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第四章:やさしい時間

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 町田さんの話によると、大気が澄んでいる
晩秋から冬にかけて、早朝や日没後の空に、
ピンク色の帯が発生するらしい。
 東の空に現れるその現象は、まるで天女の
ドレスを巻いた美しいベルトのように見える
ことから、「ビーナスベルト」と呼ばれるの
だと、得意げに話してくれた。

 刻一刻と変わりゆくその色は、20分程度
しか見られない現象なのだという。どうして
町田さんにそんな知識があるのか、少し不思議
だったけれど、この空の色は特別なのだと聞か
されたあとに見るアッシュピンクの空は、
とても言葉では言い尽くせぬほどに美しく、
僕はどうしてか感傷的になってしまった。

 同じ風景に心を奪われ、窓の向こうを
じっと眺めている弥凪の手を、そっと握る。

 もしかしたら、彼女とこの空を見るのは
最初で最後かも知れない。なんて、そんな
つまらないことを考えれば、喉の奥が、くっ、
と痛んで困ってしまう。

 僕は、幸せなはずの心を、黒く染めようと
する“何か”を振り払うために、鞄からある
ものを取り出した。

 「写真、撮りませんか。デジカメ持って
きてるんです」

 向かい側に座る二人に、そう声をかける。
すると、すぐに咲さんの元気な声が返って
来た。

 「撮ろう、撮ろう!わたし、先に撮って
あげる!!」

 そう言って、咲さんは手を伸ばし、僕の手
からデジカメを受け取る。
 隣に座る町田さんも、

 「はい、お二人さんもっと寄って。
そうそう、肩を抱いてくっついてね~♪」

 と、調子の良いカメラマンのような口ぶり
で、被写体の動きをアシストしてくれた。

 空の色がくすんで消えてしまわないうちに、
数枚の写真を撮ることが出来た僕たちは、
地上に降り立つと夢見心地のまま、お土産売り
場を覗き、僕はその店でフォトフレームを
2つ買った。

 (写真、部屋に飾ろう)

 ゆっくりと唇でそう言って弥凪に伝えると、
彼女は嬉しそうに頷き、僕の手に指を絡めた
のだった。
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