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第三章:雨の中で

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 人混みを抜け、駐車場へ出ると、テントの
灯りが届かないその場所は視界が悪かった。
 1本の街灯がぼんやりと辺りを照らしては
いるが、夜目の効かない僕にはかなり暗く見え
てしまう。
 じゃり、と、駐車場に敷き詰められた砂利の
音を聞きながら、僕は駐車場の脇にある筈の
倉庫を探した。
 町田さんの話では、倉庫と木々の隙間を
抜けると、眼下に街を見下ろせる場所が
あるらしい。そのことを彼女にも伝えると、
彼女は、すっ、と黒い建物を指差し、僕の
手を引いて歩き始めた。

 「ほんとにあった」

 彼女に手を引かれながら、ひと二人がやっと
通れるくらいの隙間を抜けると、茂みの中に、
やはり、人二人がやっと立てるくらいの
スペースがあった。彼女と肩を並べ、石造り
手摺てすりの下を覗く。
 
 僕たちが上がって来た坂道を、幾人かの人影
が下ってゆくのが見える。僕は小さく霞んで
見える街灯りの上に広がる、真っ暗な空を見や
った。時刻は8時を過ぎている。花火はどの
辺りに上がるのだろうか?

「どの辺りかな?」

 きょろきょろと空を見上げながらそう
言った、その時だった。
 ヒューー、と竹笛のような音がしたかと
思うと、ドォーーンと夜空の向こうに大きな
花火が散った。

「始まった!!」

 僕は丸く削れた視界の向こうに広がる、眩い
光の輪に声を上げた。彼女も手を叩きながら、
嬉しそうに空を見上げる。
 すーっ、と黄色い光が尾を引いて放射状に
飛び散ったり、赤と黄色の光が、ぱっと牡丹の
花のように咲いたり、シュルシュルと音を鳴ら
しながら、夜空を回転する花火も見える。
 頭上で広がる花火に比べれば迫力は劣るけれ
ど、風にのって聞こえる音も風情があったし、
何より、人混みを避けて静かに観賞できるのは
とても贅沢だった。

 僕たちは、しばらくの間、秋の夜空に広がる
キレイな花火に見惚れた。
 そして時折、互いを向き、笑みを交わした。

 次第に、トクリトクリ、と、胸の鼓動が大き
くなってゆく。この花火が終わってしまう前に
伝えよう。そう思えば、いつ切り出そうか、
どう伝えようか、そんな思いばかりが頭を擡げ
てしまう。この場所は花火を眺めるには最適だ
が、暗すぎて手話も指文字もよく見えない。
 携帯に文字を打つ手もあるが、何となく活字
ではなく、生の言葉を伝えたかった。

 僕はひとつ呼吸をして息を整えると、彼女の
手を握った。彼女がこちらを向く。
僕は彼女の指を広げ、手の平に文字を書いた。

 (すきだよ)

 ゆっくりと平仮名でそう綴ると、彼女は数秒
考えたのち、弾かれたように顔を上げた。
 僕は手を握ったままで、言葉を続ける。
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