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episode2 おかしな三角関係
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くねくねと、入り組んだ廊下を大股で歩くつばさの顔を、
涼介が口を尖らせて見る。よく見れば、斗哉ほどではないが、
整った顔立ちが間近で悲しそうに歪んで、つばさは、
ぴたりと立ち止まった。周囲を確認してから涼介を向く。
「とにかく、もうついて来ないで!こうやってあんたと
喋ってるだけでも、傍から見たら、危ない独り言なの!
旅行くらい、ゆっくり楽しませて!!」
ピシっ、と涼介の鼻先に人差し指を突きつけて、
ぷいっ、と顔を背けると、つばさは女湯の暖簾をくぐった。
「男の霊か。大丈夫なのか?つばさ」
何とか無事に入浴を終え、クラス委員と班長ミーティング
を終えたつばさは、並んで歩く斗哉に涼介の話をした。
「うーん、別に嫌な感じはしないから。害はないと
思うんだよね、たぶん」
つばさは、周囲に聴こえないように気を付けながら、
斗哉に言った。
「それよりも、部屋の方が最悪かな。
あの部屋にいると、首も背中も痛くて……」
つばさは、コキコキと首を鳴らしながら、肩を押さえた。
「澄子さんのお守りは効かないのか?
ちゃんと、身に付けてるんだろう?」
「あ、それなんだけどさー」
心配そうにつばさを見つめる斗哉に、つばさは
ポケットから取り出した塵尻の護符を見せた。
斗哉がぎょっ、とする。
「いつの間にか、こんなになってたんだよね。
どういうことかな?」
「どういうこと?って、聞かれてもな。俺にもわから
ないけど、もしかしたら、その護符がお前の身代わりに
なってくれたのかもしれないな。澄子さんの霊力が
盾になってくれたんじゃないか?」
塵尻になった紙きれをひとつ摘まんで、
斗哉はさらに、心配そうに眉を顰めた。
「お前、このまま部屋に戻って大丈夫なのか?
護符だって、これじゃ役に立つかわかんないだろう?
涼介って男の霊も気になるし……」
「そう言われちゃうと、大丈夫とは言えないけど」
どうにも、打開策がない事を斗哉に訊かれて、
つばさは唸るしかなかった。本心は逃げ出したくても、
こんな時間じゃ帰りの電車だってない。
「まあ、涼介はさっき追い返したし、皆いるし、
何とかなるよ。たぶん」
ちょうど廊下の分岐点に差し掛かって、
つばさは立ち止まった。
「じゃあ、また明日」
尚も心配そうな顔をして頷く斗哉に、ひら、と
手を振ると、つばさは細い廊下を走り始めた。
「ごめん、遅くなっちゃった!いま、お布団敷くね」
カラカラと部屋の戸を開けると、クラスメイト達は
日誌を書いたり、歯磨きをしたり、各々自分の
用事を済ませていた。日誌をつけていた真理が、
つばさの側に来る。
「お疲れさま。私も手伝うよ」
「さんきゅ~、真理」
まさか、押入れに顔がいっぱい浮いているから、
襖を開けたくない、とは言えない。つばさは、
ものすごーーく重い気持ちで、襖を開けた。
「…………あれ?」
戦慄の光景を覚悟していたのに、目の前に
現れたのは、ただの積み重なった布団だ。
つばさは、瞬きをしながら、もう一度襖を閉めて、
開けた。ない。ひとつも、生首が浮いていない。
「ちょっと、何やってんのよ?」
ポカンと口を開けているつばさに、真理が怪訝な
顔をして隣から手を伸ばした。
「ほら、私が引っ張り出すから。皆運んで」
いつの間にか、周りに集まっていたクラスメイトを
振り返って、真理が次々に布団を出す。
「はい、つばさ」
「う、うん」
つばさは、真理に急かされるまま、布団を部屋に
敷き詰めた。荷物やテーブルを部屋の端に寄せて、
窓側の壁までびっしり、8人分の布団が並ぶ。
「私、真ん中がいいな」
「私は夜中にトイレ行くから、通路側でいいや」
次々に自分の寝場所を決めて布団に寝転がる
クラスメイトを、つばさはぼんやり眺めた。
その時だった。
涼介が口を尖らせて見る。よく見れば、斗哉ほどではないが、
整った顔立ちが間近で悲しそうに歪んで、つばさは、
ぴたりと立ち止まった。周囲を確認してから涼介を向く。
「とにかく、もうついて来ないで!こうやってあんたと
喋ってるだけでも、傍から見たら、危ない独り言なの!
旅行くらい、ゆっくり楽しませて!!」
ピシっ、と涼介の鼻先に人差し指を突きつけて、
ぷいっ、と顔を背けると、つばさは女湯の暖簾をくぐった。
「男の霊か。大丈夫なのか?つばさ」
何とか無事に入浴を終え、クラス委員と班長ミーティング
を終えたつばさは、並んで歩く斗哉に涼介の話をした。
「うーん、別に嫌な感じはしないから。害はないと
思うんだよね、たぶん」
つばさは、周囲に聴こえないように気を付けながら、
斗哉に言った。
「それよりも、部屋の方が最悪かな。
あの部屋にいると、首も背中も痛くて……」
つばさは、コキコキと首を鳴らしながら、肩を押さえた。
「澄子さんのお守りは効かないのか?
ちゃんと、身に付けてるんだろう?」
「あ、それなんだけどさー」
心配そうにつばさを見つめる斗哉に、つばさは
ポケットから取り出した塵尻の護符を見せた。
斗哉がぎょっ、とする。
「いつの間にか、こんなになってたんだよね。
どういうことかな?」
「どういうこと?って、聞かれてもな。俺にもわから
ないけど、もしかしたら、その護符がお前の身代わりに
なってくれたのかもしれないな。澄子さんの霊力が
盾になってくれたんじゃないか?」
塵尻になった紙きれをひとつ摘まんで、
斗哉はさらに、心配そうに眉を顰めた。
「お前、このまま部屋に戻って大丈夫なのか?
護符だって、これじゃ役に立つかわかんないだろう?
涼介って男の霊も気になるし……」
「そう言われちゃうと、大丈夫とは言えないけど」
どうにも、打開策がない事を斗哉に訊かれて、
つばさは唸るしかなかった。本心は逃げ出したくても、
こんな時間じゃ帰りの電車だってない。
「まあ、涼介はさっき追い返したし、皆いるし、
何とかなるよ。たぶん」
ちょうど廊下の分岐点に差し掛かって、
つばさは立ち止まった。
「じゃあ、また明日」
尚も心配そうな顔をして頷く斗哉に、ひら、と
手を振ると、つばさは細い廊下を走り始めた。
「ごめん、遅くなっちゃった!いま、お布団敷くね」
カラカラと部屋の戸を開けると、クラスメイト達は
日誌を書いたり、歯磨きをしたり、各々自分の
用事を済ませていた。日誌をつけていた真理が、
つばさの側に来る。
「お疲れさま。私も手伝うよ」
「さんきゅ~、真理」
まさか、押入れに顔がいっぱい浮いているから、
襖を開けたくない、とは言えない。つばさは、
ものすごーーく重い気持ちで、襖を開けた。
「…………あれ?」
戦慄の光景を覚悟していたのに、目の前に
現れたのは、ただの積み重なった布団だ。
つばさは、瞬きをしながら、もう一度襖を閉めて、
開けた。ない。ひとつも、生首が浮いていない。
「ちょっと、何やってんのよ?」
ポカンと口を開けているつばさに、真理が怪訝な
顔をして隣から手を伸ばした。
「ほら、私が引っ張り出すから。皆運んで」
いつの間にか、周りに集まっていたクラスメイトを
振り返って、真理が次々に布団を出す。
「はい、つばさ」
「う、うん」
つばさは、真理に急かされるまま、布団を部屋に
敷き詰めた。荷物やテーブルを部屋の端に寄せて、
窓側の壁までびっしり、8人分の布団が並ぶ。
「私、真ん中がいいな」
「私は夜中にトイレ行くから、通路側でいいや」
次々に自分の寝場所を決めて布団に寝転がる
クラスメイトを、つばさはぼんやり眺めた。
その時だった。
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