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episode4 帰れない道
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「お前が寂しそうな顔してたからさ。
変に、嫉妬でもしてるんじゃないかと思って」
わしゃわしゃ、と大きな手でつばさの頭を掻きまわす。
心の中をすっかり見透かされていたことに驚きながら、
つばさはそんなんじゃないもん、と頬を膨らませた。
「そう。じゃあ、他に何かあった?俺がいない間に」
「何って?」
乱れてしまった髪を直しながら、つばさは斗哉の顔を
見つめた。何の事を言っているのやら?さっぱりわからない。
「俺の枕元で、ずっと塞ぎ込んでただろ?目を覚ますたびに
心配で、早く聞いてやらなきゃって思ってたんだけど」
「嘘、そんな顔してた?……わたし」
自分を指差したつばさに、斗哉が苦笑いをする。
看病をしているつもりが、逆に心配をかけていたなんて……
何だか情けない。
「隠し事ができないタイプだからな。わかりやすいよ、お前は。
そういうところが、俺は安心できるんだけど。で、何があった?」
すっかりいつもの顔をして、斗哉がつばさを見つめる。
つばさは、複雑な顔で頷くと、実はね……と話を切り出した。
「帰れないんだ」
「帰れないって?」
唐突に、意味不明な単語だけを口にされて、斗哉は顔を顰めた。
「話は長くなるんだけどね……」
つばさは、初めて異次元に迷い込んでしまった日の出来事から、
順を追って話した。実は、真理と会ったあの日を境に、つばさは
何度もあの場所に迷い込んでいるのだ。バスを降りてあの裏路地を
歩き出すと、突然、目の前の風景が一変してしまう。そうして、
あの鬱蒼とした畦道と、男の子の呼ぶ声。何度あの場所を訪れても
同じことの繰り返しで、掴まれた手の痕だけが日に日に濃くなってゆく。
つばさは、足首に残る手の痕を見せながら、男の子の声を思い出した。
「ここだよ。こっち、こっち」
楽しそうに自分を呼ぶあの声を、つばさは、前にも聞いたことがある
気がするのだ。いつだっただろう?それが思い出せない。そのことを
斗哉に話すと、斗哉はいっそう、眉間のシワを深くして腕を組んだ。
「お前を呼ぶ声に聞き覚えがあるなら、俺が恵ちゃんを忘れていたように、
お前も忘れている誰かがいるんじゃないか?」
もちろん、その忘れているかもしれない誰かは、当然、この世には
いないのだろう。けれど、クラスメイトの顔を思い起こしたところで、
その声の主は見つからない。つばさの知る限り、亡くなった
クラスメイトは恵ちゃん以外に思い当たらない。
「卒業してから誰がどうなったかなんてわからないし、心当たりも
ないんだけど、ずっとこんな事が続くのかと思うと、気が重くて」
つばさは怯えるように自分の腕を抱きしめて、暗い顔をした。
「なあ。神崎にはこのこと、相談してないのか?こういう、
心霊的なことに関しては、真っ先にお前が相談したい相手だろ?」
突然、斗哉の口から嵐の名前が出て、つばさはどきりとした。
実は、嵐のところには何度か足を運んだのだ。けれど、その度に
すれ違ったり、席を外していたりで、結局会えていない。
もしかして、避けられているのではないか?と思うほどで……
いや、携帯で新年のやり取りは普通にしたし、嫌われては
いないと思うのだけど……つばさは、知らず複雑な顔をして、
ため息をついた。
「嵐にも相談しようと思ったんだけど、まだ会えてないんだ。
でもね、嵐のくれた護符のお陰で帰ってこられてる気がする」
つばさはポケットから護符を取り出して斗哉に見せた。
真っ二つに割れたその板を、今も毎日持ち歩いている。
「あ、斗哉がくれたお守りも、ちゃんと持ってるからね」
「わかってるよ、そんなこと。神崎には俺も助けてもらってるし、
あいつが頼りになるのは十分わかってるからさ」
斗哉が苦笑いをして、首を振った。
変に、嫉妬でもしてるんじゃないかと思って」
わしゃわしゃ、と大きな手でつばさの頭を掻きまわす。
心の中をすっかり見透かされていたことに驚きながら、
つばさはそんなんじゃないもん、と頬を膨らませた。
「そう。じゃあ、他に何かあった?俺がいない間に」
「何って?」
乱れてしまった髪を直しながら、つばさは斗哉の顔を
見つめた。何の事を言っているのやら?さっぱりわからない。
「俺の枕元で、ずっと塞ぎ込んでただろ?目を覚ますたびに
心配で、早く聞いてやらなきゃって思ってたんだけど」
「嘘、そんな顔してた?……わたし」
自分を指差したつばさに、斗哉が苦笑いをする。
看病をしているつもりが、逆に心配をかけていたなんて……
何だか情けない。
「隠し事ができないタイプだからな。わかりやすいよ、お前は。
そういうところが、俺は安心できるんだけど。で、何があった?」
すっかりいつもの顔をして、斗哉がつばさを見つめる。
つばさは、複雑な顔で頷くと、実はね……と話を切り出した。
「帰れないんだ」
「帰れないって?」
唐突に、意味不明な単語だけを口にされて、斗哉は顔を顰めた。
「話は長くなるんだけどね……」
つばさは、初めて異次元に迷い込んでしまった日の出来事から、
順を追って話した。実は、真理と会ったあの日を境に、つばさは
何度もあの場所に迷い込んでいるのだ。バスを降りてあの裏路地を
歩き出すと、突然、目の前の風景が一変してしまう。そうして、
あの鬱蒼とした畦道と、男の子の呼ぶ声。何度あの場所を訪れても
同じことの繰り返しで、掴まれた手の痕だけが日に日に濃くなってゆく。
つばさは、足首に残る手の痕を見せながら、男の子の声を思い出した。
「ここだよ。こっち、こっち」
楽しそうに自分を呼ぶあの声を、つばさは、前にも聞いたことがある
気がするのだ。いつだっただろう?それが思い出せない。そのことを
斗哉に話すと、斗哉はいっそう、眉間のシワを深くして腕を組んだ。
「お前を呼ぶ声に聞き覚えがあるなら、俺が恵ちゃんを忘れていたように、
お前も忘れている誰かがいるんじゃないか?」
もちろん、その忘れているかもしれない誰かは、当然、この世には
いないのだろう。けれど、クラスメイトの顔を思い起こしたところで、
その声の主は見つからない。つばさの知る限り、亡くなった
クラスメイトは恵ちゃん以外に思い当たらない。
「卒業してから誰がどうなったかなんてわからないし、心当たりも
ないんだけど、ずっとこんな事が続くのかと思うと、気が重くて」
つばさは怯えるように自分の腕を抱きしめて、暗い顔をした。
「なあ。神崎にはこのこと、相談してないのか?こういう、
心霊的なことに関しては、真っ先にお前が相談したい相手だろ?」
突然、斗哉の口から嵐の名前が出て、つばさはどきりとした。
実は、嵐のところには何度か足を運んだのだ。けれど、その度に
すれ違ったり、席を外していたりで、結局会えていない。
もしかして、避けられているのではないか?と思うほどで……
いや、携帯で新年のやり取りは普通にしたし、嫌われては
いないと思うのだけど……つばさは、知らず複雑な顔をして、
ため息をついた。
「嵐にも相談しようと思ったんだけど、まだ会えてないんだ。
でもね、嵐のくれた護符のお陰で帰ってこられてる気がする」
つばさはポケットから護符を取り出して斗哉に見せた。
真っ二つに割れたその板を、今も毎日持ち歩いている。
「あ、斗哉がくれたお守りも、ちゃんと持ってるからね」
「わかってるよ、そんなこと。神崎には俺も助けてもらってるし、
あいつが頼りになるのは十分わかってるからさ」
斗哉が苦笑いをして、首を振った。
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