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【真実の輪郭】
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「では、そろそろ本題に入りましょう。先ほど、
弓月さんが意識を失って倒れた原因ですが、
私はフラッシュバックを起こしたせいだと思っています」
「フラッシュバック……」
永倉恭介が反芻する。僕はテレビで聞いたことがある
言葉だと思いながら、黙って小林医師の話を聞いた。
「過去の辛い体験や記憶が、ある刺激によって突然
甦ってしまうという、あれです。DIDの患者は発生頻度が
高いと言われていますが、弓月さんの場合、“あなた”に
会ってしまったことが、フラッシュバックの引き金に
なってしまったわけです」
小林医師の眼差しが永倉恭介、その人に向けられる。
彼は思い当たる節があるのか、
もしかして、と口を開いた。
「それは俺が、ゆづ…弓月さんの前の男に似ている
ことが原因、ということですか?」
「その通りです。あなたは、弓月さんの……
亡くなったお義兄さんに、驚くほどよく似ている」
再び、室内が静まり返った。
おそらく、僕だけでなく、永倉恭介の思考も
追い付かなかったのだろう。
目を見開いて言葉を失くしている。
何しろ、今の話を整理すると、
永倉恭介が弓月のかつての恋人に酷似していて、
その恋人は、亡くなった弓月の義兄だと、いうのだ。
もはや、何に驚けばいいのかわからない。
「前の男が義兄で……死んでる、って?」
そう、永倉恭介が呟いた時だった。
テーブルの隅でずっと沈黙を守っていた父親が
口を開いた。
「実は私……早くに妻を亡くしてまして、それで、
あの子が17歳の時に、再婚したんです。
お互い連れ子だったものですから……
弓月に2つ年上の義兄ができました。
これがその、弓弦(ゆづる)です」
父親が財布の中から一枚の写真を取り出した。
少し離れた席から差し出されたそれを、
永倉恭介が受け取る。僕は隣から彼の手元を
覗き込んで、そして、絶句した。
-----似ている。
というより、あまりに似すぎていた。
背中の半ばまである長い髪を風に揺らしながら
幸せそうに微笑む弓月の、その肩を抱きながら
目を細めている青年。
二人の、学生時代の写真だと言われて、
信じない人がどこにいるだろう?
強いて言えば、弓月の義兄、弓弦の口元には
ホクロがあり、地毛なのか染めているのか、
永倉恭介よりも髪の色素が薄く見える。
「驚いたな。本当に。そっくりだ」
永倉恭介が複雑な顔をしながら
写真をまじまじと眺めた。僕も頷く。頷いて、
チクリと胸が痛んだが、その理由はわからない。
弓月さんが意識を失って倒れた原因ですが、
私はフラッシュバックを起こしたせいだと思っています」
「フラッシュバック……」
永倉恭介が反芻する。僕はテレビで聞いたことがある
言葉だと思いながら、黙って小林医師の話を聞いた。
「過去の辛い体験や記憶が、ある刺激によって突然
甦ってしまうという、あれです。DIDの患者は発生頻度が
高いと言われていますが、弓月さんの場合、“あなた”に
会ってしまったことが、フラッシュバックの引き金に
なってしまったわけです」
小林医師の眼差しが永倉恭介、その人に向けられる。
彼は思い当たる節があるのか、
もしかして、と口を開いた。
「それは俺が、ゆづ…弓月さんの前の男に似ている
ことが原因、ということですか?」
「その通りです。あなたは、弓月さんの……
亡くなったお義兄さんに、驚くほどよく似ている」
再び、室内が静まり返った。
おそらく、僕だけでなく、永倉恭介の思考も
追い付かなかったのだろう。
目を見開いて言葉を失くしている。
何しろ、今の話を整理すると、
永倉恭介が弓月のかつての恋人に酷似していて、
その恋人は、亡くなった弓月の義兄だと、いうのだ。
もはや、何に驚けばいいのかわからない。
「前の男が義兄で……死んでる、って?」
そう、永倉恭介が呟いた時だった。
テーブルの隅でずっと沈黙を守っていた父親が
口を開いた。
「実は私……早くに妻を亡くしてまして、それで、
あの子が17歳の時に、再婚したんです。
お互い連れ子だったものですから……
弓月に2つ年上の義兄ができました。
これがその、弓弦(ゆづる)です」
父親が財布の中から一枚の写真を取り出した。
少し離れた席から差し出されたそれを、
永倉恭介が受け取る。僕は隣から彼の手元を
覗き込んで、そして、絶句した。
-----似ている。
というより、あまりに似すぎていた。
背中の半ばまである長い髪を風に揺らしながら
幸せそうに微笑む弓月の、その肩を抱きながら
目を細めている青年。
二人の、学生時代の写真だと言われて、
信じない人がどこにいるだろう?
強いて言えば、弓月の義兄、弓弦の口元には
ホクロがあり、地毛なのか染めているのか、
永倉恭介よりも髪の色素が薄く見える。
「驚いたな。本当に。そっくりだ」
永倉恭介が複雑な顔をしながら
写真をまじまじと眺めた。僕も頷く。頷いて、
チクリと胸が痛んだが、その理由はわからない。
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