さつきの花が咲く夜に

橘 弥久莉

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第七章:絡みつく孤独

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 「操作は簡単ですよ。まずはここにフィル
ムをセットする。で、このつまみを右に回す
とフィルムが進んで、左に回すとフィルムが
戻る。写す位置を変えたかったらこの緑のつ
まみを使ってください。記事を印刷すること
も出来ますから、必要だったらまた声を掛け
てくださいね」

 「はい。ありがとうございます」

 一通り簡単な説明を終えると、男性は黒縁
メガネの向こうの目を細め、カウンターへと
戻っていった。

 「よーし!探すぞぉ」

 満留は勇んで両袖を捲ると、ブラウン管に
写り始めた古い新聞に目を通し始めた。そし
て、政治・経済・文化などの関係ない部分は
素通りし、地域の災害や犯罪が載っている欄
に目を走らせる。満の家の住所は現在のコイ
ンパーキングの住所と同じだから、そのメモ
を見ながら、慎重に画面を注視してゆく。

 紙ではなく画面に写し出される新聞は、
若干文字がぼやけて読みにくかったけれど。

 そんな贅沢は言っていられなかった。

 この膨大過ぎる新聞の活字から『満』とい
う文字を探し当てなければならないのだ。
 それは気の遠くなるような作業で、徒労に
終わる可能性の方が限りなく高かったけれど。

 それでも諦めようとは思えない。
 諦めれば、二度と満に会えない。

 満留は口を引き結ぶと、マイクロリーダー
に顔を近づけ、活字に目を走らせ続けた。


 結局、その日は閉館間近まで記事を探し続
けたが、それらしきものは見つからなかった。

 翌日の日曜も、満留は開館時間と共に図書
館に足を踏み入れる。そして、昨日と同じ席
につき、また新聞に目を通し始めた。

 昨日から酷使している身体は肩がバキバキ
で、目も充血してドライアイ状態だったけれ
ど休む気にはなれない。満留は目薬を持参し、
それを傍らに置くと、食い入るように画面を
見つめ続けた。


――そして、閉館まであと数十分というころ。


 果てしなく羅列する活字の中に、ついに
『満』という名と『火事』の文字を見つける。

 「あった!!」

 見つけた瞬間、満留は思わず声を上げてし
まい慌てて周囲を伺った。が、閉館が近いこ
ともあって、幸い他に利用客はいなかった。

 ほぅ、と息をつき、緊張した面持ちでマイ
クロリーダーの画面に視線を戻す。

 火事の起きた場所をメモと照らし合わせて
みれば、あのパーキングがある辺りの住所と
同じ。けれど日付は、二〇〇×年五月十二日
の夕刊。


――いまから十七年も前の、古い古い記事、
ということになる。


 「……いったい、どういうことなの?」

 年配のコンビニ店員が言っていたことと、
ほぼ同じ内容の記事が目の前にあった。

 満留は手に汗を握りながら、ばくばくと
早なる鼓動に息を浅くしながら、その記事に
目を走らせた。
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