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episode4 帰れない道
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(うぷっ!!)
突然、硬い感触が顔面にぶつかって、鼻を擦った。
目を開ければ、立ち止まった嵐の背中が目の前にある。
「無事に通りに出たみたいだな」
自分の背中に突っ込んだつばさを、振り返って見下ろしながら、
嵐はつばさの腕を引いて自分の前に立たせた。
「この景色に見覚えない?」
背後から聴こえる嵐の声に、つばさは辺りを見渡す。細い畦道を
抜けた先は、舗装はされていないものの、車も通れる広い通りだ。
深い緑の風景に囲まれた、どこかの山道。その道の先は2本に
分かれていて、右側の道を少し行ったところに、別荘らしき黒い屋根の
ログハウスが見える。この景色に、見覚えがあった。
「ここ……来たことある!あの建物、お父さんの会社の保養所だよ!」
つばさは愕きに声を震わせながら、手で口を覆った。
知らず、目に涙が滲んでしまったのは、恐ろしさからではない。
「これで、場所の特定もできたな」
背後にいた斗哉が、つばさの肩に手をのせた。
「でも私、ここに来たのは幼稚園の時に一度だけだよ?だから……」
斗哉を見上げてつばさがそう言った時、しっ、と嵐が唇に指をあてた。
「声が聴こえる」
嵐が唇に指をあてたまま、声がする方向に耳を傾ける。つばさも、
じっと耳を澄ました。嵐の言う通り、遠くから、風にのって微かに
子供の声が聴こえる。
「……きゃはは」
「あははっ……」
遊んでいるのだろうか?
聴こえてくる声はとても楽しそうなもので、その声は一人じゃなかった。
「ほんとだ。聴こえる」
「ああ。声がするのは、別荘の……もう少し先みたいだな」
「どうしよう?」
じっと、声のする方向を見据えている嵐に、つばさは不安そうに訊いた。
「どうする、って。行ってみるしかないだろ?」
嵐のその言葉に、斗哉も頷く。そうして、着ていたコートを脱いで額に
滲む汗を拭うと、嵐はログハウスに向かって歩き始めた。
斗哉もコートを脱いでその後に続く。「行こう」と振り返ってつばさを見た
斗哉の顔色は、冴えなかった。やはり、まだ本調子ではないようだ。
つばさは、斗哉の隣に並ぶと、気遣うように顔を覗いた。
砂利道を進んで別荘の前を通り過ぎる。と、二軒先に白い建物が見えた。
木々の緑と白のコントラストが印象的な建物だ。その建物の裏手から、
子供が一人。「あははっ」と楽しそうな声を上げて飛びだしてきた。
女の子だろうか?この声も聞き覚えがある。
目を凝らして子供の顔を見た瞬間、つばさは全身の肌が粟立った。
夏の高原にふさわしい白のワンピースと麦わら帽子……ではなく、
デニムのショートパンツに黄色のタンクトップ、それに白のキャップを
被って現れたのは………
「あれっ、私だ!!子供の頃のわたしっ」
つばさは、腰を抜かしそうになりながら、視界の先にいる自分を指差した。
まさか、異次元に飛ばされた先で、子供の頃の自分を見るなんて、
シュール過ぎる。
突然、硬い感触が顔面にぶつかって、鼻を擦った。
目を開ければ、立ち止まった嵐の背中が目の前にある。
「無事に通りに出たみたいだな」
自分の背中に突っ込んだつばさを、振り返って見下ろしながら、
嵐はつばさの腕を引いて自分の前に立たせた。
「この景色に見覚えない?」
背後から聴こえる嵐の声に、つばさは辺りを見渡す。細い畦道を
抜けた先は、舗装はされていないものの、車も通れる広い通りだ。
深い緑の風景に囲まれた、どこかの山道。その道の先は2本に
分かれていて、右側の道を少し行ったところに、別荘らしき黒い屋根の
ログハウスが見える。この景色に、見覚えがあった。
「ここ……来たことある!あの建物、お父さんの会社の保養所だよ!」
つばさは愕きに声を震わせながら、手で口を覆った。
知らず、目に涙が滲んでしまったのは、恐ろしさからではない。
「これで、場所の特定もできたな」
背後にいた斗哉が、つばさの肩に手をのせた。
「でも私、ここに来たのは幼稚園の時に一度だけだよ?だから……」
斗哉を見上げてつばさがそう言った時、しっ、と嵐が唇に指をあてた。
「声が聴こえる」
嵐が唇に指をあてたまま、声がする方向に耳を傾ける。つばさも、
じっと耳を澄ました。嵐の言う通り、遠くから、風にのって微かに
子供の声が聴こえる。
「……きゃはは」
「あははっ……」
遊んでいるのだろうか?
聴こえてくる声はとても楽しそうなもので、その声は一人じゃなかった。
「ほんとだ。聴こえる」
「ああ。声がするのは、別荘の……もう少し先みたいだな」
「どうしよう?」
じっと、声のする方向を見据えている嵐に、つばさは不安そうに訊いた。
「どうする、って。行ってみるしかないだろ?」
嵐のその言葉に、斗哉も頷く。そうして、着ていたコートを脱いで額に
滲む汗を拭うと、嵐はログハウスに向かって歩き始めた。
斗哉もコートを脱いでその後に続く。「行こう」と振り返ってつばさを見た
斗哉の顔色は、冴えなかった。やはり、まだ本調子ではないようだ。
つばさは、斗哉の隣に並ぶと、気遣うように顔を覗いた。
砂利道を進んで別荘の前を通り過ぎる。と、二軒先に白い建物が見えた。
木々の緑と白のコントラストが印象的な建物だ。その建物の裏手から、
子供が一人。「あははっ」と楽しそうな声を上げて飛びだしてきた。
女の子だろうか?この声も聞き覚えがある。
目を凝らして子供の顔を見た瞬間、つばさは全身の肌が粟立った。
夏の高原にふさわしい白のワンピースと麦わら帽子……ではなく、
デニムのショートパンツに黄色のタンクトップ、それに白のキャップを
被って現れたのは………
「あれっ、私だ!!子供の頃のわたしっ」
つばさは、腰を抜かしそうになりながら、視界の先にいる自分を指差した。
まさか、異次元に飛ばされた先で、子供の頃の自分を見るなんて、
シュール過ぎる。
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