59 / 107
第六章:忍び寄るもの
57
しおりを挟む
こんなもの、興味のない人にとってはただ
のゴミでしかないけれど。と、内心肩を竦め
ると、満は「ははっ、さんきゅ」と笑ってそ
れをテーブルに並べてくれた。
そして、コンビニで買ってきた漬物やミネ
ラルウォーターをテーブルに並べると、満留
の向かい側に腰掛けた。
「さ、食べようか」
「うん。いただきます」
満留はほんわかと、湯気が立ち上るカレー
を眺めると、両手を合わせてからスプーンを
手に取った。小鉢に入れられた福神漬けを
カレーに載せ、濃厚な色合いのビーフカレー
と共に口に運ぶ。満は正面からじっとその様
子を見守っていて、もぐもぐと咀嚼するのが
ちょっと恥ずかしかった。
けれど、口のなかでほろほろと崩れる牛肉
の甘さと、アクセントのように歯ごたえのあ
るひよこ豆。辛口ながらも辛すぎないのは
トマトの酸味があるからだろうか?
正直言って、母が作ってくれるカレーに
負けないくらい、美味しかった。
「んっ、すごく美味しい!プロが作った
カレーみたい!」
ごくりとカレーを飲み込んだ瞬間に感じた
ままを口にすると、満はほっとしたように身
体を椅子の背に預けた。
「良かったぁ。一晩、カレーに張り付いて
煮込んだ甲斐があった」
白い歯を見せながら何げなくそんなことを
言うので、満留はぎょっとする。
いま、「一晩」という単語が聞こえなかった
か?まさか、このカレーを作るために徹夜し
たのだろうか?不安に思って満の顔を覗くと、
「あ、いやっ」と、満は慌てて訂正した。
「一晩は大袈裟だな。でも、牛肉が柔らか
くなるまでは、と思ったから夜中の二時くら
いまでは鍋に張り付いてた」
「そんなに遅くまで?本当にありがと。満
くんの愛情がいっぱいこもってて、泣けるく
らい美味しい」
「うわ、満留さん。オーバーだな」
「全然オーバーじゃないよ。それに……」
そこで言葉を途ぎってしまった満留に、満
は首を傾げる。傾げながら満もカレーを食べ
始めた。
「こんなこと訊いたら失礼かもだけど……
五等級のお肉なんて、高かったでしょう??」
ああ、訊いてはいけないと思っていたのに。
――訊いてしまった。
けれど、ごろごろとカレーに浮かぶ牛肉を
見れば、やはり、気になってしょうがない。
図々しくも、空手でお邪魔して夕食をご馳
走になっているのだから、余計に気になった。
そんな満留の心中を知ってか、知らでか、
満は大したことないといった顔で恐ろしいこ
とを口にしてくれる。
「ああ、どうせ作るならめちゃくちゃ旨い
ビーフカレー作ろうと思って百グラム二千円
のヤツ選んでみたけど。普通はいくらくらい
の買うんだろうな?相場がよくわかんないけ
ど、うん。確かに旨く出来てる」
最後の方は独り言のようにそう言って頷い
た満に、満留は言葉を失う。
のゴミでしかないけれど。と、内心肩を竦め
ると、満は「ははっ、さんきゅ」と笑ってそ
れをテーブルに並べてくれた。
そして、コンビニで買ってきた漬物やミネ
ラルウォーターをテーブルに並べると、満留
の向かい側に腰掛けた。
「さ、食べようか」
「うん。いただきます」
満留はほんわかと、湯気が立ち上るカレー
を眺めると、両手を合わせてからスプーンを
手に取った。小鉢に入れられた福神漬けを
カレーに載せ、濃厚な色合いのビーフカレー
と共に口に運ぶ。満は正面からじっとその様
子を見守っていて、もぐもぐと咀嚼するのが
ちょっと恥ずかしかった。
けれど、口のなかでほろほろと崩れる牛肉
の甘さと、アクセントのように歯ごたえのあ
るひよこ豆。辛口ながらも辛すぎないのは
トマトの酸味があるからだろうか?
正直言って、母が作ってくれるカレーに
負けないくらい、美味しかった。
「んっ、すごく美味しい!プロが作った
カレーみたい!」
ごくりとカレーを飲み込んだ瞬間に感じた
ままを口にすると、満はほっとしたように身
体を椅子の背に預けた。
「良かったぁ。一晩、カレーに張り付いて
煮込んだ甲斐があった」
白い歯を見せながら何げなくそんなことを
言うので、満留はぎょっとする。
いま、「一晩」という単語が聞こえなかった
か?まさか、このカレーを作るために徹夜し
たのだろうか?不安に思って満の顔を覗くと、
「あ、いやっ」と、満は慌てて訂正した。
「一晩は大袈裟だな。でも、牛肉が柔らか
くなるまでは、と思ったから夜中の二時くら
いまでは鍋に張り付いてた」
「そんなに遅くまで?本当にありがと。満
くんの愛情がいっぱいこもってて、泣けるく
らい美味しい」
「うわ、満留さん。オーバーだな」
「全然オーバーじゃないよ。それに……」
そこで言葉を途ぎってしまった満留に、満
は首を傾げる。傾げながら満もカレーを食べ
始めた。
「こんなこと訊いたら失礼かもだけど……
五等級のお肉なんて、高かったでしょう??」
ああ、訊いてはいけないと思っていたのに。
――訊いてしまった。
けれど、ごろごろとカレーに浮かぶ牛肉を
見れば、やはり、気になってしょうがない。
図々しくも、空手でお邪魔して夕食をご馳
走になっているのだから、余計に気になった。
そんな満留の心中を知ってか、知らでか、
満は大したことないといった顔で恐ろしいこ
とを口にしてくれる。
「ああ、どうせ作るならめちゃくちゃ旨い
ビーフカレー作ろうと思って百グラム二千円
のヤツ選んでみたけど。普通はいくらくらい
の買うんだろうな?相場がよくわかんないけ
ど、うん。確かに旨く出来てる」
最後の方は独り言のようにそう言って頷い
た満に、満留は言葉を失う。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる