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episode2 おかしな三角関係
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「……つばさ?」
涼介が消えて、どれくらいたったろう?
聴き慣れた声がして顔を上げると、斗哉がコンビニの
ビニール袋をぶら下げて、つばさの前にいた。
「……斗哉」
涙に擦れた声で、名前を呼ぶ。斗哉の顔をみた途端、
辛うじて堪えていた涙が、ぶわっ、と溢れてしまった。
その涙を見て、一瞬、ぎょっとした斗哉は、それでも
すべてを察したように、つばさの頭を抱く。つばさは、
斗哉のコートで顔を隠すように握りしめると、うえっ、えっ、
と嗚咽を漏らして泣き出した。
「逝ったのか。あいつ……」
つばさの涙の理由を、しんみりと口にしながら、斗哉が
つばさの頭を撫でる。つばさは、その言葉に頷きながら、
嗚咽を漏らしながら、斗哉のコートで溢れる涙を拭った。
「落ち着いたか?」
つばさの隣に座った斗哉が、顔を覗き込んだ。
「ん」
斗哉が貸してくれたハンカチで頬を拭いながら、つばさが頷く。
その顔を見て斗哉が、ぷっ、と吹き出した。
つばさの鼻から、たらーん、と鼻水が垂れている。
「ほら。鼻」
くつくつ、と笑いながら、斗哉はつばさにティッシュを渡した。
つばさが、チーーンっと、豪快に鼻をかむ。その横顔を
見ながら、斗哉は肩を竦めた。
「これじゃ、俺が泣かせてるみたいだな。
誰もいないからいいけど」
「ごめん」
つばさは、丸めたティッシュを握りしめて、口を尖らせた。
何だか、最近はこんな事ばかりだ。斗哉の前で泣いて、
斗哉のハンカチで顔を拭ってもらうのは、何度目だろう?
すん、と鼻をすすって空を見あげたつばさに、斗哉は
首を振った。
「でも、遠くまで足を運んだ甲斐があったな。
涼介ってヤツの顔も見れたし、加奈子さんの話も聞けたし、
ちゃんと成仏してくれたし、来て良かったよ。本当に」
つばさと同じように、斗哉も空を見あげる。白い雲の向こうで、
涼介が笑っている気がして、そうだね、とつばさは呟いた。
突然、そうだ、と思い出したように斗哉が鞄から何かを
取り出した。ほら、と目の前に差し出されたそれを見れば、
色違いのお守りが二つ。斗哉の手の平に並んでいる。
「可愛い。どうしたの?これ」
つばさは、そのうちの片方を手に取って眺めた。
和紙で折られた女の子の人形が、クリアビニールに
収められていて、その横には「身体安全・身代わり守」の
文字がある。斗哉のは、同じように着物を着た男の子だ。
「自由散策で、土産屋を見て回ってる時に、買ったんだ。
こんなの、ただの気休めかもしれないけど……俺が側に
いても役に立たないなら、せめてこれがつばさを護って
くれればと、思ってさ。澄子さんのお守りも、もうないだろう?」
つばさは目を見開いて斗哉を見た。自由散策で土産屋を
見て回っている時と言えば、斗哉が自分に怒っていた時だ。
あんな風に、怒っている時でさえ、斗哉は自分のことを考えて、
このお守りを選んでいてくれたのだろうか?自分はただ、
悪霊に怯えて、斗哉を傷付けることしか出来なかったのに……
つばさは、手にしたお守りを胸に握りしめると、首を振った。
「斗哉が役に立たないとか、そんなこと、一度も思ったこと
ないよ!そもそも、幽霊とか、見えないのが当たり前なんだし、
斗哉が私の言ってることを信じて、いつも側にいてくれる
だけで、どれだけ救われてるか、わからないよ!」
斗哉の瞳に映り込む自分を見ながら、つばさは言った。
涼介が消えて、どれくらいたったろう?
聴き慣れた声がして顔を上げると、斗哉がコンビニの
ビニール袋をぶら下げて、つばさの前にいた。
「……斗哉」
涙に擦れた声で、名前を呼ぶ。斗哉の顔をみた途端、
辛うじて堪えていた涙が、ぶわっ、と溢れてしまった。
その涙を見て、一瞬、ぎょっとした斗哉は、それでも
すべてを察したように、つばさの頭を抱く。つばさは、
斗哉のコートで顔を隠すように握りしめると、うえっ、えっ、
と嗚咽を漏らして泣き出した。
「逝ったのか。あいつ……」
つばさの涙の理由を、しんみりと口にしながら、斗哉が
つばさの頭を撫でる。つばさは、その言葉に頷きながら、
嗚咽を漏らしながら、斗哉のコートで溢れる涙を拭った。
「落ち着いたか?」
つばさの隣に座った斗哉が、顔を覗き込んだ。
「ん」
斗哉が貸してくれたハンカチで頬を拭いながら、つばさが頷く。
その顔を見て斗哉が、ぷっ、と吹き出した。
つばさの鼻から、たらーん、と鼻水が垂れている。
「ほら。鼻」
くつくつ、と笑いながら、斗哉はつばさにティッシュを渡した。
つばさが、チーーンっと、豪快に鼻をかむ。その横顔を
見ながら、斗哉は肩を竦めた。
「これじゃ、俺が泣かせてるみたいだな。
誰もいないからいいけど」
「ごめん」
つばさは、丸めたティッシュを握りしめて、口を尖らせた。
何だか、最近はこんな事ばかりだ。斗哉の前で泣いて、
斗哉のハンカチで顔を拭ってもらうのは、何度目だろう?
すん、と鼻をすすって空を見あげたつばさに、斗哉は
首を振った。
「でも、遠くまで足を運んだ甲斐があったな。
涼介ってヤツの顔も見れたし、加奈子さんの話も聞けたし、
ちゃんと成仏してくれたし、来て良かったよ。本当に」
つばさと同じように、斗哉も空を見あげる。白い雲の向こうで、
涼介が笑っている気がして、そうだね、とつばさは呟いた。
突然、そうだ、と思い出したように斗哉が鞄から何かを
取り出した。ほら、と目の前に差し出されたそれを見れば、
色違いのお守りが二つ。斗哉の手の平に並んでいる。
「可愛い。どうしたの?これ」
つばさは、そのうちの片方を手に取って眺めた。
和紙で折られた女の子の人形が、クリアビニールに
収められていて、その横には「身体安全・身代わり守」の
文字がある。斗哉のは、同じように着物を着た男の子だ。
「自由散策で、土産屋を見て回ってる時に、買ったんだ。
こんなの、ただの気休めかもしれないけど……俺が側に
いても役に立たないなら、せめてこれがつばさを護って
くれればと、思ってさ。澄子さんのお守りも、もうないだろう?」
つばさは目を見開いて斗哉を見た。自由散策で土産屋を
見て回っている時と言えば、斗哉が自分に怒っていた時だ。
あんな風に、怒っている時でさえ、斗哉は自分のことを考えて、
このお守りを選んでいてくれたのだろうか?自分はただ、
悪霊に怯えて、斗哉を傷付けることしか出来なかったのに……
つばさは、手にしたお守りを胸に握りしめると、首を振った。
「斗哉が役に立たないとか、そんなこと、一度も思ったこと
ないよ!そもそも、幽霊とか、見えないのが当たり前なんだし、
斗哉が私の言ってることを信じて、いつも側にいてくれる
だけで、どれだけ救われてるか、わからないよ!」
斗哉の瞳に映り込む自分を見ながら、つばさは言った。
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