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第五章:心に留まる
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いったい、どの辺りをわかりやすく噛み
砕いてくれたというのだろうか?
――まったく理解出来ない。
けれど妹崎の話は面白かった。
物理のことはからきしで、どうして物質中
を光が進むのかさえわからなかったけれど、
わからないからもっと聞いてみたい。知りた
いと思えた。だから満留は「すみません。
全然わかりません」と正直に答えた。
妹崎はうんうん、と苦笑いしながら頷く。
どうやら、『特別講義』を長引かせてしま
いそうだ。二人は踊り場を歩くと、さらに
階段を上った。
「せやな。いきなり誘電率と透磁率を操る
なんて言うてもわからんわ。じゃあまず、物
が見える仕組みから説明しようか。人が物の
色や形を知るためには、『光』が欠かせんや
ろ?真っ暗闇じゃあ、なんも見えへん」
「はい。見えません」
「その光っちゅうのはな、『波』と『粒』、
両方の性質を持ってて、『波』はその波動性
を表すために『波長』と呼ばれるんや。で、
物体に太陽光や蛍光灯の光なんかが当たると、
固有の波長は物体に吸収され、吸収されない
波長は反射される。その反射された光の波長
が人の目を通して脳に伝わることで、初めて
物体の色や形を認識できるんや。ここまでは
ええか?」
ええか?と、聞かれても。
満留は思わず、眉を寄せる。
わかったような、わからないような……、
というのが正直なところで、自信を持って
「わかりました」とは言えなかった。
だからまた、「なんとなく」と、曖昧なこ
とを言いながら妹崎を振り返る。
――振り返ろうとした、その時。
階段を上ろうとした満留の足から、すぽっ、
とパンプスの踵が抜けた。
その瞬間、踵を踏んだ満留はバランスを崩
し「ひゃっ!」と両手をバタつかせる。それ
は一瞬のことで、態勢を立て直せないまま、
重力に引き寄せられた満留の身体は、後ろに
ひっくり返った。
「ちょぉ、危な……っ!!」
咄嗟に、すぐ後ろにいた妹崎が腕を掴んで
抱き留める。間一髪、よろめきながらも階段
から転げ落ちるという事態を免れた二人は、
それでも、石造りの階段の手摺りに、どしん、
と背中を打ち付けてしまった。
「あたっ!」
耳元で妹崎の声がして満留は瞬間、閉じて
いた目を開ける。視界の先には脱げたパンプ
スが転がって、まるでシンデレラが置いてい
ったガラスの靴のように階下に落ちていた。
けれど、満留に痛みはなかった。
どこも痛くない代わりに、妹崎の腕の強さ
と胸の硬さ、そして汗の匂いを感じる。
満留は妹崎に抱きすくめられるような形で、
裸足のつま先を床につけていた。
「ごめんなさいっ!先生、大丈夫ですかっ」
満留は心臓をバクバクとさせながら妹崎の
腕を掴み、身体をよじった。が、なぜかその
腕は外れない。外れないどころか、さらに力
が込められ、満留は身動きが取れなくなって
しまった。
砕いてくれたというのだろうか?
――まったく理解出来ない。
けれど妹崎の話は面白かった。
物理のことはからきしで、どうして物質中
を光が進むのかさえわからなかったけれど、
わからないからもっと聞いてみたい。知りた
いと思えた。だから満留は「すみません。
全然わかりません」と正直に答えた。
妹崎はうんうん、と苦笑いしながら頷く。
どうやら、『特別講義』を長引かせてしま
いそうだ。二人は踊り場を歩くと、さらに
階段を上った。
「せやな。いきなり誘電率と透磁率を操る
なんて言うてもわからんわ。じゃあまず、物
が見える仕組みから説明しようか。人が物の
色や形を知るためには、『光』が欠かせんや
ろ?真っ暗闇じゃあ、なんも見えへん」
「はい。見えません」
「その光っちゅうのはな、『波』と『粒』、
両方の性質を持ってて、『波』はその波動性
を表すために『波長』と呼ばれるんや。で、
物体に太陽光や蛍光灯の光なんかが当たると、
固有の波長は物体に吸収され、吸収されない
波長は反射される。その反射された光の波長
が人の目を通して脳に伝わることで、初めて
物体の色や形を認識できるんや。ここまでは
ええか?」
ええか?と、聞かれても。
満留は思わず、眉を寄せる。
わかったような、わからないような……、
というのが正直なところで、自信を持って
「わかりました」とは言えなかった。
だからまた、「なんとなく」と、曖昧なこ
とを言いながら妹崎を振り返る。
――振り返ろうとした、その時。
階段を上ろうとした満留の足から、すぽっ、
とパンプスの踵が抜けた。
その瞬間、踵を踏んだ満留はバランスを崩
し「ひゃっ!」と両手をバタつかせる。それ
は一瞬のことで、態勢を立て直せないまま、
重力に引き寄せられた満留の身体は、後ろに
ひっくり返った。
「ちょぉ、危な……っ!!」
咄嗟に、すぐ後ろにいた妹崎が腕を掴んで
抱き留める。間一髪、よろめきながらも階段
から転げ落ちるという事態を免れた二人は、
それでも、石造りの階段の手摺りに、どしん、
と背中を打ち付けてしまった。
「あたっ!」
耳元で妹崎の声がして満留は瞬間、閉じて
いた目を開ける。視界の先には脱げたパンプ
スが転がって、まるでシンデレラが置いてい
ったガラスの靴のように階下に落ちていた。
けれど、満留に痛みはなかった。
どこも痛くない代わりに、妹崎の腕の強さ
と胸の硬さ、そして汗の匂いを感じる。
満留は妹崎に抱きすくめられるような形で、
裸足のつま先を床につけていた。
「ごめんなさいっ!先生、大丈夫ですかっ」
満留は心臓をバクバクとさせながら妹崎の
腕を掴み、身体をよじった。が、なぜかその
腕は外れない。外れないどころか、さらに力
が込められ、満留は身動きが取れなくなって
しまった。
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