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第四章:やさしい時間
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「だって、神様って、そこまで意地悪じゃ
ないと思うから……」
「神様、か……だよな。これ以上、
あの二人を苦しめるようなこと、神様が
するワケないよな」
返ってきた答えはまるで根拠のない、
おとぎ話のようなものだったが、目に見え
ないものの存在を敬うあたりが、いかにも
彼女らしく、俺は妙に納得して頷いた。
「それに……」
「それに?」
「状況、って、良くも悪くも、必ず移り
変わっていくものだと思うんです。だから、
羽柴さんの目が見えなくなってしまう未来
よりも、治療法が見つかって、目が見える
ようになる未来を信じたいっていうか。
もちろん、どんな未来でも、あの二人なら
乗り越えてくれるだろうけど……悪いこと
ばかりを想像してると、本当にそうなっ
ちゃうって聞いたことあるし、だから、
根拠がなくても“大丈夫”って、強く思って
いれば、本当に大丈夫になるんじゃない
かって」
「状況は移り変わる、か。確かにそう
だよな。羽柴クンの病気の進行より、医学
の発展の方が速いかも知れないし、もしか
したら、市原さんの耳だって、治っちゃう
かも知れないし」
そんな未来が、本当に待っているかも
知れない。
彼女と話していると、そう思えてしまう
のが不思議だった。
そして、二人の未来がどんなものだった
としても、俺たちがついている。そう、
口にはしなかったが、何となく、彼女も
同じことを思っている気がして、俺たち
は互いに目を細めた。
「あ、そう言えば……」
不意に、思い出したようにそう言うと、
俺は懐から携帯を取り出した。
思えば、せっかく、二人きりになれた
というのに、俺たちは互いのことを何ひとつ
話していなかった。出来るなら、もっと
色んなことを話したいが、小首を傾げている
彼女の向こうから、二人が手を繋いで戻って
くるのが見える。
残念だが、タイムリミットだ。
俺はごく自然に、真剣に、自分の気持ち
を口にした。
「まだ、連絡先交換してなかったな、
と思ってさ。もっとゆっくり話したいし、
次は二人で会おうよ。あ、それと、俺、
年上だけど敬語とか使わなくていいから。
気軽に孝クン♪、って呼んでくれても構わ
ないし」
シシ、と白い歯を見せながら二つ折りの
携帯を開く。すると彼女も、ふふ、と可笑し
そうに笑って鞄から携帯を取り出した。
「じゃあ、番号教えてくれる?わたしが
かければ、着歴残るよね。それとも、メルアド
の方がいい?」
さっそく、タメ語に切り替えて彼女が
話してくれる。
「うーん、そうだなぁ。じゃあ、両方
聞いとく♪」
そう答えると、俺は戻って来た二人に手を
振りながら、携帯番号を口にしたのだった。
ないと思うから……」
「神様、か……だよな。これ以上、
あの二人を苦しめるようなこと、神様が
するワケないよな」
返ってきた答えはまるで根拠のない、
おとぎ話のようなものだったが、目に見え
ないものの存在を敬うあたりが、いかにも
彼女らしく、俺は妙に納得して頷いた。
「それに……」
「それに?」
「状況、って、良くも悪くも、必ず移り
変わっていくものだと思うんです。だから、
羽柴さんの目が見えなくなってしまう未来
よりも、治療法が見つかって、目が見える
ようになる未来を信じたいっていうか。
もちろん、どんな未来でも、あの二人なら
乗り越えてくれるだろうけど……悪いこと
ばかりを想像してると、本当にそうなっ
ちゃうって聞いたことあるし、だから、
根拠がなくても“大丈夫”って、強く思って
いれば、本当に大丈夫になるんじゃない
かって」
「状況は移り変わる、か。確かにそう
だよな。羽柴クンの病気の進行より、医学
の発展の方が速いかも知れないし、もしか
したら、市原さんの耳だって、治っちゃう
かも知れないし」
そんな未来が、本当に待っているかも
知れない。
彼女と話していると、そう思えてしまう
のが不思議だった。
そして、二人の未来がどんなものだった
としても、俺たちがついている。そう、
口にはしなかったが、何となく、彼女も
同じことを思っている気がして、俺たち
は互いに目を細めた。
「あ、そう言えば……」
不意に、思い出したようにそう言うと、
俺は懐から携帯を取り出した。
思えば、せっかく、二人きりになれた
というのに、俺たちは互いのことを何ひとつ
話していなかった。出来るなら、もっと
色んなことを話したいが、小首を傾げている
彼女の向こうから、二人が手を繋いで戻って
くるのが見える。
残念だが、タイムリミットだ。
俺はごく自然に、真剣に、自分の気持ち
を口にした。
「まだ、連絡先交換してなかったな、
と思ってさ。もっとゆっくり話したいし、
次は二人で会おうよ。あ、それと、俺、
年上だけど敬語とか使わなくていいから。
気軽に孝クン♪、って呼んでくれても構わ
ないし」
シシ、と白い歯を見せながら二つ折りの
携帯を開く。すると彼女も、ふふ、と可笑し
そうに笑って鞄から携帯を取り出した。
「じゃあ、番号教えてくれる?わたしが
かければ、着歴残るよね。それとも、メルアド
の方がいい?」
さっそく、タメ語に切り替えて彼女が
話してくれる。
「うーん、そうだなぁ。じゃあ、両方
聞いとく♪」
そう答えると、俺は戻って来た二人に手を
振りながら、携帯番号を口にしたのだった。
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