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episode3 転入生 神崎 嵐
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「あ、俺からもつばさに渡したいものがあるんだ」
嵐が思い出したように、がさごそと鞄の内ポケットをまさぐった。
「え、なになに?お守りとか?」
「それはこの間渡したじゃん」
的外れなことを言って、嵐の顔を覗き込んだつばさに、嵐が笑う。
つばさも、そっか、と舌を出した。
「これ。俺の連絡先」
嵐が取り出したのは、小さなリング式のメモ帳だった。
表紙をめくると、すでに携帯番号やメルアドが記してあり、
ぺりり、と破いてつばさに渡す。
「そう言えば、まだ交換してなかったね。連絡先」
つばさは嵐がくれたメモを見ながら、鞄から携帯を取り出した。
しかし、いつの間にか充電が切れてしまったようで、
電源を入れても画面は真っ暗だ。
「ごめん、充電切れちゃったみたい。帰ったら連絡する」
「ああ。冬休みの間、俺は本家の方に行ってるけど、
いつでも連絡して構わないからさ」
本家という言葉を聞いて、つばさは門田刑事が言っていた
ことを思い出した。
「そういえば、嵐ってお寺の息子さんなんだね。門田刑事から
聞いてびっくりした」
つばさは、法衣に身を包んだ嵐の姿を想像した。イケメンは、
どんな格好をしてもイケメンだけど、いずれは、風になびく艶や
かな黒髪も坊主頭にしてしまうのだろうか?
坊主頭の嵐は………何となく想像したくない。
「寺の住職を務めてるのは、俺の伯父さんなんだけどな。
でも、霊媒家業の方は俺が継がなきゃならないから……
いずれは寺に入ることになるよ」
寺に入る、ということは養子に入る、という意味だろうか?
なんだか、少し複雑な感じがする。
「じゃあ嵐は、将来、お坊さんになるんだね。
髪も切って、坊主頭にしちゃうの?」
つばさは、興味津々といった顔で嵐を見上げた。
「髪は切らないよ。もう少し、短くカットするかもしれないけど。
ってゆーか、いま、俺の坊主頭、想像してただろ?」
「えっ、してない、してない。坊主頭の嵐なんて、
想像したくないもん!」
グーで頭を小突く真似をした嵐から、あはは、と笑い声をあげて、
つばさが逃げる。何だか、こうしていると、ずっと前から友達で
いたような、そんな不思議な感じだ。
少し先を行ったつばさに、嵐が大股で追いついた。
風に透き通るような師走の空を見上げて、息を吐く。
「今度会う時は、来年だな」
「うん。来年だね」
「2週間か……風邪引くなよ」
「うん。嵐もね」
つばさは笑顔のままで、そう返すと、じゃあまた、と手を振って、
バス通りの道を歩き始めた。
家に帰ると、つばさはバタバタと階段を上がってベッドに荷物を
放り出した。明日から冬休みで、今日は、クリスマス・イブだ。
斗哉からは、部屋で待っていろと言われただけだが、まさか、
いつものように制服姿で、漫画を読みながら待ってるわけには
いかない。つばさは、クローゼットやタンスの中身を引っ張り
出して、着ていけそうな服を探した。が、1枚もない。
着古したセーターやアイロンがけされていない、ヨレヨレの
シャツ、中学の時に買ったデニムのスカートは、ウエストも
丈も足りな過ぎてとても着ていけるようなものじゃなかった。
つばさは、ベッドの上に並べてみたそれらを見て腕を組むと、
少し悩んでため息をついた。やっぱり、月子に相談しよう。
つばさは、引っ張り出した服をそのままに部屋を出ると、
隣りの姉の部屋のドアを叩いた。
嵐が思い出したように、がさごそと鞄の内ポケットをまさぐった。
「え、なになに?お守りとか?」
「それはこの間渡したじゃん」
的外れなことを言って、嵐の顔を覗き込んだつばさに、嵐が笑う。
つばさも、そっか、と舌を出した。
「これ。俺の連絡先」
嵐が取り出したのは、小さなリング式のメモ帳だった。
表紙をめくると、すでに携帯番号やメルアドが記してあり、
ぺりり、と破いてつばさに渡す。
「そう言えば、まだ交換してなかったね。連絡先」
つばさは嵐がくれたメモを見ながら、鞄から携帯を取り出した。
しかし、いつの間にか充電が切れてしまったようで、
電源を入れても画面は真っ暗だ。
「ごめん、充電切れちゃったみたい。帰ったら連絡する」
「ああ。冬休みの間、俺は本家の方に行ってるけど、
いつでも連絡して構わないからさ」
本家という言葉を聞いて、つばさは門田刑事が言っていた
ことを思い出した。
「そういえば、嵐ってお寺の息子さんなんだね。門田刑事から
聞いてびっくりした」
つばさは、法衣に身を包んだ嵐の姿を想像した。イケメンは、
どんな格好をしてもイケメンだけど、いずれは、風になびく艶や
かな黒髪も坊主頭にしてしまうのだろうか?
坊主頭の嵐は………何となく想像したくない。
「寺の住職を務めてるのは、俺の伯父さんなんだけどな。
でも、霊媒家業の方は俺が継がなきゃならないから……
いずれは寺に入ることになるよ」
寺に入る、ということは養子に入る、という意味だろうか?
なんだか、少し複雑な感じがする。
「じゃあ嵐は、将来、お坊さんになるんだね。
髪も切って、坊主頭にしちゃうの?」
つばさは、興味津々といった顔で嵐を見上げた。
「髪は切らないよ。もう少し、短くカットするかもしれないけど。
ってゆーか、いま、俺の坊主頭、想像してただろ?」
「えっ、してない、してない。坊主頭の嵐なんて、
想像したくないもん!」
グーで頭を小突く真似をした嵐から、あはは、と笑い声をあげて、
つばさが逃げる。何だか、こうしていると、ずっと前から友達で
いたような、そんな不思議な感じだ。
少し先を行ったつばさに、嵐が大股で追いついた。
風に透き通るような師走の空を見上げて、息を吐く。
「今度会う時は、来年だな」
「うん。来年だね」
「2週間か……風邪引くなよ」
「うん。嵐もね」
つばさは笑顔のままで、そう返すと、じゃあまた、と手を振って、
バス通りの道を歩き始めた。
家に帰ると、つばさはバタバタと階段を上がってベッドに荷物を
放り出した。明日から冬休みで、今日は、クリスマス・イブだ。
斗哉からは、部屋で待っていろと言われただけだが、まさか、
いつものように制服姿で、漫画を読みながら待ってるわけには
いかない。つばさは、クローゼットやタンスの中身を引っ張り
出して、着ていけそうな服を探した。が、1枚もない。
着古したセーターやアイロンがけされていない、ヨレヨレの
シャツ、中学の時に買ったデニムのスカートは、ウエストも
丈も足りな過ぎてとても着ていけるようなものじゃなかった。
つばさは、ベッドの上に並べてみたそれらを見て腕を組むと、
少し悩んでため息をついた。やっぱり、月子に相談しよう。
つばさは、引っ張り出した服をそのままに部屋を出ると、
隣りの姉の部屋のドアを叩いた。
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