彼にはみえない

橘 弥久莉

文字の大きさ
70 / 173
episode3 転入生  神崎 嵐

70

しおりを挟む
「最高のクリスマスになるといいね」

淡いヌードピンクの口紅をつばさの唇に引きながら、月子が

笑みを深める。うん、と頷いたつばさは、次の瞬間には、あっ、

と声を漏らしていた。

「斗哉のクリスマスプレゼント、買ってなかった」

姉に顎を固定されたまま、目線だけで部屋の時計を見る。

時刻は夕方をとうに過ぎていて、買いに行く時間はとてもなかった。

「いいんじゃない、別に。ここにプレゼントあるし」

「へっ?ないよ?どこにも」

月子の言っている意味がわからず首を傾げたつばさに、

月子が人差し指を唇にあてて言った。

「大事な妹を、斗哉にプレゼント♡」




「お邪魔しまーす」

斗哉の母親に見つからないよう、インターホンを押してすぐ、

そそくさと階段を上がったつばさは、滑り込むように斗哉の

部屋に入った。ほう、と息をついてベッドに腰掛け、部屋を

見渡す。いつもと変わらない斗哉の部屋にいるのに、なぜだか

どきどきと心臓が騒いで息苦しい。

つばさは、寝ころんで漫画を読むわけにもいかず、ショート

パンツの中でごわごわするパンツを気にしながら、携帯の

ゲームで遊び始めた。が、始めてまもなく斗哉が帰ってきた。


「ごめん、遅くなった!」

駅から走ってきたのだろうか?

息を切らしながら部屋に飛び込んできた斗哉は、つばさを見るなり、

ドアノブを握りしめたまま、立ち尽くしてしまった。

大きく目を見開いたままの斗哉に、つばさがぎこちなく笑う。

「おかえり。私も、いま来たとこなんだ」

じっと、見つめられるのが恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。

そんなつばさに、斗哉は息をひとつ吐いて、目を細めた。

「びっくりした。いつもと雰囲気が違うから」

「ああ、これ?斗哉と出掛けるって言ったら、

お姉ちゃんがいろいろやってくれてさ。へん、かな?」

へへ、と視線を逸らしたまま照れ笑いをしたつばさに、

斗哉が首を振った。

「可愛いよ。すごく、似合ってる」

「かっ…か?」

初めて聞くような甘い声で、初めてそんなことを言われて、

つばさは思わず口をぱくぱくしてしまった。なのに、言った

本人は涼しい顔をして、いつものように、つばさの目の前で

服を着替えだしたのだからたまらない。つばさは、見慣れて

いるはずの斗哉の裸を直視できずに俯くと、衣擦れの音に

耳を澄ませながら、足の指先を見つめていた。

「お待たせ。行こう」

頭の上で斗哉の声がして、つばさは顔を上げた。

あっという間に支度を終えた斗哉も、今日はいつもと雰囲気が

違う。モノトーン系の服に黒のチェスターコートを羽織った姿は、

前髪を上げているせいか、いつもより大人びて見えた。

つばさは、ぎこちなく頷いて、差し伸べられた斗哉の手を握った。

斗哉に手を引かれて立ち上がる。顔が近づけば、唇に薄く

引かれた口紅を見られているようで、気恥ずかしい。

つばさは、言葉少なに、けれど、嬉しそうにつばさの手を引いて

先を行く斗哉の背中を、戸惑いながら見つめていた。



クリスマスで賑わう街中を、斗哉と歩くのは初めてじゃなかった。

つばさのゲームを選びに行くという約束をして、2人でクリスマス

の街に繰り出したのは、数年前だ。けれど、あの時はまだ、

斗哉はつばさより背が低かったし、つばさはつばさで、男の子

に間違えられることの方が多かったし、傍から見た2人の姿は、

いいところ仲良しの友達か、兄弟だった。



けれど、今日は違う。

つばさの肘から下は、斗哉がしっかり手を絡めて繋いでいる。

寄り添って歩く2人の姿は、たぶん、誰が見ても恋人同士だ。

つばさは、絶えず伝わってくる斗哉の体温に緊張しながら、

隣りを歩く斗哉を見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

社畜女の愛され白書〜三十路の社畜OLは出会った翌日に八才年下男子と結婚しました〜

七転び八起き
恋愛
社畜として働く女、川崎七海(なみ)は居酒屋でイケメン大学生店員、林勇凛(ゆうり)と出会う。 彼は私と恋がしたいと言った。 恋なんてしてる余裕はない七海。 ──なのに その翌日、私たちは夫婦になっていた。 交際0日婚から始まるラブストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...