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episodeFinal 永遠のワンスモア
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「ありがとう。じゃあ、さっそく、現場に向かおう」
斗哉は席を立って資料をまとめると、つばさを連れて部屋を後にした。
斗哉に連れてこられた現場は、中が真っ黒に焼け焦げた一軒家だった。
建物が焼け落ちる前に火が消し止められたからか、屋根や外壁は
黒ずんでいても、家そのものの形は保たれている。事件の概要は、
車の中で一通り聞いてはいるが、実際に家の前に来るとその状況は
生々しかった。
------斗哉の話によると、事件の概要はこうだ。
70代の父親と40代の娘が暮らすこの家で、窃盗放火殺人事件が起きた。
2人が寝静まっている夜半に窃盗犯である20代男性が押し入り、現金を
盗んだあげく、火を放って逃げたというのだ。幸い、事件直後に不審者を
見かけたという証言もあって、容疑者はすぐに逮捕されたが、残念ながら
焼け跡からは2人の遺体が発見された。
「問題は、一度は容疑を認めた被疑者が、放火はやっていないと容疑を
否認していることなんだ。証拠隠滅のために火をつけたんだろうと、
警察に自供を迫られたと訴えてる。消防の調査で火元は玄関先に
積まれた古紙だとわかってはいるんだけど」
「確たる証拠も動機も見当たらない……ってこと?」
渋い顔をして言葉をとぎった斗哉に、つばさは斗哉が口にする筈だった
その先の言葉を続けた。
「正解」
斗哉が複雑な笑みで頷く。つばさは、身を乗り出してさらに訊いた。
「他にも、何か斗哉が疑問を感じる要因があるの?だって、やったという
証拠もないけど、やってないっていう証拠もないよね?」
斗哉のことだ。消防の報告や警察から上げられた捜査資料は、舐める
ように調べつくしたうえで、この疑問を抱えているに違いない。斗哉は
眉間に皺を寄せると、ぺろりと唇を舐めた。
「ああ。捕まった被疑者には窃盗の余罪はあっても、放火の前科は
ないんだ。それに、普段は二階に寝ている筈の娘が、一階の寝室で
父親と発見されたことも気になる。眠っている間に火が燃え広がった
なら、一酸化中毒でそのまま亡くなるのが普通だろう?なのに、
娘は認知症を患っている父親の側で死んでたんだ。もしかしたら、
物音に気付いて一階に下りてきたのかもしれないけど……そうなると、
被疑者が火をつける前に娘が鉢合わせしなかったのも、変だ」
「その被疑者は、娘さんには会ってないって言ってるんだね?」
「ああ。翌日のニュースで、窃盗に入った家で焼死体が発見された
と知って、腰を抜かしたらしい。無理もないよな。もし、警察に捕まれ
ば窃盗だけでなく、放火と殺人の容疑までかけられることになるんだ。
窃盗だけなら刑罰はそれほど重くなくても、放火で2人も犠牲になった
となると………」
赤信号で止まった車のハンドルから手を離すと、斗哉は唇を噛んで
腕を組んだ。いまや、被疑者の不安は現実のものとなり、斗哉は
重大な判断を迫られている。つばさは、責任の重さを感じで両手を
握りしめた。
果たして、事件現場に立った自分に何が見えるのか?
つばさは、深く息を吸いこんで呼吸を整えると、事件現場に辿りついた
車から足を下した。
建物の前に立つと、つばさはすぐに視線を感じて二階を見上げた。
ガラスが割れてなくなった窓の向こうから、虚ろな目をした女性が
こちらを見つめている。寝間着らしきスウェットに、長い髪を無造作に
垂らした……痩せ型の女性。もしかしなくても、火災で亡くなったこの
家の娘だろう。彼女から自分たちに発せられる念は、とても穏やか
とは言い難い。窓からつばさを見ていた女性は、やがて、ふい、と目を
逸らすと、家の奥へと姿を消した。
斗哉は席を立って資料をまとめると、つばさを連れて部屋を後にした。
斗哉に連れてこられた現場は、中が真っ黒に焼け焦げた一軒家だった。
建物が焼け落ちる前に火が消し止められたからか、屋根や外壁は
黒ずんでいても、家そのものの形は保たれている。事件の概要は、
車の中で一通り聞いてはいるが、実際に家の前に来るとその状況は
生々しかった。
------斗哉の話によると、事件の概要はこうだ。
70代の父親と40代の娘が暮らすこの家で、窃盗放火殺人事件が起きた。
2人が寝静まっている夜半に窃盗犯である20代男性が押し入り、現金を
盗んだあげく、火を放って逃げたというのだ。幸い、事件直後に不審者を
見かけたという証言もあって、容疑者はすぐに逮捕されたが、残念ながら
焼け跡からは2人の遺体が発見された。
「問題は、一度は容疑を認めた被疑者が、放火はやっていないと容疑を
否認していることなんだ。証拠隠滅のために火をつけたんだろうと、
警察に自供を迫られたと訴えてる。消防の調査で火元は玄関先に
積まれた古紙だとわかってはいるんだけど」
「確たる証拠も動機も見当たらない……ってこと?」
渋い顔をして言葉をとぎった斗哉に、つばさは斗哉が口にする筈だった
その先の言葉を続けた。
「正解」
斗哉が複雑な笑みで頷く。つばさは、身を乗り出してさらに訊いた。
「他にも、何か斗哉が疑問を感じる要因があるの?だって、やったという
証拠もないけど、やってないっていう証拠もないよね?」
斗哉のことだ。消防の報告や警察から上げられた捜査資料は、舐める
ように調べつくしたうえで、この疑問を抱えているに違いない。斗哉は
眉間に皺を寄せると、ぺろりと唇を舐めた。
「ああ。捕まった被疑者には窃盗の余罪はあっても、放火の前科は
ないんだ。それに、普段は二階に寝ている筈の娘が、一階の寝室で
父親と発見されたことも気になる。眠っている間に火が燃え広がった
なら、一酸化中毒でそのまま亡くなるのが普通だろう?なのに、
娘は認知症を患っている父親の側で死んでたんだ。もしかしたら、
物音に気付いて一階に下りてきたのかもしれないけど……そうなると、
被疑者が火をつける前に娘が鉢合わせしなかったのも、変だ」
「その被疑者は、娘さんには会ってないって言ってるんだね?」
「ああ。翌日のニュースで、窃盗に入った家で焼死体が発見された
と知って、腰を抜かしたらしい。無理もないよな。もし、警察に捕まれ
ば窃盗だけでなく、放火と殺人の容疑までかけられることになるんだ。
窃盗だけなら刑罰はそれほど重くなくても、放火で2人も犠牲になった
となると………」
赤信号で止まった車のハンドルから手を離すと、斗哉は唇を噛んで
腕を組んだ。いまや、被疑者の不安は現実のものとなり、斗哉は
重大な判断を迫られている。つばさは、責任の重さを感じで両手を
握りしめた。
果たして、事件現場に立った自分に何が見えるのか?
つばさは、深く息を吸いこんで呼吸を整えると、事件現場に辿りついた
車から足を下した。
建物の前に立つと、つばさはすぐに視線を感じて二階を見上げた。
ガラスが割れてなくなった窓の向こうから、虚ろな目をした女性が
こちらを見つめている。寝間着らしきスウェットに、長い髪を無造作に
垂らした……痩せ型の女性。もしかしなくても、火災で亡くなったこの
家の娘だろう。彼女から自分たちに発せられる念は、とても穏やか
とは言い難い。窓からつばさを見ていた女性は、やがて、ふい、と目を
逸らすと、家の奥へと姿を消した。
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