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episode3 転入生 神崎 嵐
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「ごめん、お腹鳴っちゃった」
「いいよ。さっそく、乾杯しよう」
メリークリスマス、と軽く2人でグラスを合わせて、斗哉が
ストレートティーに口をつける。そして、これがシャンパン
だったらな、と呟きながらつばさにフォークを差し出した。
「いただきます」
つばさは、フォークを受け取ると、ぱくぱく食べ始めた。
そしてすぐに、美味しい!と感嘆の声を漏らした。
口の中にトマトの甘酸っぱい風味が広がって、ついさっきまでの
緊張を忘れてしまう。結局のところ、つばさは花より団子
なのだ。煌やかな風景よりも、美味しいご飯の方が嬉しい。
「良かった。メインのパスタも、つばさの好きなトマト風味で
頼んであるから。つばさはクリーム系よりトマト派だもんな」
何もかも、つばさの好みを知り尽くしている斗哉ならではの
セレクトに、つばさは満面の笑みで頷く。
そうして、あっという間に皿の上を空っぽにすると、まだ、
ひと口も食べていない斗哉の皿を見て、瞬きをした。
「あれ、斗哉。食べないの?」
「食べるよ。でも、その前に……これ、プレゼント」
斗哉が小さな紙袋をつばさに渡す。さっき、斗哉がもう片方の
手に持っていた赤い紙袋だ。
「ありがとう。開けてもいい?」
つばさは、少し躊躇いがちに受け取ると、紙袋の中を覗いて
上目遣いに聞いた。
「もちろん。気に入るといいんだけど」
斗哉は少し身を乗り出して、リボンを解くつばさを見守った。
長細く白いケースのリボンを解いて蓋を開けると、中には
淡いブルーの宝石をあしらったネックレスが入っていた。
「すごい、可愛い!」
つばさは、ネックレスを手に取って眺めた。泪の滴のような
シルエットの中に光っている石は、サファイアだろうか?
つばさの誕生日は9月だから、きっとそうだ。
「ありがと。でもなんか、こういうの貰うと、女の子って感じだね」
果たして、こんな乙女なアイテムが自分に似合うのだろうか?
そんなことを思いながらへへっ、と笑う。けれど斗哉は、小さく
首を振って言った。
「プレゼントがネックレスじゃなくても、つばさは女の子だし、
今日だってすごく可愛いよ」
「!!!」
つばさは、思わず、口に運びかけていたグラスを、つるりと
落としそうになった。もし、ジンジャーエールを口に含んでいたなら、
思い切り斗哉に吹き出していただろう。危なかった。
つばさは、飲み損ねたジンジャーエールをテーブルに戻すと、
ひらひらと顔の前で手を振った。
「ちょっとやだ、斗哉ってば。その紅茶、お酒でも入ってるの?」
「入ってないよ。本当は一杯飲みたいくらいだけど」
冗談交じりに言ったつばさの言葉にも、真顔で返してストレート
ティーを一気に喉に流し込む。グラスの中が空っぽになり、
少し乱雑に置かれたせいで、からからと氷が回った。
「ごめん。ちょっと緊張してる」
もしかして怒っているのだろうか?と一瞬、不安になったつばさに
そう言うと、斗哉は視線を窓の外に移してガラス越しにつばさを見た。
光の中で視線が絡み合えば、照れたように目を逸らして下を向く。
つばさは、そんな斗哉の横顔がなんだか嬉しかった。斗哉も自分と
同じように緊張していたのだと思うと、ほっとする。涼しい顔をして
自分の手を引いて歩く斗哉に、寂しさも感じていたのだ。
きっと、こういうことに慣れているんだろうと……勝手に思っていた。
「いいよ。さっそく、乾杯しよう」
メリークリスマス、と軽く2人でグラスを合わせて、斗哉が
ストレートティーに口をつける。そして、これがシャンパン
だったらな、と呟きながらつばさにフォークを差し出した。
「いただきます」
つばさは、フォークを受け取ると、ぱくぱく食べ始めた。
そしてすぐに、美味しい!と感嘆の声を漏らした。
口の中にトマトの甘酸っぱい風味が広がって、ついさっきまでの
緊張を忘れてしまう。結局のところ、つばさは花より団子
なのだ。煌やかな風景よりも、美味しいご飯の方が嬉しい。
「良かった。メインのパスタも、つばさの好きなトマト風味で
頼んであるから。つばさはクリーム系よりトマト派だもんな」
何もかも、つばさの好みを知り尽くしている斗哉ならではの
セレクトに、つばさは満面の笑みで頷く。
そうして、あっという間に皿の上を空っぽにすると、まだ、
ひと口も食べていない斗哉の皿を見て、瞬きをした。
「あれ、斗哉。食べないの?」
「食べるよ。でも、その前に……これ、プレゼント」
斗哉が小さな紙袋をつばさに渡す。さっき、斗哉がもう片方の
手に持っていた赤い紙袋だ。
「ありがとう。開けてもいい?」
つばさは、少し躊躇いがちに受け取ると、紙袋の中を覗いて
上目遣いに聞いた。
「もちろん。気に入るといいんだけど」
斗哉は少し身を乗り出して、リボンを解くつばさを見守った。
長細く白いケースのリボンを解いて蓋を開けると、中には
淡いブルーの宝石をあしらったネックレスが入っていた。
「すごい、可愛い!」
つばさは、ネックレスを手に取って眺めた。泪の滴のような
シルエットの中に光っている石は、サファイアだろうか?
つばさの誕生日は9月だから、きっとそうだ。
「ありがと。でもなんか、こういうの貰うと、女の子って感じだね」
果たして、こんな乙女なアイテムが自分に似合うのだろうか?
そんなことを思いながらへへっ、と笑う。けれど斗哉は、小さく
首を振って言った。
「プレゼントがネックレスじゃなくても、つばさは女の子だし、
今日だってすごく可愛いよ」
「!!!」
つばさは、思わず、口に運びかけていたグラスを、つるりと
落としそうになった。もし、ジンジャーエールを口に含んでいたなら、
思い切り斗哉に吹き出していただろう。危なかった。
つばさは、飲み損ねたジンジャーエールをテーブルに戻すと、
ひらひらと顔の前で手を振った。
「ちょっとやだ、斗哉ってば。その紅茶、お酒でも入ってるの?」
「入ってないよ。本当は一杯飲みたいくらいだけど」
冗談交じりに言ったつばさの言葉にも、真顔で返してストレート
ティーを一気に喉に流し込む。グラスの中が空っぽになり、
少し乱雑に置かれたせいで、からからと氷が回った。
「ごめん。ちょっと緊張してる」
もしかして怒っているのだろうか?と一瞬、不安になったつばさに
そう言うと、斗哉は視線を窓の外に移してガラス越しにつばさを見た。
光の中で視線が絡み合えば、照れたように目を逸らして下を向く。
つばさは、そんな斗哉の横顔がなんだか嬉しかった。斗哉も自分と
同じように緊張していたのだと思うと、ほっとする。涼しい顔をして
自分の手を引いて歩く斗哉に、寂しさも感じていたのだ。
きっと、こういうことに慣れているんだろうと……勝手に思っていた。
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