彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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「加奈子さんの話を聞くだけじゃ、涼介が成仏できない理由、

わかりそうもないね」

「まあ、彼女の夢枕に立つくらいだから…未練があるような

感じではないな」

ふむ、と眉を顰めて、斗哉が天井を見上げる。

「じゃあ、何でだろう?」

つばさは腕を組んで、首を傾げた。さあ、と斗哉も首を

傾げる。結局のところは、涼介本人から聞くしかなさそうだ。

何のために、わざわざここまで来たのか?

ため息が出てしまう。

「これ、ずいぶん前のですけど」

そう言って、二階から戻ってきた加奈子が写真を差し出した。

「ありがとうございます」

斗哉が手に取って、見る。つばさは、隣からその写真を

覗き込んで、どきりとした。夢で見た二人が、そこにいた。


大きな木の下で、涼介に寄り添う加奈子の髪は、つばさと

同じショートヘアだ。二人とも、少年少女の面影を残していて、

幸せそうに目を細めるその写真からは、今にも笑い声が

聴こえてきそうだ。つばさは、夢の中で聴こえたその声を

思い出して、苦しくなる胸を押さえた。

「優しそうな、男性ですね」

写真を見て、斗哉が言った。

「はい」

加奈子が、嬉しそうに微笑む。ここにきて、彼女の笑顔を

見たのは初めてだった。


「高校の頃から、付き合ってたんです。この写真は、

彼が亡くなる一年前、大学の時のもので……ちょうど、

この頃だったかな。アルバイトで貯めたお金で、涼介が

バイクを買ったのも……」

淋しそうに、加奈子が目を細める。どうも、と、斗哉が

写真を返すと、それを受け取って、そっと、涼介の顔を

指でなぞった。

「あの」

加奈子が思い詰めた顔をして、つばさを見た。

「涼介は、いま、どこにいるんですか?もしかして、

私に見えないだけで、いまもこの部屋にいるんですか?」

つばさは、じっと加奈子を見つめると、ゆっくり首を振った。

「ごめんなさい。ここに来るまでは、一緒にいたんですけど」

嘘をつけば、良かったかもしれない。涼介がここに、いても、

いなくても、加奈子にはどうせわからないのだ。側にいる、

と、言ってもらえた方が嬉しいに決まっている。それでも、

つばさは嘘をつけなかった。見えないからこそ、本当の

ことを伝えなければならない。それが、自分の役目だと

思うのだ。

「そう、ですか。どこ行っちゃったのかしら?涼介って、

いつも肝心な時にいないんです。本当に、困った人」

加奈子が悲し気に笑う。そうして、小さく息をつくと、笑みを

深めてつばさに言った。


「あの、涼介に会ったら、伝えてもらえますか?

今までずっと、私たちを見守ってくれてありがとう。でも、

もう大丈夫だから、ちゃんと天国に行って欲しい、って。

涼介がちゃんと天国で待っててくれないと、いつか向こうで

会うことも、叶わなくなっちゃうでしょう?それはとても、

悲しいから。だから、お願いします……」

さらりと、真っ直ぐな髪を垂らして、加奈子が頭をさげる。

つばさは「はい、必ず」と頷いて、にこりと加奈子に笑った。



まだ、陽の高い空の下。

つばさはひとり、公園のベンチに座っていた。帰る時になっても、

ついに涼介は姿を現さなかった。仕方なく、バス停まで戻る

道すがら、喉が渇いたとつばさがボヤくと、斗哉は「そこで待って

ろ」と公園を指差して、飲み物を買いに行ってくれた。

公園の中は、つばさの他に誰もいない。すぐ目の前の道路を、

時折人が通り過ぎる以外は、とても静かだった。

つばさは、誰もいない空間に向かって、ひとり話しかけた。

「ねぇ。出てきてよ。いるんでしょ?」

すると、誰もいない筈の空間から声が返って来る。

「あーあ。やっぱ、来るんじゃなかった。すげー、恥ずかしい」

つばさは、その声がする方へ顔を向けた。

照れくさそうな顔をして、涼介がつばさの隣に座っている。

つばさは、その姿を見てホッとすると、口を尖らせて言った。
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