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episode5 朔風に消える
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「加賀見さんが到着されました。こちらにお通ししていいですか?」
「ああ、来られましたか。どうぞ、お入りください」
門田刑事がドア付近まで出向く。大きく開け放たれたドアの向こうから、
大柄で温厚そうな男性と……その男性の肩に寄り添うように、一人の女性が
すっと部屋に入ってきた。つばさと嵐は、思いきり顔を見合わせる。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、部屋に入ってきた女性は、被害者の
伊佐山七海、その人だろう。ふわりと彼の腕に身を寄せながら、こちらに
にっこりと笑みを向けている。どうやら、つばさたちの反応から、自分が
見えているとわかったらしい。肩までのゆるいウェーブヘアをピンで留めた、
可愛らしい顔立ちの女性だ。
「こちらが、先日お話した神崎君と……その友人の藤守さんと黒沢君です」
テーブルの前に立った加賀見に、門田刑事が簡単な自己紹介をする。
つばさたちも、遅れて立ち上がると、頭を下げた。
「初めまして。加賀見舘氏と申します」
深々と頭を下げた加賀見は、顔を上げると嵐に目を向けた。
「〇〇教、6代目当主の神崎嵐です」
嵐が懐から名刺を取り出して渡す。加賀見は、メタルフレームの眼鏡を
支えながらまじまじと名刺を見つめると、複雑な笑みを浮かべて言った。
「失礼ですが、学生さんと伺ってますが。こんな深刻な相談にのっていた
だいて、大丈夫なんでしょうか?」
加賀見の言いたいことを察して、嵐が笑みを深める。
「もちろんです。この能力に年齢は関係ありませんし、すでに、霊能一族の
当主としていくつかの相談も受けています。加賀見さんのお役に立てるよう、
努めさせていただきます」
とても高校生とは思えない毅然とした態度に、加賀見が目を見開いて頷く。
そして、失礼なことを訊いてしまったというように頭をかくと、ぺこりと頭を
下げて、椅子に腰かけた。挨拶が終わり、一同が席につく。
「さて、さっそく本題に入りましょうか。まずは加賀見さんから、あなたが悩んで
いるという心霊現象についてお話してください。ああ、事件の詳細はすでに説明
してありますから、大丈夫です」
開口一番に話を進めたのは、黒住刑事だった。どうぞ、と促すように、
加賀見に手を差し伸べる。つばさは、加賀見の背後に佇んでいる七海に目を
やると、実は、と話し始めた加賀見に視線を戻した。
「彼女が亡くなってからまもなく、僕の身の回りで、彼女の気配を感じるような
出来事が、たびたび起こっているんです」
「彼女の気配……というのは?」
嵐は彼の背後に立つ七海には目を向けずに、彼の話を促した。
「はい。物理的には絶対にありえないんですが……僕の携帯に彼女からの
着信が入るんです。それも、一度じゃありません。同じ時間に、何度も……」
加賀見が懐から携帯を取り出して、嵐に見せる。液晶画面に映し出された
着信履歴は、確かに「七海 22:58」という表示がいくつか並んでいる。頻度的
には週に1度くらいのペースで、着信の曜日を確認すれば決まって火曜だった。
嵐が無言で黒住刑事に目を向ける。黒住刑事は何も言わず頷いた。
「つまり、伊佐山七海さんが亡くなった火曜日に、彼女の携帯から着信が入る
ということですね。その電話には出てみましたか?何か、声が聴こえたとか」
携帯を加賀見に手渡しながら、嵐が顔を覗く。加賀見は、小さく首を振って
項垂れた。
「もちろん、電話には出てみました。でも、どんなに耳を澄ましても、
何度話しかけても……七海の声は返ってこないんです。不思議なことはそれだけ
じゃなくて、家の中に居ても、外にいる時でも彼女の匂いがするというか……」
「ああ、来られましたか。どうぞ、お入りください」
門田刑事がドア付近まで出向く。大きく開け放たれたドアの向こうから、
大柄で温厚そうな男性と……その男性の肩に寄り添うように、一人の女性が
すっと部屋に入ってきた。つばさと嵐は、思いきり顔を見合わせる。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、部屋に入ってきた女性は、被害者の
伊佐山七海、その人だろう。ふわりと彼の腕に身を寄せながら、こちらに
にっこりと笑みを向けている。どうやら、つばさたちの反応から、自分が
見えているとわかったらしい。肩までのゆるいウェーブヘアをピンで留めた、
可愛らしい顔立ちの女性だ。
「こちらが、先日お話した神崎君と……その友人の藤守さんと黒沢君です」
テーブルの前に立った加賀見に、門田刑事が簡単な自己紹介をする。
つばさたちも、遅れて立ち上がると、頭を下げた。
「初めまして。加賀見舘氏と申します」
深々と頭を下げた加賀見は、顔を上げると嵐に目を向けた。
「〇〇教、6代目当主の神崎嵐です」
嵐が懐から名刺を取り出して渡す。加賀見は、メタルフレームの眼鏡を
支えながらまじまじと名刺を見つめると、複雑な笑みを浮かべて言った。
「失礼ですが、学生さんと伺ってますが。こんな深刻な相談にのっていた
だいて、大丈夫なんでしょうか?」
加賀見の言いたいことを察して、嵐が笑みを深める。
「もちろんです。この能力に年齢は関係ありませんし、すでに、霊能一族の
当主としていくつかの相談も受けています。加賀見さんのお役に立てるよう、
努めさせていただきます」
とても高校生とは思えない毅然とした態度に、加賀見が目を見開いて頷く。
そして、失礼なことを訊いてしまったというように頭をかくと、ぺこりと頭を
下げて、椅子に腰かけた。挨拶が終わり、一同が席につく。
「さて、さっそく本題に入りましょうか。まずは加賀見さんから、あなたが悩んで
いるという心霊現象についてお話してください。ああ、事件の詳細はすでに説明
してありますから、大丈夫です」
開口一番に話を進めたのは、黒住刑事だった。どうぞ、と促すように、
加賀見に手を差し伸べる。つばさは、加賀見の背後に佇んでいる七海に目を
やると、実は、と話し始めた加賀見に視線を戻した。
「彼女が亡くなってからまもなく、僕の身の回りで、彼女の気配を感じるような
出来事が、たびたび起こっているんです」
「彼女の気配……というのは?」
嵐は彼の背後に立つ七海には目を向けずに、彼の話を促した。
「はい。物理的には絶対にありえないんですが……僕の携帯に彼女からの
着信が入るんです。それも、一度じゃありません。同じ時間に、何度も……」
加賀見が懐から携帯を取り出して、嵐に見せる。液晶画面に映し出された
着信履歴は、確かに「七海 22:58」という表示がいくつか並んでいる。頻度的
には週に1度くらいのペースで、着信の曜日を確認すれば決まって火曜だった。
嵐が無言で黒住刑事に目を向ける。黒住刑事は何も言わず頷いた。
「つまり、伊佐山七海さんが亡くなった火曜日に、彼女の携帯から着信が入る
ということですね。その電話には出てみましたか?何か、声が聴こえたとか」
携帯を加賀見に手渡しながら、嵐が顔を覗く。加賀見は、小さく首を振って
項垂れた。
「もちろん、電話には出てみました。でも、どんなに耳を澄ましても、
何度話しかけても……七海の声は返ってこないんです。不思議なことはそれだけ
じゃなくて、家の中に居ても、外にいる時でも彼女の匂いがするというか……」
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