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【運命の交差点】
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はっ、として一歩後ろに下がる。
と、ドアの隙間から白髪交じりの男性が
顔を覗かせた。
「はい」
返事をひとつして男性がじっと僕を見つめる。
落ち着いた印象のその人は、涼し気な目元と
細めの鼻筋が、どことなく弓月に似ていた。
----弓月のお父さんだ----
そう頭が理解した瞬間、僕は廊下に立たされて
いる子供のようにピンと背筋を伸ばしていた。
「あの…夜分、突然すいません。
遠野と申します。弓月さんは、
ご在宅でしょうか……」
“ご在宅”なのを十分承知の上で、
僕は窺うように彼の顔を見た。
驚いたように大きく目を見開いたその人が、
後ろ手にドアを閉めて僕の前に立つ。
僕はもう一歩後ろに下がって、僕よりも
幾分背の高い彼の顔を見上げた。
「あの、弓月とはどういった……」
ドアの向こうを気にするように、小声で
そう言うと、彼は僕の答えを待った。
「……僕は、そのっ……」
-----どういった関係か-----
と、唐突に弓月の“父親”に聞かれて、
体中の血が顔に集まってしまう。
考えてみれば、心の準備も何もないまま、
僕は“恋人”の父親に会ってしまったのだ。
それでも、ここで第一印象を悪くする
わけにはいかなかった。
僕はキッと唇を引き締めると、小さく息を
吸い込んで口を開いた。
「弓月さんと、真剣にお付き合いをさせて
いただいています。遠野和臣と申します」
深く頭を下げて、ゆっくり顔を上げる。
“真剣に”とあえて強調したのは、
弓月との“結婚”を考えているという
僕の意思が、相手に伝わって欲しいと
思ったからだ。
「……そうですか。あなたが」
僕の答えを予想していたのだろうか?
ふっ、と肩の力を抜くように緩く息を
吐くと、少し困ったように眉を寄せて
こめかみを擦った。
「申し訳ありませんが、あの子はもう
眠ってしまったようで…また、
日を改めていただけると……」
チラと一瞬、視線を泳がせて言った
彼の言葉には“嘘”が透けて見えた。
けれど、眠ってしまったと言われれば、
そうですか、と答える以外選択はない。
僕は僅かに目を伏せてそうですか、と
口にすると顔を上げて微笑を向けた。
「じゃあ、また明日来ます。突然、
押しかけてすいませんでした」
もう一度、深く頭を下げてくるりと背を
向ける。出口に向かおうと歩き出した僕の
背を、「あの」と躊躇いがちな声が止めた。
と、ドアの隙間から白髪交じりの男性が
顔を覗かせた。
「はい」
返事をひとつして男性がじっと僕を見つめる。
落ち着いた印象のその人は、涼し気な目元と
細めの鼻筋が、どことなく弓月に似ていた。
----弓月のお父さんだ----
そう頭が理解した瞬間、僕は廊下に立たされて
いる子供のようにピンと背筋を伸ばしていた。
「あの…夜分、突然すいません。
遠野と申します。弓月さんは、
ご在宅でしょうか……」
“ご在宅”なのを十分承知の上で、
僕は窺うように彼の顔を見た。
驚いたように大きく目を見開いたその人が、
後ろ手にドアを閉めて僕の前に立つ。
僕はもう一歩後ろに下がって、僕よりも
幾分背の高い彼の顔を見上げた。
「あの、弓月とはどういった……」
ドアの向こうを気にするように、小声で
そう言うと、彼は僕の答えを待った。
「……僕は、そのっ……」
-----どういった関係か-----
と、唐突に弓月の“父親”に聞かれて、
体中の血が顔に集まってしまう。
考えてみれば、心の準備も何もないまま、
僕は“恋人”の父親に会ってしまったのだ。
それでも、ここで第一印象を悪くする
わけにはいかなかった。
僕はキッと唇を引き締めると、小さく息を
吸い込んで口を開いた。
「弓月さんと、真剣にお付き合いをさせて
いただいています。遠野和臣と申します」
深く頭を下げて、ゆっくり顔を上げる。
“真剣に”とあえて強調したのは、
弓月との“結婚”を考えているという
僕の意思が、相手に伝わって欲しいと
思ったからだ。
「……そうですか。あなたが」
僕の答えを予想していたのだろうか?
ふっ、と肩の力を抜くように緩く息を
吐くと、少し困ったように眉を寄せて
こめかみを擦った。
「申し訳ありませんが、あの子はもう
眠ってしまったようで…また、
日を改めていただけると……」
チラと一瞬、視線を泳がせて言った
彼の言葉には“嘘”が透けて見えた。
けれど、眠ってしまったと言われれば、
そうですか、と答える以外選択はない。
僕は僅かに目を伏せてそうですか、と
口にすると顔を上げて微笑を向けた。
「じゃあ、また明日来ます。突然、
押しかけてすいませんでした」
もう一度、深く頭を下げてくるりと背を
向ける。出口に向かおうと歩き出した僕の
背を、「あの」と躊躇いがちな声が止めた。
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