 実際に速度も遅い訳だが、それに加えて知らない土地であるため、今どの程度進んだのか、その感覚すら麻痺していた。精神的にも辛い。
(せめて、茜と喋ってたら、気が紛れるのに……)
 この強風のせいで、お互いの声は届きにくい。そもそも口を開けると大量の風が中に入ってきて、息を吐きだすことすらできない。
 ミスり実況は最大音量で聞いているが、それでも聞き取れるかどうか……Bluetoothの電波も通りにくく、そのせいでスマホのバッテリーまで消費が増える。
「茜。助けて……」
 言ってみたはいいものの、茜には声が届いていない。仮に届いたとしても、こればかりは茜の力でどうにかできるものでもない。分かりきったことだが、それでも空は助けを求めつつ、ペダルを漕ぐ。
 顔を上げることすら辛い。目を開けていると、容赦なく砂ぼこりが入る。体は水中を進むかのように押し戻され、タイヤは接着剤でも塗られたかのように動かない。
 それでも空が進むのは、茜に置いて行かれるのが怖いから……よりも、動いていないと体温すら奪われれるからだ。何しろ東北、青森の冬である。雪が片付けられているだけでも有難いが、寒いのは変わらない。
(空も限界か。実はアタイもヤバいんだよな。せめて精神的に何とかなれば、最後の力を振り絞るって訳にも行くと思うんだが……)
 こういう時、意外にも精神論が役に立つのは、茜の経験からも確かだ。それで勝てるなら苦労はしないが、勝敗さておき生き残るだけなら案外重要な要素だ。
(寝泊まりするにしても、この山の中でビバークは装備的に無理だ。命の危険がある。せめて空の言うように、ネカフェでもいいから探さないとな……)
 その時だった。ミスり速報が、ポーンと甲高い電子音を鳴らす。どうやら何かあった時の合図のようだ。空も茜も、反射的にイヤホンをつけた方の耳に神経を集中する。

『今、レースに動きがありましたよぉ。いえ、動き続けていたのに今更気づいたというべきでしょうか?私としたことがぁ……無念。
 後方を走る人たちの中で、少しづつですが順位を上げている選手たちがいます。で、この選手たちの共通点を探していたところ、意外な繋がりが見えてきました。これもチャリチャンならでは、ですねぇ。
 電動アシスト自転車、ですよぉ。普通の自転車競技なら、そもそも禁止されているはずの乗り物。まあ、本大会では規制していませんでしたけど。
 それでも強風に強いなんて一面があるんですねぇ。もともと上り坂を走るために開発された経緯のある乗り物なので、馬力があるのでしょうかぁ。
 今見てもらっている映像は、エントリーナンバー503 名前は……顔文字で表記されているので読めませんが、周囲の選手をごぼう抜きです。固定カメラが風に揺れていることからも、どれだけ過酷な向かい風にさらされているか伝わってきますぅ。
 こちらはエントリーナンバー109 アグレッサー佐藤さん。周囲の木々が大きく揺れる中、一人だけ安定した走りを見せています。彼の周りだけ風が吹いていないかのようですねぇ。合成映像ではありませんよ。ランドナーを追い越すママチャリ……圧巻です』

 次々と映像を切り替え、何人かの参加者を紹介するミス・リード。空と茜は強風の中、途切れ途切れにそれを聞く。どうせなら映像も見たいところだが、走りながらということでボイスオンリーモードで使用していた。ミスり実況のアプリから切り替えることができる設定だ。
「盲点だったな……電動アシストか」
「そういえば、巧さんが使っていたギュットミニDXも電動だったね」
 お互いに届かない声で、会話にならない会話をする。
 チャリチャンの理念とも言っていい、あらゆる自転車の参加可。今回は大会独自の基準を設け、30kgの重量を乗せて自走しない事。および35km/hを越えるアシスト走行をしない事という条件を満たせば参加可能となっている。
 ちなみに実際の道路交通法では基準がころころと変更され続け、今後も大きく変動する可能性は十分にある。この辺りは年号化すると本が一冊出来るレベルなので、ここでは語らない。

『本当は日本道路交通法で定められた〈自転車に分類される軽車両〉のみ参加可能というルールにしようと思ったのですが……しかし、法改正で規制された国内車両があったり、海外の車両を差別すること……ひいては外国人を差別する結果になりそうなことを懸念し、大会独自規格を設けることになりました。
 そのため、電動アシスト自転車だけでなく、フル電動自転車も一部使用できるんですよぉ。あとこれ関係ないですけど、私の自慰も電動アシストなんです。ほら』

 ぶいぃぃぃぃんんんん。

『あんっ――ち、ちなみに電動自転車とは、原付二輪のようにペダルを漕がなくても自走する車両の事で、現行法では殆どが禁止。一部車両のみ免許及びナンバープレート所持の上で、原付二輪扱いで走行可能となっております。まあ、チャリチャンなら免許もナンバーもいらないんですけどね。
 つまり、原付扱いの電動自転車と、軽車両扱いの電動アシスト自転車とは違うものですが、今大会では区別いたしませんよと言う話です。行っちゃえ皆さん。
 余談ですが、性具とは医療器具扱いで販売される、疑似的な性行為の快感を得られる道具の事ですぅ。医薬品医療機器等法によって規制されています。一部商品のみ認可されていますが、それ以外は使用方法を明記しないジョークグッズとして販売されていますよぉ。
 つまり、医療器具扱いの性具と、玩具扱いのジョークグッズとは違うものですが、私のここは区別いたしませんよと言う意味です。イっちゃえ私……はぁあぁん』

 相変わらず余談が過ぎる実況者だが、この強風の中を走る茜はもうツッコミを入れる気力もない。
(前を向くことも出来ないか……ん?)
 頭を下げて、顔をしかめたその下方。つまり後方に、空以外の自転車が見える。
 この強風にもかかわらず、その車体はじわじわと追い上げてきているようだった。
「おい、空。後ろから誰か来ているぞ」
「え?」
 空も茜に言われて気づく。周囲を見るだけの余裕がなかったが、いつの間にか空のすぐ近くまで迫ってきている。

 防寒ジャージとレーパン。露出度控えめなことを除けば茜と大差ない格好の男が、MTBに乗っていた。この強風の中だというのに、一切呼吸が乱れていない。ヘルメットとゴーグルで表情は見えないが、フォームには余裕が見て取れる。
 その自転車は、白を基調としたMTBだ。緑のラインと黒い各パーツが、その車体に個性的な雰囲気を出している。
 何より、その重心は安定していた。この風の中だというのに、まったく車体がブレない。体力だけで説明がつく現象ではなかった。
(アタイの車体すら、飛ばされそうなのをやっと押さえつけてんのに)
(この人、ハンドルにまるで力を入れてない。どうやって車体制御を?)
 前輪に体重を乗せ、ビンディングシューズにもかかわらず引き足を使わないことで、後輪が浮き上がるのを防ぐ茜。
 推進力を得るために、珍しく車体を横に振ってダンシングする空。
 そんな二人を気にも留めず、その男は加速してくる。走り自体はごく自然なフォームで、変に力むこともなく、だ。
『おおーっと、ここで私が賢者モードに入っている間に、レースに動きがありました。空さんと茜さんの二人に、一台のMTBが接近しております。エントリーナンバー403 ストラトスさんです』
 いいタイミングでミス・リードの実況が入る。ストラトスと呼ばれた男は、茜と空に視線をやった。
「ああ、お前らが走行妨害で有名な奴らか。スタートからずいぶん卑怯なことをしていたな」
 その冷たい声は、風に遮られて届かない。仕方がないので、ストラトスは大声を上げる。
「お前らみたいな卑怯者は嫌いだ。ここで鉄槌を下してやるよ。俺の愛車、タジェーテがな!」
 今度は、二人にも聞こえた。
(こいつ、言わせておけば……)
(あれ?僕、初対面の人に怒られてる?)
 勝手に正義面されているのは茜にとって気分が悪く、空としては単に嫌われていることがショックだった。

『ちなみに、このストラトスさんの使っている自転車、凄いですよぉ。イタリアのオートバイメーカー、BENELLIの自転車です。なんと電動アシストの馬力とMTBの走破性を併せ持つという優れもの。その名もTAGETEタジェーテ 27.5です』

(電動アシストのマウンテンバイク?そんなのもあるんだ)
 空は感心して、その車体を見た。ボトムチューブの上にはバッテリーパックが搭載されており、BB周辺にはモーターと思しきブロックが搭載されている。それで推進力を得るのだろう。
 とはいえ、各パーツは小さく設計されており、はたから見るとただのハードテイルバイクにしか見えない。実際、空はもとより茜でさえ、言われるまで気づかなかったくらいだ。

『普通、MTBの重量は11~13kgほど。一方電動アシスト自転車は28~30kgほどと言われていますねぇ。それがTAGETE27.5の場合ですと、22kgまで軽量化したと言われています。
 取りまわしては重すぎず、風に飛ばされるほど軽くもない。この向かい風にピッタリの車体ですねぇ』

「いや、卑怯なのはどっちだよ!」
 納得のいかないまま、茜は速度を上げる。体力を温存しようとも考えていたが、止めだ。本気でストラトスに抜かれまいと力を入れる。
「あ、茜?……しょうがないなぁ」
 空もケイデンスを上げていく。なるべく姿勢を低くしてアタック。ひとたび速度が上がると、次に強風が吹くまでの間は持続する。その時間、わずか数秒。そのたびに風に吹かれて押し込められては、再び加速するために体力を使う。
 決して効率がいいとは言えない走り方だったが、空が導き出した、自分にできる最適解であった。おおむね茜も同じである。
 ただ、加速している間だけは路面との摩擦が減る。風に押されて滑り出したら、あとは力任せに体勢を立て直すしかない。この瞬間に事故が起きやすくなるし、速度も体力も大きく奪われる。
「無様だな。二人とも、あまりに遅い走行と、汚い顔だ」
 ストラトスは、平然と24km/hの巡航速度を保っていた。
 この速度は、道路交通法で定められたアシストの最大速度である。それを超えるとセンサーが作動し、自動でアシストを停止する仕組みになっている。
(まあ、俺もこれ以上加速できないってことだが、この二人を相手にするなら十分だ)
 ストラトスはわざと速度を落として、二人を煽る。抜かれまいとする空と茜は、必死でペダルを漕ぐ。
(体力は限界を超えているだろうに、よくやるよ。このまま二人とも再起不能にしてやろう。風は俺の味方だ)
 油圧式のディスクブレーキを、カチカチと小刻みにかけながら減速する。もともとリムブレーキよりもピーキーな装置だ。取り扱いは慎重にする必要がある。
 狡猾に、空と茜を追い詰める。ストラトスは、今まさに正義のヒーローのつもりだった。圧倒的な力と武器で、悪人を倒す正義。
「スタート直後にグレイトダディとやらとグルになって周囲を妨害した報い。さらにはダークネス・ネロをそそのかし、捨て駒として自爆させた所業も償わせてやる」
「ちょっと待て。巧さん……いやグレイトダディの件は認める。それは悪かったと反省もしているが後悔はしてない。だがネロの話は知らんぞ。そそのかした?捨て駒?何を言ってやがる」
 茜が大声で言う。その度に呼吸が詰まり、車体が揺れる。息を吐きだすのも一苦労だ。思いっきり肺に力を入れないと、風で吐息が逆流する。
「ネットで話題になっているぞ。ネロは貴様らに利用され、捨てられた。前からいじめられていたともな」
「アタイは今日が初対面だよ。どんな話だ」
「茜。今、喋らない方が……」
 空が言う。確かに話をしたところで通じなさそうだし、デメリットの大きさを考えると、走りに集中した方がよさそうだ。
「――ふん。言い返す言葉もないといったところか」
 ストラトスはそう捉えた。そのまま空と横並びで走る。苦悶にゆがむ空の顔を、彼は満足そうに眺めた。一歩先を行く茜は、せめて空の風よけになれないかと考えていたが、
(この強風。車体が煽られればコントロールを失う。仮に接触事故でも起こしたら問題か)
 と、断念する。空の体力を考えると、そろそろ無理なアタックも出来ない。
(くっ……マウンテンバイクに電動アシストか……)
(しかもオートバイの会社が出しているんだね)
 空と茜は、ストラトスの車体に対して考える。結果……
(くっそ中途半端な意味不明バイクだな。コンセプトは行方不明か)
(とっても完成された自転車だね。コンセプトが強く伝わってくる)
 まったく相反する感想を思い浮かべるに至った。

 茜に言わせれば、MTBを始め、多くのスポーツバイクは運動のためにある。
 目的は何でもいい。誰かに勝つことでも、自分の記録を伸ばすことでも、ダイエットでも、運動不足の解消でもいい。だが根底にあるのは、体を動かしたいとか、スポーツをしたいとかいう思いだ。
 一方で電動アシスト自転車とは、運動しないための自転車だろう。坂道がきつい。ペダルを漕ぐのがだるい。かといって歩くのは面倒くさい。そんな怠けた若者や、体力の落ちた高齢者が乗るものだ。
 要するに、動きたいのか動きたくないのかハッキリしろよと、そんなところである。

 一方で空に言わせれば、この車体は明確な目的のためにある。オフロードでも走れるMTBという車両に、馬力のある電動アシストの組み合わせ。その根底にあるのは、これ一台でどこまでも出かけようというアグレッシブな考え方だと感じた。
 そのためなら手段を択ばない。モーターでも何でも使う。移動手段としての実用性と、デザインとを両立した究極の自転車だ。
 事実、通常の電動アシストと区別するべく、E-BIKEというジャンル名を考案されるほどである。
(ふふっ、カッコいいなぁ……僕のエスケープも、電動になったら速いのかな?)
 空はそんなことを考えて、笑った。
(な、なんだ?こいつは……)
 それを見て戦慄したのは、タジェーテを駆る本人、ストラトスだった。
(この状況だぞ。辛いだろう。息もできないだろう。とっくに体も限界だろう。なのになぜ、笑っていられる?)
 何か作戦があるのか、と警戒しながらも、空の様子を見る。すると、空はストラトスの視線に気づいた。
「ごめんなさい。その自転車、カッコいいなって思ったら、つい……」
 と、空が笑顔で弁明する。顔色は悪く、頬には涙の後もついていた。その状態でも、好きな自転車の事を考えると、空はつい頬が緩む。
 とはいえ、空の声は風にかき消されて聞こえない。
「なんだ?もっと大きな声で話せ!」
 ストラトスのよく通る威圧的な声が、空に届く。肺活量的にも疲労度的にも大声を出せない空は、さっき茜にしたように、自転車同士を近づけた。
 そのまま体を車体右側に乗り出し、ストラトスに顔を近づける。
「ストラトスさん(の自転車)カッコいいな。って思ってたんです。そしたら顔がにやけちゃって……ごめんなさい」
 肩で切りそろえた空の髪先が、風でストラトスの鼻に当たる。息が上がっているせいか、空の吐息もかかる。
「か、カッコいい……だと?」
 ストラトスが訊き返すと、空も答えた。
「はい。僕、こんな(自転車を見る)の初めてで、ドキドキしています」
 お互いの視線がぶつかると、空が瞬きして目をそらす。かと思ったら再び視線を合わせて、でもまた伏し目がちに地面を見る。クロスバイクで走行中なので、前方や路面を確認しなくてはならいだけなのだが。
 空は、柔らかそうな薄い唇を、そっと舐めた。冬だから乾燥する。
 頬が赤い。これも冬の寒さにさらされた状態から、急な加速をしたので体温が上がったことに起因する。毛細血管の膨張によるものだ。
「きききき貴様ぁ、ふ、ふざけるな。この状況で笑えるだと?なぜだ!」
 顔をそむけたストラトスが言う。これ以上、空の中性的な顔を見ていられない。
「なぜだ?って訊かれても、その……」
 一方の空は、ストラトスの質問に答えようと、必死になる。もう声を出すのも辛い中、ストラトスの左耳に近づき、ようやくささやくような声を出す。

「……(自転車が)好きだから」

 その瞬間、風が強く吹き付けた。さすがの空もわずかに車体バランスを崩し、ストラトスにぶつかる。ストラトスの頬と、空の唇が……
「んなっ!なななななな……」
 ストラトスが振り返ると、空は車体を立て直していた。ぶつかった謝罪の意味を込めて、空が顔の前に手を持ってくる。
 そのままウインクを一回。それが自転車レースの結果を左右する必殺技たり得るかどうかはさておき、ストラトスにとって、かいしんのいちげき。
「あ、あわわ、あ、あ、あ――」
 声にならない声を上げつつ、胸の高鳴りを押さえる。
(お、落ち着け、俺。相手は男だ。それも自転車レースで卑怯な真似をする輩だ。どうせ、これも色仕掛けで俺を取り込む作戦に違いない。バカめ。そういうのは女の方が担当するべきだったな)
 いったん冷静になったストラトスはそう考え、そして新たな疑問を持つ。
(そうだ……茜とか言ったか?色仕掛けなら、あの女がやればいいだけだ。ならどうしてこの男が……?)
 考えたところで納得のいく答えが出ない。それに、空が嘘を吐いているようにも見えなかったし、そも嘘を吐く必要がない。
 再び空の顔を見る。空だって人間だもの、そんなに見つめられては怪訝な顔にもなる。困ったように上目遣いでストラトスを見る。
 そんな空の視界に、ネオンの光が見えた。たいした人工物もなさそうな田舎に、ようやく文明の明かりが見える。
(何だろう?コンビニかな?それともカラオケ?)
 空はその明かりを気にしていた。何にしても風が凌げるところで休憩したい。空はそう考えた。
「ねぇ(茜)。休憩しない?もしよかったら、ストラトスさんも一緒に」
 その声は風に遮られて、茜に届かない。少し前を走る茜は、振り返ることもしなかった。風向きの関係で、ストラトスには声が届く。
(この俺と休憩だと?いったいどこで――)
 前方に視線を戻したストラトスも、場違いなネオン看板を見つける。
 こんな田舎の、まして民家から離れたところには、割とよくある看板だろう。

『ホテルもーてる ご宿泊、休憩も』

(こ、ここここの俺と、ほほほほホテルで休憩ぃぃぃいい?)
 とんだ勘違いである。ストラトスは急激に怖くなった。積極的な空のアタック……ではなく、自分の中で目覚めようとしている何らかの感情が怖い。
「お、お……」
 左手で操作パネルを弄って、電動アシストの比率を6段階中最大にする。右手でDEOREのギアを一段軽くして、ケイデンスを上げる。一瞬遅れて電動アシストが働き、速度が上がった。わずかにレスポンスが悪いのは、電動アシストのセンサーと変速ギアの相性が悪いからだろう。
「俺はノーマルだぁぁぁあああ!」
 叫びながら、ストラトスは逃げ出した。もともとオフロード用のコンポーネントであるDEOREの10段は、同じ段数でも茜のtiagraを超える歯数差を持っている。
「あ、待てよ、おい!」
 茜もそれを追うために、速度を上げられるだけ上げる。空も追走する。
「あ、茜……待って。僕、もう疲れた……」
 二人で必死に走るが、ストラトスの速度には全く追いつけない。何が彼をそこまで本気にしたのか、茜には全く分からないし、実は元凶の空でも分からなかった。


「くそっ、完全に見失ったか……うわぁっ」
 風は強くなる一方で、道も悪くなり始めたころ、茜はようやく追走をやめた。ストラトスの姿はもう影も形もない。少なくとも自転車では完敗だった。
「茜……待って――」
 恋の勝負ではストラトスに完勝を収めた空が、必死で茜についていく。
 体力の消耗は、体温の維持にも大きく関係する。茜のように冬用のサイクリンググローブやシューズカバーで防寒していれば、まだいい。空の手足は凍り付くように冷たく、すでに力も入らない状態だった。
 シフトレバーがSRAM X-4だったのは幸いだろう。親指なら何とか動くので、変速ギアを操作することも出来る。人差し指にはもう力が残っていない。ブレーキレバーを握るのも一苦労だ。
 そもそも、ハンドルバーを握ったまま、手が離れない。ブレーキレバーに指をかけることすら困難な中、低速ギアを維持して茜を追う。
 ことさら強い風が吹いた。ハンドルを取られそうになる。
「空、大丈夫か?」
 茜は振り返って聞いた。すると……
「あ、茜……うう、えっぐ、もう嫌だぁ――ひっぐ……」
「ガチ泣きかよ!」
 さすがの茜も、自転車を止める。ブレーキをかける必要はなかった。ペダルを止めるだけで、あとは風が押し戻してくる。自転車を降りると、それが飛ばされないように体重をかけて空に近づく。空も同じように自転車を杖代わりにして立っていた。
「くそっ。立ってるだけでもキツいな。空、無事か?」
 茜が訊くと、空は全力で首を横に振る。大きく鼻水をすすった空は、風に顔を背けながら息をした。
「ああ、もう限界か……もう少し頑張れそうか?」
 茜の問いに、空は再び首を横に振った。もう声を発する力もない。
 この強風エリアに入ってから、もう2時間が経過していた。進んだ距離は20kmほどだが、体力の消費は計り知れない。茜でさえボロボロなのだ。経験でも車体性能でも劣る空が、むしろ良くついてきた方である。
「よし、少し休んでいろ」
 茜はそう言い残すと、トップチューブバッグに入っているスマートフォンを操作する。ほどなくして、ミス・リードへの電話がつながる。

『あ、茜さんですね。どうですかぁ?風の程は?』
「よう、ミス・リード。最悪だ。とりあえず休憩したい。どこか近くに場所はあるか?」
 ユークリットと走った時は、2km先の公園を紹介してもらった。今回も何かしらあるだろうと思っていたが、
『え?あ、ごめんなさい。ノイズが強すぎて、茜さんの可愛らしい声が聞こえません。どうしましょう?』
「可愛いわけあるか!アタイの声っつったら、たまに男と間違われるレベルだぞ。言わせんな恥ずかしい」
『ごめんなさい。本当にザラザラとした電磁波の音しか聞こえないです。耳の奥まで犯されていく感覚が……あぁんっ、おかしくなっちゃうよぉ』
「お前は元々おかしいだろうが!」
 とはいえ、音が聞こえないのはミス・リードの耳のせいではなく、この風のせいだろう。実際、マイクにこれだけの風圧を与えれば、使い物にならないはずだ。
『茜さん。すみませんが、ご用件があるなら屋内に退避してからを推奨します。現在位置から、ですと……うーん、GPSの調子も悪いみたいですけど、たぶん、近くに川があって、橋が架かってますよね?』
「橋?……ああ、あれか」
 確かにある。数メートル先、短くて低い橋だ。そこだけガードレールがあるから気づいたようなもので、そうでもなければ見落としていただろう。
『その橋の先に信号機が見えますよね。それを右に曲がっていただけると、踏切があります。渡ってすぐ左に曲がりますと、小さな駅があります。周辺には何もありませんが、ひとまずそのエリアに逃げ込んで、室内から電凸ください』
「サンキュー、ミス・リード。助かったぜ」
 スマホでマップを開いても手に入りそうな情報だったが、現状で細かい操作をするのはスマホの構造的にも、茜の精神的にも辛い。そういう意味では本当に助かった。
「空。少し走れるか?何なら歩いてもかまわない」
 茜が訊くと、空は頷いた。そのまま地面を蹴って、車体を少しだけ進ませる。少しだけなら走れるという意思表示だろう。

『ちなみに、交差点でコースアウトする扱いにはなりますが、失格ではありません。レースに復帰する場合は、同じ交差点からスタートしてください。
 一方的なお話で申し訳ありません。あとで蝋燭責めでもなんでも申し付けてください。うちのスタッフが責任をもって、私の身体に罰を与えておきますから……はぁ、はぁ……』

「それ、お前にとってはご褒美じゃねぇか?」
 結局、最後まで茜の声はミス・リードに届かなかった。とはいえ、退避できる場所を聞き出せたんだから結果オーライである。
「行くぞ、空」
 茜が話をしている間に、空も少しだけ体力を回復した。とはいえ5分も持たないとは思うが、駅舎に退避するだけならギリギリセーフか。


「た、助かったぁ……生き返ったよ」
「本当に死んだんじゃないかと思ったよ。心の方が」
 周囲にコンビニやファミレスすら無い、小さな駅。そこに崩れるように逃げ込んだ空と茜は、ようやく呼吸を整えることができた。命の危険すら感じたと言っても過言ではなかった空は、ようやく動くようになった指先で涙を拭う。
「こんな駅でも無いよりマシだな」
 無人駅と言うわけでもなさそうだが、駅員の姿は見えなかった。窓口業務は17:00をもって終了しているようだ。暖房すらついていないが、風を凌げるだけでも大いに温かい。
 少しずつ冷静になってくると、先ほどまでの自分が何をしていたかが思い出される。
「あ、茜。ごめんね。僕、声も出せなくて、それで……茜に対して怒ってたんじゃなくて……でも、酷い態度を……」
「あー、いい、いい。アタイも似たような経験があるよ。むしろ、すまなかったな。お前の言う通り、素直に休憩しておけばよかった」
 茜は思い出す。何年か前、夕立に遭って必死で家に帰って来た時のことを。
 あの時は両親や兄に八つ当たりして、挙句に謝ることもできなかった。そういえば、兄が茜に世話を焼くようになったのは、丁度その頃からだ。
「まあ、誰にだって辛い時はある。無理しないでくれ。さっき泣いてたのも忘れてやるから」
「うん。ありがとう……」
 空はついでに「茜、大好き」と言いかけて踏みとどまった。違う意味にとられては大事である。時々茜に対して遠慮する必要を感じなくなるのは、茜が女だということを忘れてしまうからか、それとも自分が男だということを忘れてしまうのか。

「それにしても、困ったな。本当に何もない」
 ミス・リードの言う通り、この近くには宿泊できるところもなかった。念のためにスマホで調べてみたが、ミス・リードの言うことが本当だったと裏付けるだけの結果に終わる。
「電車ももうないね。最終が22:40だってさ」
 現在23:04だ。多少の休憩をはさんでいたとはいえ、よく今まで走り続けたものである。
「八方塞がりだな。風は一向に止みそうにないし、明日の朝までこの駅で待機するしかないか」
 と、茜は周囲を見回す。自動販売機が稼働しているだけの、小さな待合室。ベンチと灰皿しかない空間には、わずかに隙間風が吹き込んでいる。
 改札横に置かれたアルミ製の切符回収箱が、この駅がどれほどさびれているかを物語っていた。
「つまり、ここで一泊するって事?」
「ああ、野宿よりマシだろう」
 茜は当たり前のように言った。
 ちなみに、空たちのような未成年参加者のために、大会中はチャリチャン運営委員が引率しているという形式だけ取っている。そのため警察などに見つかっても、参加者の証である腕輪を見せれば補導されない。
 また、協賛企業の宿泊施設は、参加者を身分証なしで泊めてくれる。つまり未成年でも一部ホテル等に宿泊は可能であった。料金が割引されるところもあるくらいだ。
 もっとも、それが近くにないから困っているわけだが。
「つーわけで、今日はもう寝よう。風が弱まり次第出発だ」
「え?あ、茜。その恰好で寝たら死ぬよ?」
 特に着替えらしい着替えを持ってきていない茜は、競技中と同じ半袖ジャージとレーパンで寝るつもりらしい。薄手のダウンジャケットを寝袋代わりにしようという画期的なアイディアは、東北の冬では推奨されない。
「まあ、これでも一応室内だし、大丈夫だろう。まさかお前と抱き合って寝るわけにもいかないだろうぜ」
 と、茜は強がって見せる。本当はすごく寒かった。
「ねぇ、これってスマホ充電していいのかな?」
 空が訊く。その手に持っているスマホは完全放電していた。本体バッテリ残量ゼロ。うんともすんとも反応しない。
「あー、やめておけよ。勝手に使うと盗電扱いになるぞ。せめて完全放電する前なら、アタイの携帯充電器を貸してやれたんだが……」
 スマホの充電器として社外品で出されている、乾電池式の充電器。よくコンビニなどで見かける品だが、完全放電の状態からは充電できないという面倒な弱点を持っている。茜は今、その充電器で自分のスマホを充電していた。
「電池切れって怖いね」
「ああ、一部のE-BIKEではスマホの充電もできるって聞いたけど、アタイらの車体じゃ無理だし、あきらめるしかないな」
 それを聞いた空は、ますますE-BIKEが欲しくなるのであった。実際、TAGETEは魅力的に見えたし、一緒に走っていて楽しかった。
「あ、そういえば、ストラトスさんの自転車ってバッテリが切れたらどうなるの?」
「はぁ?そりゃあ、アシストが働かなくなるから、ただのMTBになる。いや、それどころかバッテリとモーターが邪魔になるから、ハイテンスチールの車体より走りにくいはずで……」
 そこまで言って、茜はようやく気付く。そもそも今日あんなにムキになって勝負しなくても、相手の電池切れと風が止むのを待っていればよかったのだ。
「すまん。空……」
「え?何が?」
 空には分かってなかったようだが、これは完全に茜が読み間違えた挙句、勝負を捨てて一時の感情に流された形になる。
「さて、今夜は寝よう。おやすみ」
「え?いや本気でその恰好で寝るの?」
「すぅ――すぅ――」
「寝るの早っ?っていうか、ええと、ええと――よし」
 仕方がないので、自分の着ていたコートを茜にかける。ついでに使い捨てカイロも一つ付けておいた。低温火傷の恐れがあるため、よいこはマネしてはいけない。


 一方、ストラトスはビジネスホテルを取ることに成功していた。
「さて、寝るか」
 その部屋の片隅には、今日使い果たしたバッテリーパックが置かれている。充電ケーブルに差し込まれたそれは、フル充電まで7時間を要する厄介者だった。
(やはりこの充電時間はかなりの痛手だな)
 ストラトスはそう考える。最大で100kmの距離をアシストする、とメーカーは言っているが、それにしたって時間にして3~4時間しか持たない。今日のように向かい風の中を走れば、その寿命はさらに縮む。
 そもそも、ロードレースなら一区間で200km前後、ブルベなら一日で300km以上を走る自転車選手たちに対して、このE-BIKEはあまりに脆弱だった。24km/hでアシストを自動停止するリミッターにしても、最大70~90km/hを実現する彼らに遠く及ばない。
 ストラトス本人にしたって、休日にサイクリングに出かける以外に自転車を使わないホビーライダー。それも経歴1年未満である。
(これでは、あの少年たちに追いつかれてしまうかもしれない。あの少年に……)
 空の顔が脳裏に浮かぶ。子供のように嬉しそうに、どんな過酷な中でも楽しそうに、笑いかけてくる少年。敵意をむき出しにした自分にさえ、柔らかく微笑んだ心優しい子。
(あの少年と、また一緒に走れる……)
 少し嬉しく思った後、首を横に振る。思いっきり自分の頬を叩いて、考えを改める。
(彼らは悪だ。このレースを冒涜し、自転車を貶した悪。許すことは出来ない)
 現在の戦況を知るためにも、ストラトスはスマホを開く。ミスり速報を映像付きのフルモードで起動すると、映像と音声が出力される。

『さぁて、日付も変更間近のこの時間ですけど、多くの選手が寝静まる中、まだ走っている選手も少なくはないですねぇ。野宿は推奨しませんよぉ。死んだら自己責任でお願いしますねぇ。
 現在先頭を走るのは、エントリーナンバー001 アマチ・タダカツさん。グレイトダディ&クールキッドさんを抜いてから、今まで一度もトップの座を奪われておりません。すでに暴風域を突破して、平然と走っています。圧倒的ですねぇ』

 ミス・リードは、本当に夜通し24時間の解説を行うつもりらしい。人間にそんなことが可能なのだろうか?
 なんにしても、もうすぐ日付が変更になる。
 国内最大の自転車大会が、初日の終了を迎えようとしていた。
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