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第四章:やさしい時間
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弥凪が目を閉じる。
キスは何度もしているが、伏せられた長い
睫毛を見るたびに、胸が痛いほど鼓動が鳴って
しまう。僕は一度、やわらかな彼女の唇を
親指でなぞると、その唇を包むように僕の
それを重ねた。
きゅ、と彼女が僕のシャツを握る。
彼女の背を、頭を、掻き抱くように抱いた
僕のキスは、少しずつ深くなり、彼女の小さ
な唇を濡らしてゆく。
やがて、僅かに開いた唇の隙間から舌を
差し込むと、弥凪は肩を震わせながらも、
ぎこちなく応えてくれた。僕はその舌の甘さ
に酔いながら、膨らみを確かめるように
彼女の胸へと手を伸ばした。
----僕はまだ、一度も弥凪を抱いていな
かった。
何となくだけれど、彼女の拙い仕草から、
まだ経験がないのだということを、悟って
しまったからだ。だからこの時、僕は彼女を
抱くつもりで、キスをした。
慈しむように、大切に、弥凪の心だけで
なく、すべてを抱き締めたい。僕のその想い
が、肌を通して伝わるなら、きっと弥凪も
すべてを預けてくれるに違いない。
そう思った僕は、長いキスから彼女の唇を
解放し、こつりと額を合わせた。
弥凪の艶やかな睫毛は震え、眼差しは潤ん
でいる。狭い視界の中にその表情を捉えなが
ら、胸に触れさせていた手を、ゆっくりと
彼女のニットの中に忍ばせる。
びくりと、弥凪が体を硬くした。
けれどもう、僕はその手を止めることは
出来なかった。
「……弥凪」
切なげに、愛しい人の名を呼んで、ブラの中
の膨らみに直接触れた……
その時だった。
(……っ!!)
弥凪は僕の腕から逃れるように体を捻り、
くるりと後ろを向いてしまった。
それは一瞬のことで、僕はどうしていいか
わからずに、呆然とその場に立ち尽くしてし
まう。ほんの数秒前まで腕の中にあった温もり
はすでになく、僕を拒絶するように両腕を抱き
締め、小さくなっている。
「弥凪……」
さっきとはまったく違う声色でその名を
呼び、恐る恐る彼女の肩に手を伸ばした。
けれど、肩に手が届こうとした瞬間、
テーブルに置いてあった携帯が、チャラララ♪
と、軽快な着信音を鳴らす。
-----電話?誰だろう、こんな時間に。
僕は背を向けたままの弥凪を気にかけ
ながらも、携帯を手に取って液晶画面を見た。
そして、瞬時に眉を寄せた。
電話の主は、町田さんだった。
-----何だろう?
彼から電話が来るのは、初めてだ。
メールだって、数回しかやり取りしたこと
が、ない。僕は首を捻りながら、鳴り続ける
携帯の受話器を上げた。
すると第一声から、やたら陽気な声が耳に
飛び込んできた。
キスは何度もしているが、伏せられた長い
睫毛を見るたびに、胸が痛いほど鼓動が鳴って
しまう。僕は一度、やわらかな彼女の唇を
親指でなぞると、その唇を包むように僕の
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きゅ、と彼女が僕のシャツを握る。
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僕のキスは、少しずつ深くなり、彼女の小さ
な唇を濡らしてゆく。
やがて、僅かに開いた唇の隙間から舌を
差し込むと、弥凪は肩を震わせながらも、
ぎこちなく応えてくれた。僕はその舌の甘さ
に酔いながら、膨らみを確かめるように
彼女の胸へと手を伸ばした。
----僕はまだ、一度も弥凪を抱いていな
かった。
何となくだけれど、彼女の拙い仕草から、
まだ経験がないのだということを、悟って
しまったからだ。だからこの時、僕は彼女を
抱くつもりで、キスをした。
慈しむように、大切に、弥凪の心だけで
なく、すべてを抱き締めたい。僕のその想い
が、肌を通して伝わるなら、きっと弥凪も
すべてを預けてくれるに違いない。
そう思った僕は、長いキスから彼女の唇を
解放し、こつりと額を合わせた。
弥凪の艶やかな睫毛は震え、眼差しは潤ん
でいる。狭い視界の中にその表情を捉えなが
ら、胸に触れさせていた手を、ゆっくりと
彼女のニットの中に忍ばせる。
びくりと、弥凪が体を硬くした。
けれどもう、僕はその手を止めることは
出来なかった。
「……弥凪」
切なげに、愛しい人の名を呼んで、ブラの中
の膨らみに直接触れた……
その時だった。
(……っ!!)
弥凪は僕の腕から逃れるように体を捻り、
くるりと後ろを向いてしまった。
それは一瞬のことで、僕はどうしていいか
わからずに、呆然とその場に立ち尽くしてし
まう。ほんの数秒前まで腕の中にあった温もり
はすでになく、僕を拒絶するように両腕を抱き
締め、小さくなっている。
「弥凪……」
さっきとはまったく違う声色でその名を
呼び、恐る恐る彼女の肩に手を伸ばした。
けれど、肩に手が届こうとした瞬間、
テーブルに置いてあった携帯が、チャラララ♪
と、軽快な着信音を鳴らす。
-----電話?誰だろう、こんな時間に。
僕は背を向けたままの弥凪を気にかけ
ながらも、携帯を手に取って液晶画面を見た。
そして、瞬時に眉を寄せた。
電話の主は、町田さんだった。
-----何だろう?
彼から電話が来るのは、初めてだ。
メールだって、数回しかやり取りしたこと
が、ない。僕は首を捻りながら、鳴り続ける
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