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episodeFinal 永遠のワンスモア
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ぽん、と斗哉の大きな手の平が頭にのせられて、つばさは頷く。
まだ、鼻先は朱かったけれど、つばさは笑みを向けることができた。
「そっか、そうだよね。うん。少しでも斗哉の役に立てたんなら、いいや。
あ、でも、あの親子をあのままにしておくのは、良くないよね?誰か他の
霊能者に頼んで浄化してもらわないと……」
そう言って腕を組んだつばさに、斗哉は手を引っ込めると、ケロリとした
顔で信じられないことを口にした。
「ああ、それなら………除霊は嵐に頼むから、大丈夫」
カチ、とキーを捻って車のエンジンをかけた斗哉に、つばさは目を見開いて
驚愕の声を上げた。
「えっっ!!??嵐って………あの嵐???」
物凄い勢いで斗哉を向いて、口をパクパクする。斗哉は、前を向いたまま
頬を緩めると、眼鏡をかけながら言った。
「もちろん、あの嵐だよ。今回はあいつが遠方に出向いてて頼めなかったけど、
時々、捜査協力という形で手を貸してもらってるんだ。俺たち、親友だしな。
ちなみに、黒住刑事ともたまに仕事で会ってるよ。門田刑事は異動してから
会えてないけど……話題にはよく出てくる」
嵐が斗哉に捜査協力???しかも、2人が親友って…………
人生、何がどうなるかわからないものだ。
つばさは、ただただ、時間の経過がもたらす様々な状況の変化に
驚きながら、斗哉の横顔を見つめた。そうして、その懐かしい顔ぶれの
中に、自分はもういないことを寂しく思って、唇を噛んだ。
不意に、斗哉が身を乗り出して顔が近づいた。その事にどきりとして、
躰を硬くしたつばさのシートベルトを、カチリと締めてくれる。
「ほら、車出すぞ。ここから澄子さんの家までは30分かからないんだ。
暗くなる前には着くと思う。誰にも会わないように、こっそり庭に入ろう」
「あ、うん。……そうだね」
つばさはぎこちなく笑うと、言葉少なにずっと窓の外を眺めていた。
祖母、澄子の屋敷は何も変わらぬまま、そこにあった。
ただ一つ、変わっていることがあるとすれば、庭の木々が葉を落とし、
緑が失われていることくらいだ。つばさは斗哉に手を引かれ、裏口の
小さな扉から庭に入った。幸いなことに、そこに人影はない。
そう言えば、未来の自分に会ってしまうと過去と現在に矛盾が生じ、
タイムパラドックスが起きてしまうとか?そんな話を本か何かで読んだ
記憶がある。10年後のいまも、自分が澄子の家にいるかどうかは
わからないけれど……あまり、自分を良く知る人間に会わない方が
いいのかも知れない。
「あの灯篭だろう?」
斗哉が淡い夕陽に照らされた灯篭を指差した。陽はまだ完全に沈んで
はいないが、辺りは少し薄暗い。つばさはごくりと唾を呑んで頷くと、
そろそろと灯篭に近づいた。確か、トメに誘われて自分が立った場所は
満開に咲いたアナベルの前だ。
「ちゃんと、帰れるかな?」
つばさは不安になって、斗哉の顔を見上げた。不可思議な現象には
慣れていたが、また、違う場所に飛ばされたりしたら、叶わない。
「大丈夫。あそこから帰れるよ。10年前の俺が、つばさを待ってる」
そう言うと、斗哉は背後から優しくつばさの背中を押した。一歩、二歩と、
灯篭に近づきながら、つばさが振り返る。夢を叶えた大人の斗哉が、
別の誰かのものになった斗哉が、慈しむような眼差しを向けている。
つばさは、すぅ、と息を吸うと斗哉に笑みを見せた。向こうに帰る前に、
伝えておきたいことがある。
「あのね、斗哉」
「ん?」
「わたしさ……誰よりも斗哉の幸せ、願ってるからね」
「……つばさ」
へへっ、といつもの顔でそう言ったつばさに、斗哉が表情を止めて
目を見開く。斗哉の奥さんから借りたスカートが、風に靡いている。
まだ、鼻先は朱かったけれど、つばさは笑みを向けることができた。
「そっか、そうだよね。うん。少しでも斗哉の役に立てたんなら、いいや。
あ、でも、あの親子をあのままにしておくのは、良くないよね?誰か他の
霊能者に頼んで浄化してもらわないと……」
そう言って腕を組んだつばさに、斗哉は手を引っ込めると、ケロリとした
顔で信じられないことを口にした。
「ああ、それなら………除霊は嵐に頼むから、大丈夫」
カチ、とキーを捻って車のエンジンをかけた斗哉に、つばさは目を見開いて
驚愕の声を上げた。
「えっっ!!??嵐って………あの嵐???」
物凄い勢いで斗哉を向いて、口をパクパクする。斗哉は、前を向いたまま
頬を緩めると、眼鏡をかけながら言った。
「もちろん、あの嵐だよ。今回はあいつが遠方に出向いてて頼めなかったけど、
時々、捜査協力という形で手を貸してもらってるんだ。俺たち、親友だしな。
ちなみに、黒住刑事ともたまに仕事で会ってるよ。門田刑事は異動してから
会えてないけど……話題にはよく出てくる」
嵐が斗哉に捜査協力???しかも、2人が親友って…………
人生、何がどうなるかわからないものだ。
つばさは、ただただ、時間の経過がもたらす様々な状況の変化に
驚きながら、斗哉の横顔を見つめた。そうして、その懐かしい顔ぶれの
中に、自分はもういないことを寂しく思って、唇を噛んだ。
不意に、斗哉が身を乗り出して顔が近づいた。その事にどきりとして、
躰を硬くしたつばさのシートベルトを、カチリと締めてくれる。
「ほら、車出すぞ。ここから澄子さんの家までは30分かからないんだ。
暗くなる前には着くと思う。誰にも会わないように、こっそり庭に入ろう」
「あ、うん。……そうだね」
つばさはぎこちなく笑うと、言葉少なにずっと窓の外を眺めていた。
祖母、澄子の屋敷は何も変わらぬまま、そこにあった。
ただ一つ、変わっていることがあるとすれば、庭の木々が葉を落とし、
緑が失われていることくらいだ。つばさは斗哉に手を引かれ、裏口の
小さな扉から庭に入った。幸いなことに、そこに人影はない。
そう言えば、未来の自分に会ってしまうと過去と現在に矛盾が生じ、
タイムパラドックスが起きてしまうとか?そんな話を本か何かで読んだ
記憶がある。10年後のいまも、自分が澄子の家にいるかどうかは
わからないけれど……あまり、自分を良く知る人間に会わない方が
いいのかも知れない。
「あの灯篭だろう?」
斗哉が淡い夕陽に照らされた灯篭を指差した。陽はまだ完全に沈んで
はいないが、辺りは少し薄暗い。つばさはごくりと唾を呑んで頷くと、
そろそろと灯篭に近づいた。確か、トメに誘われて自分が立った場所は
満開に咲いたアナベルの前だ。
「ちゃんと、帰れるかな?」
つばさは不安になって、斗哉の顔を見上げた。不可思議な現象には
慣れていたが、また、違う場所に飛ばされたりしたら、叶わない。
「大丈夫。あそこから帰れるよ。10年前の俺が、つばさを待ってる」
そう言うと、斗哉は背後から優しくつばさの背中を押した。一歩、二歩と、
灯篭に近づきながら、つばさが振り返る。夢を叶えた大人の斗哉が、
別の誰かのものになった斗哉が、慈しむような眼差しを向けている。
つばさは、すぅ、と息を吸うと斗哉に笑みを見せた。向こうに帰る前に、
伝えておきたいことがある。
「あのね、斗哉」
「ん?」
「わたしさ……誰よりも斗哉の幸せ、願ってるからね」
「……つばさ」
へへっ、といつもの顔でそう言ったつばさに、斗哉が表情を止めて
目を見開く。斗哉の奥さんから借りたスカートが、風に靡いている。
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