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第五章:心に留まる
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しおりを挟む「どっちも好きだけど、あえて言うなら福
神漬けかな。お母さんが福神漬けの方が好き
だから、自然とそうなった感じ。満くんは?
どっち派なの?」
「俺は両方。一杯目は福神漬けで喰って、
二杯目はらっきょうで喰うんだ。最悪、漬物
がなくてもカレーは喰えるんだけど、やっぱ
りないとなんか物足りないんだよな。だから、
ミネラルウォーターと漬物をコンビニで買っ
て行こうと思って」
「そっか。それしか買わないなら、コンビ
ニで用が足りるもんね」
川沿いを数分歩くと、やがて大通りに出る。
アスファルトを眩い光で照らしながら行き
交う車の向こうにいま来た道が続いていて、
左を向けばコンビニの灯りが歩道を照らして
いた。
満留は満と共にコンビニに向かうと、自動
ドアをくぐった。店内は数人の客と、青と白
のストライプの制服を着た店員が二人。どち
らも女性だが一人は品物をチェックしている。
病院の夜間通用口を使ったことがないから、
ここのコンビニに入るのは初めてだった。
満はカゴを手にすることなく店の奥に進む
と、冷蔵庫から二リットルのミネラルウォー
ターを取り出し、生鮮コーナーに並ぶ福神漬
けとらっきょうを手にレジへ向かった。
そこで満留は慌てて財布を出そうとする。
これからカレーをご馳走になるというの
に、思えば自分は何も手土産を用意していな
い。けれど、ピッピッとレジを打ち始めた店
員を前に財布からお金を出そうとした途端、
隣から声が飛んできた。
「いいって」
「ううん、ここは私が。カレーご馳走にな
るんだし」
「それは俺が勝手にやってることだから気
にしないでいいよ」
「でもっ」
そんなやり取りを横目で見ていた店員が、
「五百六十八円です」
と、澄ました顔で言った。
満は満留を退けるように身体を前に出すと、
財布から千円札を取り出す。その間に店員が
品物をビニールに入れて差し出すので、満留
は仕方なく財布をしまうと、差し出された
それを受け取った。
「ありがとうございましたー」
抑揚のない声に背中を押されながら、満と
店を出てゆく。すると荷物だけでも持たせて
もらおうと思っていた満留の手から、満は
ひょい、とビニール袋を取り上げた。
「あっ!せめて荷物くらい持つよ。ご馳走
になってばかりで、一円も出してないし」
歩き始めた満に申し訳なさそうにそう言う
と、彼は「ぷっ」と、吹き出した。
「だからそんなの気にしなくていいって。
四割引きのあんパン喰って我慢してるような
女の子から、お金取ろうとか思えねーし」
「それはっ、買おうと思えば買えるんだけ
どあえて選んでるだけで……前に言ったで
しょ?」
「知ってるよ。でも、本当に何にも気を使
わないで欲しいんだ。『女の子にはやさしく』
って、婆ちゃんにもよく言われたしさ」
「女の子女の子って……私は二十六です」
九つも年上なのに子ども扱いされている気
がして、むぅ、と頬を膨らませると満は困っ
たように眉を寄せる。その顔は真実、年下と
は思えないほど大人びていて、満留は思わず
どきりとしてしまった。
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