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episodeFinal 永遠のワンスモア
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じっと自分を見つめていた眼差しが、光を伴って揺れる。泪が滲んでいるのだと、
そう気が付いた瞬間に、つばさはまた、強い腕に抱きすくめられていた。
頭の上から、擦れた声が聴こえる。
「ダメだって言っても……訊かないんだろうが、お前は。いつもいつも、子供の頃
からずっとそうだ。勝手に、一人でどっか行こうとするお前を、追いかけて、
追いかけて。やっと腕の中に閉じ込めておけると思ったら……今度は……」
苦し気に息を吐きながら、斗哉がつばさの頭に頬を押し付ける。泪を堪えている
のだと、その声からわかって、つばさもきつく斗哉の背中を抱いた。手にしていた
小さな紙袋が、ガサと音を立てて足元に落ちる。本当は、離れたくなんかない。
ずっと斗哉の側にいたい。そう、叫んでしまいそうだ。
けれど、それは出来なかった。
今までと同じでいればきっと、また同じ過ちを繰り返してしまう。
もう、彼の愛情の上に胡坐をかいていたくなかった。
「離れても……大丈夫だよね?私たち……」
自分から離れるくせに、と、自分に飽きれながら、つばさは腕の中で呟いた。
抱きしめる腕にいっそう力が込められる。息が苦しいのか、胸が苦しいのか、
わからなくなる。
「ああ。どんなに離れても、俺が、どこまでも追いかける。何度でも……お前を
捕まえにいくから。心配するな」
望んでいた以上の言葉をさらりと口にしてくれた斗哉に、つばさは思わず、
あははと肩を揺らした。ドラマなら、ここで花びらが飛び散って2人が熱く盛り
上がるところだが……相手がつばさだと、そうはいかない。
「笑ったな」
「ごめん。なんか、トムとジェリーみたいだな、って思ったら可笑しくて」
笑って顔をあげたつばさに、斗哉が口をへの字にして見せる。たった今、
離れることを受け止めたばかりなのに、いつもの2人の顔が、そこにある。
「さしずめ、俺がネコでお前がネズミってとこか。じゃあ、お前をおびき寄せる
チーズでも用意しとかなきゃな」
きゅっ、とつばさの鼻を摘まんで斗哉も頬を綻ばせた。次の瞬間、あっ、と
鼻を摘ままれたままで何かを思い出したようにつばさが目を丸くする。
「斗哉。待って」
つばさは、斗哉の腕から逃れると足元に落ちている紙袋を拾った。そうして、
中から透明のセロファンに包まれたチョコレートを取り出した。昨夜、慌てて
作ったものだ。
「チーズで思い出した。これ、すごく簡単なやつだけど……斗哉に。ちゃんと、
テンパリングってゆーのもやったから、美味しいと思うんだ」
ただ、市販のチョコを溶かしてアルミカップに移しただけのバレンタインチョコを
斗哉に渡す。うえにナッツやスプレーチョコが載せてはあるが、今日日、
幼稚園生でももっと手の込んだお菓子を作るに違いない。それでも、斗哉は
これでもかと言うほど、嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとう。まさか、つばさから手作りが貰えるなんて思ってもなかった」
「そ、そんな、大喜びするほどのものじゃないんだけどね。でも……美味しい?」
さっそく、袋から取り出してチョコを口に放り込んだ斗哉の顔を覗く。溶かした
だけのチョコの味が、そう、変わることはないにしろ、感想は気になる。
斗哉は不安そうに自分を見つめるつばさに、口を動かしながら頷いた。
「すごく美味しい」
「良かった!やっぱり、作って良かった。来年はもっと頑張るね」
「うん。お前も味見する?」
「えっ、いいの?」
つばさは、ホッとしながら斗哉の手にある紙袋に目をやった。その時だった。
首筋に斗哉の手が掛けられて、ぐいと引き寄せられた。そうして、目を閉じる間も
なく、唇が重ねられる。斗哉の口の中から、とろりと溶けたチョコが押し込まれて、
つばさの口の中いっぱいに広がった。
そう気が付いた瞬間に、つばさはまた、強い腕に抱きすくめられていた。
頭の上から、擦れた声が聴こえる。
「ダメだって言っても……訊かないんだろうが、お前は。いつもいつも、子供の頃
からずっとそうだ。勝手に、一人でどっか行こうとするお前を、追いかけて、
追いかけて。やっと腕の中に閉じ込めておけると思ったら……今度は……」
苦し気に息を吐きながら、斗哉がつばさの頭に頬を押し付ける。泪を堪えている
のだと、その声からわかって、つばさもきつく斗哉の背中を抱いた。手にしていた
小さな紙袋が、ガサと音を立てて足元に落ちる。本当は、離れたくなんかない。
ずっと斗哉の側にいたい。そう、叫んでしまいそうだ。
けれど、それは出来なかった。
今までと同じでいればきっと、また同じ過ちを繰り返してしまう。
もう、彼の愛情の上に胡坐をかいていたくなかった。
「離れても……大丈夫だよね?私たち……」
自分から離れるくせに、と、自分に飽きれながら、つばさは腕の中で呟いた。
抱きしめる腕にいっそう力が込められる。息が苦しいのか、胸が苦しいのか、
わからなくなる。
「ああ。どんなに離れても、俺が、どこまでも追いかける。何度でも……お前を
捕まえにいくから。心配するな」
望んでいた以上の言葉をさらりと口にしてくれた斗哉に、つばさは思わず、
あははと肩を揺らした。ドラマなら、ここで花びらが飛び散って2人が熱く盛り
上がるところだが……相手がつばさだと、そうはいかない。
「笑ったな」
「ごめん。なんか、トムとジェリーみたいだな、って思ったら可笑しくて」
笑って顔をあげたつばさに、斗哉が口をへの字にして見せる。たった今、
離れることを受け止めたばかりなのに、いつもの2人の顔が、そこにある。
「さしずめ、俺がネコでお前がネズミってとこか。じゃあ、お前をおびき寄せる
チーズでも用意しとかなきゃな」
きゅっ、とつばさの鼻を摘まんで斗哉も頬を綻ばせた。次の瞬間、あっ、と
鼻を摘ままれたままで何かを思い出したようにつばさが目を丸くする。
「斗哉。待って」
つばさは、斗哉の腕から逃れると足元に落ちている紙袋を拾った。そうして、
中から透明のセロファンに包まれたチョコレートを取り出した。昨夜、慌てて
作ったものだ。
「チーズで思い出した。これ、すごく簡単なやつだけど……斗哉に。ちゃんと、
テンパリングってゆーのもやったから、美味しいと思うんだ」
ただ、市販のチョコを溶かしてアルミカップに移しただけのバレンタインチョコを
斗哉に渡す。うえにナッツやスプレーチョコが載せてはあるが、今日日、
幼稚園生でももっと手の込んだお菓子を作るに違いない。それでも、斗哉は
これでもかと言うほど、嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとう。まさか、つばさから手作りが貰えるなんて思ってもなかった」
「そ、そんな、大喜びするほどのものじゃないんだけどね。でも……美味しい?」
さっそく、袋から取り出してチョコを口に放り込んだ斗哉の顔を覗く。溶かした
だけのチョコの味が、そう、変わることはないにしろ、感想は気になる。
斗哉は不安そうに自分を見つめるつばさに、口を動かしながら頷いた。
「すごく美味しい」
「良かった!やっぱり、作って良かった。来年はもっと頑張るね」
「うん。お前も味見する?」
「えっ、いいの?」
つばさは、ホッとしながら斗哉の手にある紙袋に目をやった。その時だった。
首筋に斗哉の手が掛けられて、ぐいと引き寄せられた。そうして、目を閉じる間も
なく、唇が重ねられる。斗哉の口の中から、とろりと溶けたチョコが押し込まれて、
つばさの口の中いっぱいに広がった。
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