Diary ~あなたに会いたい~ 

橘 弥久莉

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【運命の交差点】

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繋いだ手が後ろに引かれ、僕も足を止める。

「…弓月?」

怪訝な顔をして振り返えると、

怯えるように表情を止めた弓月が、

前方の電柱辺りを凝視していた。

「どうか…したの?」

彼女のただならぬ様子に、思わず言葉を

詰まらせながら、その視線の先を辿る。

けれど僕が見た限り、街路樹の間に建つ

電柱の周辺は明るく、不審な人影はない。

行き交う車のライトが、木々やその影を

薄く動かしてはいても、特に恐れるような

ものは何も見当たらなかった。

「帰ろうよ?弓月」

僕は首を傾げながら繋いでいた手を離すと、

弓月の背に腕を回し、肩を抱いた。

つもりだった。

瞬間、僕の腕はその肩に触れる前に

弾かれてしまう。

「弓月っ!?」

突然、腕を振り払って駆け出した弓月の

顔は見えない。

わけがわからず、一瞬、呆けてしまった僕は、

数秒ほど遅れて彼女の後を追った。

入り口まであと2メートルもなかった

花屋の扉が、目の前でガシャンと閉まる。

ドアノブに下げられていた“close”の札が

カタカタと音を鳴らして大きく揺れた。

吸い込まれるように、弓月の背中が店の奥へと

消えていく。僕はただ、ガラス越しに弓月の姿を

目で追うことしか出来なかった。


-----いったい、何があったというのか?


ほんの数秒前まで僕の隣にあった弓月の

顔を思い出しても、皆目見当もつかない。

彼女が何に怯え、何から逃げたのか?

その答えは、やはり弓月の口から聞く

しかなさそうだった。

僕はひんやりと冷たいドアノブに手を掛けて、

誰もいない店の中に足を踏み入れた。


キィ、と乾いた音をさせながら後ろ手に

扉を閉める。

いつもなら明るい照明を浴びて生き生きと

そこにいる花たちが、夜の闇を吸い込んで

ひっそりと色を落としていた。

僕は物音を立てないように息を潜めると、

白い壁に囲まれた薄暗い空間の中ほどまで

進んだ。


-----さて、どうしたものか。


店の奥を見れば、この家と店とを繋いでいる

であろう扉があり、小さな小花型のライトが

ぼんやりと辺りを灯している。

誰かを呼び出すためのインターホンは

その扉のどこにも見当たらず……

考えてみても僕に選択肢はなかった。

「すみません、あの…すみません!!」

申し訳ないと思いながらも、

僕は扉をノックしながら声をあげた。

シンと冷たい静寂が僕の周りを包んで、

ゴクリと唾を呑む。

弓月に聞こえなかったのだろうか?

奥に父親もいるはずだ。

僕は躊躇いながらも、もう一度

声を上げようと、息を吸った。

その時、扉の向こうに人の気配がして

カチャリとドアノブが回った。
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