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第四章:やさしい時間
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(いまが一番楽しい時だというのはわかる
けど、親に心配かけるのは、感心できない
わね。羽柴さんも、あなたを大事に思って
くれているなら、もう少し親の気持ちを考える
べきだと思うわ。毎日毎日、遅くまであなたを
引き留めて、朝帰りまでさせて。まだ結婚前
の身なのよ?あなたももう少し冷静に考えて
くれないと、お母さん、これ以上庇いきれ
ないわ)
母さんは何も間違ったことを、言っていな
かった。自分が嫁入り前の身なのだということ
も、何も言わず、窺うような視線を向けてくる
父さんから、母さんが庇ってくれていること
も、全部、わかっていた。
だけど、わたしはもう23歳だ。
大人として、社会の一員として、普通の人と
同じようにちゃんと頑張っている。何より、
純のことを悪く言われるのは、堪えられな
かった。
彼はわたしのために一生懸命手話を勉強
してくれて、わたしの耳の代わりになろう
としてくれている。
いつもいつも、わたしを色んなことから
守ろうとしてくれている。こんな風に、
誰かを好きになって、その人から大切される
こと自体、初めてのことなのだ。少し、調子
に乗って羽目を外し過ぎたかも知れないけれ
ど……だからといって、純が責められるのは、
どうしても嫌だった。
わたしは、いつになく強い眼差しを、母さん
に向けた。
(純は何にも悪くない。だから、純のことは
悪く言わないで。彼は、本当にわたしのことを
大事に思ってくれているの。わたしのために
一生懸命手話を覚えてくれて、わたしの耳の
代わりになろうとしてくれてる。こんなやさし
い人、他にいない。心配をかけてしまったのは
悪かったけれど、わたし、もう大人だし、自分
のことは自分で責任取れるから)
いつの間にか、涙が零れていた。感情が言う
ことをきかなくて、どんどん溢れてしまう。
母さんに、口答えをするのは初めてだった。
いつだって、母さんは一番の理解者で、味方
で、わたしのすることを何でも応援してくれて
いた。
なのに、いまはその母さんの顔が、知らない
人の顔のように、見える。
わたしの幸せを否定する、意地悪な人の顔。
そんな風に思えてしまう自分も、嫌で嫌で
仕方なかった。
カタカタと震え出したわたしの両手を、
母さんが包んだ。その手がとても温かくて、
ぎゅっ、と胸が苦しくなる。
(ちゃんとした大人は、親に心配を
かけないのよ)
ゆっくりと、ゆっくりと、母さんの唇が
言葉を紡ぐ。けれど、向けられる眼差しは
すでに“赦して”くれている。
-----わたしが、彼を愛することを。
-----彼が、わたしを愛することを。
だから、わたしは涙を流したままで、
小さく頷いた。
けど、親に心配かけるのは、感心できない
わね。羽柴さんも、あなたを大事に思って
くれているなら、もう少し親の気持ちを考える
べきだと思うわ。毎日毎日、遅くまであなたを
引き留めて、朝帰りまでさせて。まだ結婚前
の身なのよ?あなたももう少し冷静に考えて
くれないと、お母さん、これ以上庇いきれ
ないわ)
母さんは何も間違ったことを、言っていな
かった。自分が嫁入り前の身なのだということ
も、何も言わず、窺うような視線を向けてくる
父さんから、母さんが庇ってくれていること
も、全部、わかっていた。
だけど、わたしはもう23歳だ。
大人として、社会の一員として、普通の人と
同じようにちゃんと頑張っている。何より、
純のことを悪く言われるのは、堪えられな
かった。
彼はわたしのために一生懸命手話を勉強
してくれて、わたしの耳の代わりになろう
としてくれている。
いつもいつも、わたしを色んなことから
守ろうとしてくれている。こんな風に、
誰かを好きになって、その人から大切される
こと自体、初めてのことなのだ。少し、調子
に乗って羽目を外し過ぎたかも知れないけれ
ど……だからといって、純が責められるのは、
どうしても嫌だった。
わたしは、いつになく強い眼差しを、母さん
に向けた。
(純は何にも悪くない。だから、純のことは
悪く言わないで。彼は、本当にわたしのことを
大事に思ってくれているの。わたしのために
一生懸命手話を覚えてくれて、わたしの耳の
代わりになろうとしてくれてる。こんなやさし
い人、他にいない。心配をかけてしまったのは
悪かったけれど、わたし、もう大人だし、自分
のことは自分で責任取れるから)
いつの間にか、涙が零れていた。感情が言う
ことをきかなくて、どんどん溢れてしまう。
母さんに、口答えをするのは初めてだった。
いつだって、母さんは一番の理解者で、味方
で、わたしのすることを何でも応援してくれて
いた。
なのに、いまはその母さんの顔が、知らない
人の顔のように、見える。
わたしの幸せを否定する、意地悪な人の顔。
そんな風に思えてしまう自分も、嫌で嫌で
仕方なかった。
カタカタと震え出したわたしの両手を、
母さんが包んだ。その手がとても温かくて、
ぎゅっ、と胸が苦しくなる。
(ちゃんとした大人は、親に心配を
かけないのよ)
ゆっくりと、ゆっくりと、母さんの唇が
言葉を紡ぐ。けれど、向けられる眼差しは
すでに“赦して”くれている。
-----わたしが、彼を愛することを。
-----彼が、わたしを愛することを。
だから、わたしは涙を流したままで、
小さく頷いた。
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